030427 焦り→驚き
「しかし!」
「これは緊急事態だ! 早く通せ!」
歓声が段々と大きくなる中、隊舎の通用口に私はいた。
弾薬庫がある故に封鎖されているエリアを通すか通さないかでもめている犬飼大佐と警備の軍人の傍らで、私の焦りは募っていた。
恐らくエプロンの人混みを抜けてきたなら、20分の列車には間に合わないだろう。しかし、30分の列車は間に合う。そこで捕まえるためにショートカットをしようとしたが、大佐だが実働ではなく裏方の立場にある犬飼大佐と、部外者を通さないように若い軍人は止めていた。
「くそっ! 司令に伝えろ! 犬飼は早退すると!」
返事も聞かずに走り出した犬飼大佐の後ろをついていくが、さすがに鍛えてきた軍人に間に合う事は出来ず、徐々に差は開いていった。
しかし、最新鋭のステルス爆撃機が展示されている格納庫を突っ切り、軍人だけが素早く通れる空きスペースを走り抜け、道を横切った先にある駐車場で、大佐がエンジンをかけた時に丁度乗り込める事が出来た。
「駅ではなく八日市の駅に向かう!」
急発進した車を驚いた表情で見る道に突っ立っている人々を横目に見ながら、駅の右側にある車用出入り口の前に辿り着く。
列車が曲がり終えて、直線に入っていく。その列車の中に山名さんがいないかを探すが、車両の半分に満たない人々の中に見つける事は出来なかった。
「途中に警察の検問がいます!」
「ありがとう!」
敬礼し歩行者を止める軍人達の傍らで、急発進しながら左に曲がっていく芸当で、まだ空いている国道421号線に無理矢理入る。
時々、前の車の間に割り込みながら進んでいき、列車に並走するがやがて止まらされる事になる。421号線を斜めに横断する踏切に合わせて赤を灯した信号に引っ掛かったからだ。
「短距離は!?」
「ありがとうございます!」
不要な会話を省いて、私は車道に飛び出す。
青信号の歩道を走り、矢印に沿って多分だが州道を北に走る。
そして、駅前の広場の前にある信号が丁度青になったので、なるべく減速せずに走り抜いて、音からして列車が到着した直後の八日市駅の改札口に辿り着く。
「親が忘れ物をしました!!」
駅員に叫ぶと、一瞬だけ迷った後、扉を開けてくれた。
『必ず戻ってこいよ!』という叫びに手をあげて応え、改札口の目の前にある基地線のホームに立つ。
2面4線のホームの一番東側の1番線は通常は、貴生川・大阪方面の各停の待避用に使われるが、今日は基地祭が行われるために封鎖され、1番線の更に東にある0番線で基地方面の客を捌いている。
しかし、帰りは基地の方で帰りの行き先方面の切符が買えるから、1番線側のドアが開けられる。なので、1番線と2番線があるホームに急いだが、しかし既に乗客は全員降りた後のようだった。
「すれ違ったか!」
駅舎からそれぞれのホームに通じる多くの人がいた跨線橋か階段を駆けてきた時にすれ違ったか、それとも既に向かいのホームにいるか。
踵を返し、今度は階段を駆け上がる。
『まもなく列車が出発します』
さっきから呼び出し音ばかりを聞いている右耳の代わりに、左耳が猶予がないことを聞いてくれた。
悲鳴をあげる体を動かして、今度は3・4番線のホームに駆け降りる。しかし米原行きの各停と安土行きの各停の乗客が乗ったホームはがらんとして、直ぐに山名さんがいない事はわかった。
だから、先に安土行きの各停の横を走って、次に米原行きの各停の横を走って彼女がいないか確かめる。
「残るは……」
改札から出ない場所、と言えば改札か阪名急行の2ヶ所しかない。
何度目かの留守番電話に入った電話を切って、跨線橋を横断し、階段を駆け降り、改札口の目の前にあるトイレの前に立つ。
そこからは、丁度男女の作業服を着た人々が、男性が段ボールを2つ積んだ台車を、女性が掃除用具を運んで出てきた所だった。
その2人に道を譲った後、もう1回電話を鳴らす。
「きゃあああ!」
「うひゃあああ!」
2コールした時に女性の悲鳴が、1拍遅れて男性の悲鳴がそれぞれのトイレから響いた。
だから、私は手前の女子トイレに駆け込む。
「っ!?」
トイレの奥の個室のドア。
そこに、下着しかつけていない妙齢の女性が倒れていた。出血は無いが、こちらに向けた顔から気を失っているのは明らかだった。
腰を抜かした女子高生の横を通り抜けて、女性の意識を確認する。呼吸、脈拍ともに正常。
「大丈夫ですか!?」
駅員が駆けつけてきたが、私は既に女性の下着だけの下半身が寝そべっている洋風トイレの個室の床に意識を奪われていた。
そこに散乱しているのは清掃会社の名札、財布、そして今も鳴り続けるスマホ。山名家で見た山名さんの携帯だった。
「あなーー!」
「おい!」
思わず、駆けつけてきた女性の両肩を掴んでいた。
「清掃会社! 奴らは何処から出る!?」
「えっ!?」
「奴らだ! あの人が本当の清掃会社の人だろ!?」
指差して、ようやく被害者が誰かわかったらしい。
顔を青ざめ、虚ろな目付きでこっちを見た駅員は、震え始めた唇で告げた。
「今日は……緊急だから……駅前のロータリーに」
「ありがとう!」
『ロ』の時点で、既に走り出していた。
男性トイレから出てきた駅員を無視し、トイレの前の狭い出入り口の前に集まり始めた野次馬を押し退け、映画で見た要領で改札機を飛び越え、ロータリーの前に出る。
「アイツか!!」
既に、車は走りだし、青信号に差し掛かろうとしていた。
ここからぶっぱなして安全に止められるか、頭の中でおおよその計算をたて始めた直後に声がかかる。
「政宗?」
安土に住む氏衛門の声が。
ヘルメットを外した氏衛門を見て、その前に座るライダーがヘルメットを外そうとしているのを見て、思わず何かに感謝した。
「追って!」
「えっ?」
「クラスメイトが拐われた!」
「乗りなさい!」
氏衛門に変わり大型バイクの後部座席に乗った直後、氏衛門のお姉さんである由妃さんがバイクを急発進させる。
体を持っていかれそうになるが、由妃さんの体を持って何とか耐える。
「どれ!?」
「清掃会社の車!」
「ヘルメットは!?」
「氏衛門!」
左に曲がり、道を北上し始めた清掃会社のトラックに追い付こうとするが、それより先にトラックが気付く。
「惚れ惚れするわね!」
急にスピードを上げ、少なくない量の車の間をすり抜けるように走り始めたのだ。
しかし、バイクを運転するのは元白バイの由妃さん。さらにスピードを上げて、赤信号もさらりと無視して、徐々にトラックに接近していく。
「準備は!?」
「出来てます!」
ある程度接近したら、炮烙玉の時と同じく磁力でトラックの上に貼り付き、電子系統を操作する。それで止める。
その算段をとっていたが、その前に動きがあった。
「まさか!?」
愛知川沿いの堤防に差し掛かった時に、トラックの荷台の扉が開かれる。
猛スピードで揺れているにも関わらず器用に膝立ちをする男は、一瞬だけこっちを見た後、手前に寄せていた段ボールを勢いよく押した。




