030414 苦労人首相
一方、鉄道大臣の上の立憲政友会総裁の田中義一首相は、事件から半年後の12月、連邦陸軍の関与を認めたうえで、関係者の処分を行う旨の上奏を日ノ本の国家元首を兼ねる帝、元は魔法に閉ざされた寒極王国の王家で皇族になった北宮家当主、そして元は羽合を1世紀統べていたハワイ王国の王室でやはり皇族になった東宮家当主により構成される三桜会議に行った。
しかし、徳川領の反政府勢力に多大な影響を与えた者達の出身地たる長州に生まれて蔑まれながらも陸軍で出世していき政界に入って登り詰めた田中首相に対して、伊予の武士の息子であった白川義則陸軍大臣は、三桜会議に対して「軍に大きな問題はない」と3回も上奏。さらに、陸軍全体で田中首相に圧力をかけさせる。
更に、爆殺事件の関係者を内地に動かして行政処分で済ませようとした陸軍の動きをみて、田中首相は軍事法廷による処分を断念する。
「伊予の小早川氏は元々の本家である中国筋の毛利氏や讃岐の仙石氏などの羽柴系大名を監視する役割を担ってきた事から重用されてきたのに対し、毛利氏は国内で独断専行で薩摩と同盟を結ぶ輩もいたので立場が悪かったのもあると言われています」
兎に角、田中首相は翌年6月の上奏で「陸相が奏上いたしましたように関東軍は爆殺には無関係と判明致しましたが、警備上の手落ちにより責任者を処分致します」とした。
しかし、この転換に対して三桜会議は「この事件を犯人不明としてその責任者を単に行政処分で終らせたという事は、帝国の陸軍の綱紀を維持する所以でないということになり、お前の最初に言った事と違うじゃないか」と強くして「田中総理の言う事はちっとも判らぬ。再びあいつの言葉を聞く事は自分は厭だ」と勅勘を言った。
言われた狭心症患者でもあった田中首相は涙を流して恐懼し、引責辞任の腹を決め、上奏から1週間後に内閣総辞職を行う。
「そして、爆殺事件で揉めていた6月に、鉄道大臣は史上まれに見る免許の許可の大盤振る舞いを行いました。
具体的には、免許申請の時から馬鹿馬鹿しいと言われていた森ノ宮から四條畷を経て生駒山地を越えて奈良に至るルートをトンネルもなしに作ろうとしていた河内出身の反財閥系商人による東大阪電鉄、それに実際に作られると並走する事から困るので申請していた京阪電気鉄道と燈川系の大阪電気軌道の合同出資による奈良電気鉄道が申請していた伏見から淀を経て玉造に至る大阪延長線、そして名古屋急行電鉄です。
しかし、素人目で見ても交通政策に関する長期的展望が完全に欠落しているのがわかる免許の乱発に対して、当然ながら空前の愚策であるとして各方面の非難を浴び、特に東大阪電鉄と奈良電鉄を巡っては、不透明な資金の動きも見られたことから、最終的に大規模な疑獄事件に発展し、辞めたばかりの大臣のみならず京阪電気鉄道においても社長が連座し収監される事態になります」
社長は幸いにも有罪とされる事はなく、結果的に免許の交付が降りたこととなり、実現性が濃くなってきた。
しかし、実地調査を始めた矢先の10月、アメリカを震源地として不況が発生する。東洋戦争を英仏とは違い引き分けに持ち込んでカリフォルニアを連邦から譲り受け、ヨーロッパが漁業を営む大西洋とは違い太平洋に達したアメリカだが、西海岸開発によるバブルの崩壊、好景気に煽られた投機ブーム、需要を上回る大量の供給、そして同時期に行われた軍縮による軍需産業の不況が合わさり、大不況が巻き起こったのだ。
これに大打撃を受けたのが、連邦国内の農村だった。幕末からの首都圏とアヘン・アロー・東洋の3つの戦争を背景にして筑紫と濃尾は工業化は進んでいたが、当時は生糸生産で大勢力を築いていた九財閥の影響力が大きい東日本などは、その主な輸出先をアメリカにしていたのである。関東地震で大打撃を受けていてもである。
しかも、東洋戦争の頃から流れてくるようになった明からの米によって、生糸と同じく農村の収入源だった米も豊作だった事で物余りが発生。
そして、この東日本の不況が全国に拡大していく。
「明の近代化と人口爆発によって工業製品の大量生産の重心がそちらに移った事から商品市場が軒並み暴落。引き摺られるように株式市場、そして物価と株価の下落によって中小企業の倒産が相次ぎ、失業者が街にあふれ、国民一般の購買力も減少していきました」
そして、京阪電気鉄道はそれまでの好況を背景として社債や借入金で規模拡大を図ってきていた。そこにこの大不況である。京阪グループ全体の負債は1億円という恐るべき状況になった。
「1億円なら大したことないんじゃないの?」
「とんでもないです。当時の物価から見たら米の定量の値段は約2100倍ですから」
「…………えっ」
特に、莫大な設備投資をした新京阪鉄道は京阪間だが、京阪のどちらかの町に集中しているため収益は芳しくなく、資産に余裕のない京阪電気鉄道には予算的に不可能ということで、工事開始の延長を何度も出す作戦で延命をはかる。
今度は会社さえ設立されず風前の灯になりかけていた名古屋急行電鉄だが、ここに来て救いの手が差し出される。




