030426 再会→提起
「半日ぶり、ですね」
駅の西側の北近畿鉄道のホームから東側の大名鉄道のホームに行ける跨線橋。両者の直通列車が通る中央のホームの階段を上がった辺りに、私服姿の姫音さんはいた。
黒に近いニット地のワンピースの服装は、大人しそうな見た目に沿っている。まあ、本当は活発と言えるかもしれないほどの性格なのだが。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよっ、ひーちゃん!」
ひーちゃん、とは鈴蘭が名付けた河尻さんのあだ名。薊や薫さんと言った風に、下の名前の文字を取るのが我流らしい。薫さんを呼んだ時には、何故かクラスの中が変な空気になったが。
戸隠の実家から送られてきた籠を右手に持ちながら、私達は東側のホームに降りて、大名の列車を待つ。
土曜日なので混んでいる列車に乗り込み、伏見学校の校舎があった伏見城を見上げている姫音さんが城の簡単な歴史を説明している間に、列車は伏見の街並みを過ぎて、ついでに北近畿鉄道宇治線の上も通って、いよいよ長大な巨椋大橋に差し掛かる。
「あれが事件現場ですね」
まずは宇治川を渡っている時に、小声である一点を指差しながら彼女が言う。
宇治川と巨椋池に挟まれた中洲が、車窓から見下ろす事が出来るが、その一角にある巨椋池の沿岸にある家の前に警察車両が止まっているのがわかった。
「ですね」
なんとも言えない気持ちで見ている内に、一時の陸地を過ぎた列車は巨椋池の上に躍り出た。
「わぁ」
思わず、といった風に姫音さんが声を上げる。
東は同じ高さの国道24号線を挟んで宇治市の街並みが、西は国道1号線を挟んで淀城が見える。その内の西側の景色に鈴蘭と河尻さんが見ている内に、列車は減速していく。
そしてアナウンスは、まもなく巨椋駅に着くことを告げた。
京都市内には景観条例なるものがあり、特に高さには注意している所がある。大阪や名古屋みたいに高層ビルが連なっていたら、せっかくの和の景色が無くなるからだ。
官鉄京都駅前にある北近畿鉄道関連会社運営の京都タワーは、その端緒になった建物であり例外的に認められた建物だが、それが通天閣と同じ年に出来てからは、京都市内に一際高い建物は出来なくなった。
京都市の隣にある伏見市も、街並みが安土時代の建物であり左右に有名な城があることから同じような雰囲気になっていたが、論争が国会にまで及んだ巨椋池問題の最終結論として、北近畿鉄道が巨椋池に長大な橋を作る事を決めて、市に途中駅とそこの駅ビルに展望タワーを作る事を願い出る事を決めると揉める事になる。
「古くからの景観、というコンセプトは隣の京都市の方が大きく、巨椋池も伏見市だけではなく宇治市や八幡市などとの共有物でした。なので、新たな観光資源として認めようという賛成意見も出たのです」
河尻さんがパンフレットを時々見ながら喋っているのは人工芝の上。隣では鈴蘭が寝そべっている。
周りでは子供達がはしゃぎ回る中、私達はのんびりとしていた。
「結局、市長選挙と議会選挙が行われ、賛成派が両方を取り、この巨椋タワーが出来ました」
楽しそうに説明しながら、河尻さんにとっては背後にある巨大なタワーを見上げる。
2本の線路を挟んで東西に建つビルの屋上を繋げて、更にその上に『海の上に建つ灯台』のように灯台に近い形のタワーがある。
屋上庭園、と名付けられた一部が芝生な所は高さ85メートルくらいに対して展望台は200メートルくらい。くらい、というのは池の底を基準とするか水面を基準にするかでわけられるからとの事。
「あいにくの曇り空ですね」
「はい。まあ暑くなくて良し、という事で」
「はい」
やっと席が空いて、芝生の近くの喫茶店のウェイトレスさんが自分達の番号を呼んでいるのが聞こえた。返事をして、案内された席に3人で座ると注文していた物がすぐに来た。
まだ10時なので軽めの物を1つ頼み私が宇治茶、鈴蘭が抹茶、河尻さんがホワイトのコーヒーを頼んでいる。
それらを自分の傍らに置き、河尻さんがカバンからファイルを取りだし、更にその中から複数の用紙を取り出す。
「さて。書きはじめましょっか」
声は周りに聞こえるように気軽に、目は笑わず彼女が言う。
その存在は聞いていたが、見ることは無かろうとどこかで思っていた代物。
『対学園捜査局捜査提起書』
そう印字された紙が、目の前の机に置かれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「会長?」
「んっ?」
「学園捜査局ってどういう者でしたっけ?」
「……12年学園にいただろう?」
「関わった事無かったのに知りませんよ。動いている事もわからないんでしょ、あの機関って?」
「前の村井会長曰く20年で5回動いてたらしいぞ」
「……物騒、なんですかね?」
「その内の1件が爆弾未遂事件だからなあ」
「えっ!?」
「まあ、それは置いといて」
「えっ? あのーー」
「置いといて?」
「はい」
「スクール・ビュロウ・オブ・インベスティゲーションは、1983年に出来た学園では比較的新しい組織だ。そして、その存在は国法の方の燈川法で決められている」
「国法だと警察の一種ですか?」
「司法警察ではなくて行政警察の方だがな」
「?」
「おおざっぱに言えば警察や検察といった刑事訴訟法で規定されているのとその他の法律で規定されているのだ」
「その他の法律とは?」
「保健所とか公安によるものを規定している法律だ。SBIも、この学園の事を規定した燈川法を改定する形で、学校の捜査機関として認められた」
「へー」
「それに案件があったとしても現行犯以外だと容易に動けない」
「どうしてですか?」
「今からヒメが行おうとしている『捜査提起』、つまり『こういう事件があって警察には頼れないから捜査してほしい』という意味合いを込めた文書は、この学園から7つの機関で捜査をするのが相当かどうか判断される」
「とは?」
「連合生徒会、学園教師会議、長会、魔法省、学園公安委員会、警察庁、そして内閣だ」
「………………」
「ちなみに、どの場合の議決も3分の2の賛成を必要としていて、過去の案件では4つが現行犯、1つが2つ目の爆弾事件があった後だ」
「………………」
「まあ、良くて長会までだろうな」
100話目。21万7949文字らしいです。
ですが3週間も経っていないという…………。




