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私の日記  作者: コーレア
002 伊賀編
35/146

030415 ピュア→自習

 鮎魚女さんと松栄さんは女性。

 木菟は「ピュアだから手伝いはするぜ!」との事。


「ありがとう」

「んっ。松栄さんも終わった?」

「ええ、ちゃんと茉優に履かしたわよ」


 なので、自然と私が時鳥(ほととぎす)さんをお姫様抱っこする事になる。

 高等部の正門の前で初等部・中等部の時と同じく口頭で門の前に立っていた先生に事情を話し、高等部1階の下駄箱で靴を履き替える。

 中は暖かい靴みたいなスリッパをしっかりと履いて、私達4人は校長室の隣にある保健室に向かう。

 一定のリズムで首もとにかかるあれは最初は緊張したがなるべく意識しない事にしたし、周囲からの視線もむず痒さはあるが慣れた。慣れって怖いなあ、と一人心地に思っている間に保健室に着き、木菟がノックをして少し体を私のために横にずらしながらドアを開ける。


 直後、見事なアッパーが、木菟ではなく私の顎にクリーンヒットし、脳が大きく揺さぶられた。


 後ろに倒れていこう、何があろうとも。

 点滅する視界には、眼前に何かあるのが見えた。だから、脳を揺さぶられた事でバランス感覚がおかしくなった体に力を込めて、両膝を折る。

 横から縦に時鳥さんを移動させて、自分の胸の所に彼女の顔が来たのを願いながら、私は背中から木の地面に体を叩き付けられた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 味覚は特になく。

 視覚は純白の天井。

 聴覚はカリカリとペンと紙の音など。

 嗅覚は病院や保健室の特有の匂い。

 そして、触覚はもふもふとした布団と右手の人肌の暖かさ。


「…………」


 まずは、触覚の暖かさの正体を見ることにする。

 右の方を見るとすぐに答えがわかった。


「……時鳥さん?」


 小さく呟いたつもりだったが、私の固い腰の辺りを枕にしていた彼女は起きて、緩慢な動作の後1度視線が合う。


「先生。羽柴さんが起きました」


 特段慌てる様子もなく、しかし自分の両手で私の右手を握りしめたまま、彼女は先生を呼ぶ。

 ペンを置く音がして1拍経った後、ベッドを保健室を仕切っていた純白のカーテンの一部が開けられる。


「体調はどう? 羽柴政宗君」

「顎が少し痛むだけです、先生」

「あれは、見事に入ったからね」


 30代前半くらいの先生が、そのまま私の診察に入り、私はされるがままに、時鳥さんはやっと右手から両手を離してくれて、椅子に座りながらじっとしているのが視界の端に映った。

 簡単な診察が終わり、笑顔になった薬師先生は、その笑顔のまま1つの質問をぶつけてきた。


「授業どうする?」


 ……すっかり忘れてたぜ。

 腕時計を見ると午前10時12分を指していた。という事は、英語をすっぽぬかして2時限目の現代文が始まっている事になる。3時限目は魔法工作で、現代文は多分あの小説の第1段落のまとめのはずだから……。


「3時限目から出て、それまで事の顛末(てんまつ)を聞いてもよろしいですか?」

「もちろん」


 そして、時鳥さんが何故まだ保健室にいるのかも、だな。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 動物が好きな人でも例外はある。

 女性ならGが大嫌いな人も多いだろうし、他の人から見れば「なんでこの動物が?」と言ってしまうような動物が嫌いな人がいる。さらに、事故死した動物の死体を見ることで、一時的ながらもその動物を見たくない場合もあるだろう。


 今回の場合。


 徐々に進む森林伐採や環境の変化の影響か山の下で見掛けられるようになった妖怪『送り狼』が轢かれる場面を目の前の北近畿鉄道左淀線の踏切で見て、学校には来たもののそのトラウマが再燃してきて、そして保健室に近付いてきた妖怪の気でパニックになった四十雀(しじゅうから)さんが、ドアが開いた直後にアッパーをしたらしい。

 何故アッパーだったかと言うと、私の身長で言うと肩の辺りから特に気が感じられたから。私のカバンの中に引っ込んだダンディな動物の物だろう。


「本当にごめんなさい」

「たいしたケガにはならなかったし大丈夫だよ」


 それを当事者の彼女から、3時限目までの休み時間の時に聞いた私は、平謝りをする彼女を許す。私も悪い所があるし。

 保健室にいた理由がわざわざ「お礼を言うために」だった時鳥さん、その時鳥さんの後ろの席で仲が良い松栄さん、私が女子3人に挟まれるのは流石になので「手伝うんだろ?」の一言で抑え込めた木菟の5人で、魔法工作の実技が行われる部屋に一緒に向かう。

 四十雀さんには害意は無かったようだし、彼女のおかげで『そもそも何故鮎魚女さんと登校していたのか』という質問を、木菟から聞かれる事は無さそうなので、いわゆる等価交換になる。


「ちょっと良いかな?」


 石楠花(しゃくなげ)さんだった。

 日常を撮るため&ちょっとした取材のために聞いてきた新聞部の彼に、少し朧気(おぼろげ)ながらも遅れた理由を話して、彼が四十雀さんに質問している間に、魔法工作の授業を行う工作室に着く。

 中に入ると、長机がずらりと並んだ中学校の時の技術室と同じような作りの部屋の一番前にある黒板の前に、多くの人が集まっていた。


「所用のため自習か……」


 魔法工作担当の先生とは別の字で書かれた1文を見て、今日はこれで終わりだという意味が(こも)っているような声が後ろから聞こえてくる。

 思わず振り返ると、ちゃっかりと時鳥さんの手を引きつつ、肩を落としながら自分の席に向かう松栄さんがいた。


「やっぱり理系なのかね」

「さあ」


 木菟と一言交わした後、ドアからプリントの束を持った見知らぬ先生が現れたので、残りの3人も慌てて席に向かう。

 結局、松栄さんは1日中活気が無かった。

 その後、石楠花さん(いわ)く、先生が突然出張となった理由は「伊賀で起きたテロ事件」が原因だというのを聞いた。木菟と一緒に食べる私と薫さん、それに今日は窓側のアバーエヴァさんの席の周りで食べていたため聞こえたらしい鮎魚女さんの3人に、少し気まずい空気が流れたのは、言うまでも無いだろう。

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