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非リア同盟企画参加作品

僕の非現実

僕が、ドラゴンと逢ったのは桜が咲くある春の日のことだった。


僕は太陽の光に照らされて、より美しく輝く満開の桜たちに魅入っていた。

少し前に降った雨のせいで地面はぬかるんでいたが、桜には透明な雨の雫がついていてそれが太陽の光を反射し存在感を放っていた。

誰でも見たことのあるような晴天の下の桜とは違い、曇天で周りにうるさい音もない中潤んだ瞳のような桜。

僕だけが知っている、今しか見ることのできないそんな姿だった。

誰にも見せたくない―――そんな独占欲が湧き出るほどだった。


そんな思いが悪かったのか、突然の強風により桜はその桃色の花びらは容易に木から離れ舞い散った。


桜の嵐―――


呆然と立ち尽くす僕の周りには、命を絶たれた淡い桃色の桜の花びらのカーペットができていた。

半分以上散ってしまった桜の木から視線を外し、しゃがみ込む。

そして、壊れ物のようにやさしく静かに、落ちている花びらを一枚手に取った。


まだ、咲き続けるはずだった。

人間のくすんだ心を癒すはずだった、花びらたち。

自然ってこんなものなのか。


心と同じように僕に黒い影がさした。

―――また、雨か。

いっそ、土砂降りなら心も洗われるだろうか。

そんな思いとは裏腹に、次にやってきたのはまたもや強風だった。

さっきと違うところはバサバサと音が響いていること。

僕はとっさに空を見上げた。


「ちょっ……えっ!?」


僕の真上には人間の五倍以上もある黒い……竜がいた。

夢か!?夢だよな!?

ここは、日本だぞ。これじゃあ、ただのファンタジーじゃねぇか!?


焦りも長くは続かず、冷静な判断ができるようになった。

とりあえず……短かったけどいい人生だった。

こんな綺麗なとこで死ねるなら本望……ぬかるんでるんだった。

まぁいい。来世でまた……


目を瞑り、現世に別れを告げていると大きな地震によって地面に音を立てて倒れてしまった。

とっさに目を開けると、その自信の原因が頭上にいたはずの黒い竜だということがすぐにわかった。

その竜が降り立ったのは、僕の上ではなく数メートル離れたところだった。


九死に一生を得る。

正にこのことだと思った。

とにかく……


「誰か助けろー!!!」


心の中だけで叫ぶことが出来ず、僕の声は大空に消えた。

その叫びに反応して竜が金色の鋭い目をこちらに向けたのは言うまでもない。

低い音で唸る竜に僕は腰を抜かして、ペタンと泥へと尻をついた。


『……人間か』


えぇ、そりゃあ人間ですよ。

逆に人間以外見えますか?

確かに遠い先祖は猿でしたが……。


『お主はなぜここにいる』


「………は?」


僕が心の声に応答していたのは恐らく、竜。

……夢じゃねぇよな。

漫画のように夢オチだと信じて頬へと手を伸ばし、つねって見るもののくるのは痛みだけだった。


『お主はなぜ、ここにいる』


さっきとは違い、声音に怒りが篭っていた。

あぁ、答えろってことか……。

そうは言ってもなぜと理由を聞かれると……


「桜が綺麗だったから?」


お前がほぼ散らせたけどな。

可哀想だとは思わないのか。


『桜が散ったのも必然じゃ。儂の登場が華やかになってたじゃろ?』


「桜のほうが綺麗だったけどな」


『主……儂のことを怖がらんのか』


まぁ……怖くないとは言わないがもう何言ったって無駄じゃないか。

夢ではないみたいだし、騒いだら食われそうだし。


『まぁ、その通りじゃな。また大声を出してたら食っておったかもな』


「……僕、口に出してたか?」


『主が考えておることくらい分かるわい』


この竜……実は神でしたてへっみたいな展開だったらはっ倒そう。

貫禄としては申し分ないけど、どこかむかつく。


『儂は神じゃぞ?どうじゃ?はっ倒すのかのう』


「……ここは死後の世界か何か?」


『自分の考えを捨てたんじゃな。まあ賢明な判断じゃ。死後の世界なわけがなかろう。ここはただの――異世界への通り道かの。儂の創った世界へのな』


「自分が創造神とでも言いたいのか?」


『事実じゃ』


夢だろこれ。

選ばれし者を異世界に勇者として……みたいな展開になってる!

心読めるなら分かるだろ!

帰らせろ!


『嫌じゃ』


プイッと効果音がつくくらい可愛く顔を背ける竜だったが、僕の怒りは積もる一方だった。

大体……なんだその喋り方は


『主のように変なやつの喋り方じゃ。最も、主よりも優しく面白かったがのう』


「余計なお世話だ」


『して、主よ。こんな時間まで外におっていいのか?家族が心配するであろう?』


家族……か。

僕は今、一人暮らしだった。

理由は思い出したくもない事故だった。

僕の背中にも大きな消えることのない傷がある。


父親も母親も……まだ幼かった妹も死んでしまった。

なぜ僕だけと思ったことだって数え切れないくらいある。

そんな時には決まってここにくる。


『ほう。うむ……主の家族は元気そうじゃぞ』


「それならいい」


僕がそう答えると、竜は空を見渡した。

そして、気のせいか目が光ったような気がした。


『主……早急にここを立ち去れ』


「え?」


『……もう間に合わんわい。儂の背中に乗れ。飛ぶぞ』


「何があるんだ?」


『グズグズするな』


僕は訳がわからないままだったが、好奇心から竜に乗ろうと思った。

……巨体過ぎて乗れねぇ。

心でそう思うと、バサッと音を鳴らし翼が目の前にあった。


『翼を踏んで早く来い』


「あ、あぁ」


僕の体重で踏んでしまっても大丈夫なのか。

恐る恐る、足を翼へ乗せる。


踏み心地は、クッション性のある毛皮……。

柔らかいけど、柔らかいけどっ!


「本当に大丈夫か?」


『心配には及ばぬが、ちぃと遅い。早くしろ』


そう言われても、当然のことながら竜の翼の上を歩くなんて初めてだ。

やっとのことで背中まで登ると、いきなり身体に重力がかかる。

微妙に見える地面はどんどんと離れていった。

とっさに竜の背中にしがみつくが、空へ舞い上がるスピードはとても早く今にも振り落とされそうだった。


『掴まっておれよ』


上に上がるのをやめたかと思うと、次は前に飛び始めた。

それもまたすごい速さで少しずつ後ろへとずり落ちる。


「ちょっと……急にどうしたの!」


『馬鹿者。何も考えずしっかり掴まっておれ』


「何もわからずにこのままいろって!?」


『聞き分けのない……。いいじゃろう。後ろを見よ。………最も後悔しても知らんがな』


最後の言葉が僕に届くことはなく、そっと後ろを見た。


「うわああああああああああ」


後ろからは真っ赤な竜がついてきていた。

僕の乗る黒竜の行動からして友好的だとは思えない。

しかもその赤竜の口からは、炎が見え隠れしていた。

時折、口を大きく開き僕たちの方に炎を放ってくる。

今も……火を吹くため前の動作を見せた。


――大丈夫だ。よけてくれる。


この時の僕の判断が甘すぎたことにあとで後悔する。


赤竜の放った炎は今までとは比べ物にならないくらい大きく、僕たちにまっすぐと向かってきた。

黒竜はそれに気づき、大きく体を傾かせた。

だが、少し反応が遅れたことで黒竜の翼に炎が当たった。


グルルと小さく悲鳴のようなものをあげると、頭が地面の方を向きどんどんと引き寄せられていた。


「うわああああああああああ」


今日だけで何度叫んだことだろうか。

だが、この状況で叫ばない方がおかしいと思う。

僕はどうにか黒竜が起きることを祈ったが、金色の瞳が見えることはなく大きな音と土煙を立てて墜落した。

幸い僕は黒竜の上にいたため艶やかな羽がクッションとなり怪我をすることはなかった。

そっと背中を撫でてやると、ピクリと動き次の瞬間には体を起こした。


「大丈夫か……?」


『大丈夫……とは言い難いが大丈夫じゃ。主に心配されるほどではない……』


あの赤竜はなんだと聞いたが、ドスンという赤竜が地面に降りた音と地震に似た揺れにかき消された。


『なぁ、創造神お前はいつから人間風情の守り神になった?前々から思ってはいたが……つくづく神に似合わねぇな』


『人間の守り神ではないわい。こやつには少々世話になったもんでな』


『どっちだって同じだ。お前は、その人間を守るために俺の炎をよけたんだからな。まぁ安心しろよ。お前も……その人間も罪として跡形もなく燃やしてやるから』


赤竜は銀色の目を細め、口元を軽く緩ませ僕を見た。

その視線に黒竜のときとは違う寒気と震えがやってきた。


『大丈夫じゃ……主に手出しはさせぬ。来い、儂が負けたらこやつも好きにするがいい』


『ほぅ……そのときはおいしく頂くことにするか』


「頼んだぞ、黒竜。お前を信じている」


自然と口からそんな言葉が出た。

僕は……信じていたんだな。


『任せろ』




とは、言ったもののさっきからずっと赤竜の攻撃を黒竜が防いでいて黒竜が攻撃に出ていなかった。

体力を回復する暇もなく、炎を受けたところからは血がポタポタと落ちていた。

そして、赤竜はその傷に攻撃をする。


「こくりゅ――」


そう声をかけた瞬間、赤竜の爪が黒竜の一番柔らかい腹に深く大きく傷をつけた。

黒竜はそのまま体を地面につけた。


『やっとくたばったか……』


「そんな……」


僕の目から涙が溢れ頬を伝う。

つい数時間前に会ったとは思えない、長年の友人が急に死んだようなそんな感覚だった。


『俺の好きにさせてもらうぞ、人間』


「勝手にしろ」


赤竜が僕の目の前に立ち、大きく口を開けた。

その時、僕は怖いとは思わなかった。

黒竜を失った悲しみが大きかったのだろう。

赤竜が僕に牙を立てた時……


赤竜が赤い血を吐いて倒れた。

何が起こったのか、全く理解ができなかった。

呆然と立ち尽くしていると


『危ない目に合わせたな……すまぬ』


「黒竜!?」


『儂が倒れたときにあやつにも今までのダメージがいくようにしていたからな……体力がないやつじゃ』


「生きててよかったよ……死んだかと思った」


黒竜は目を丸くしたかと思うと、誰にでもわかるくらい大きく口を開いて笑った。

人間のおっさんみたいに。


『儂はあれしきのことじゃ死なんよ』


「本当によかった……」


『主よ……こんな時間じゃ。家に帰って休むがよい』


「ここで……黒竜と寝る」


家に帰れば独りだ。

だが、ここには黒竜がいる。

温もりを感じていたかった。


『仕方のないやつじゃ……。ほら、寝ろ』


「あぁ……おやすみ黒竜。守ってくれてありがとな」


黒竜に寄りかかり、僕はそう言うとすぐに眠りについた。

黒竜は自分に寄りかかる小さな人間を見て小さく言った。


『さらばじゃ……楽しい時間じゃった』






目を覚ますとそこは自分の部屋のベッドの上だった。

服装だってしっかりとパジャマだった。


「夢……か?」


僕は昨日のことを思い返す。

確かに非現実的なことではあったが、夢と言うのは違和感があった。


ベッドから足を下ろし立ち上がり窓を開ける。

東の空からは朝日が上り始めていた。

眩しい……光。

光を十分に浴び、僕は制服へと着替えて外へ出た。

そして、ある場所へ向かった。


ある場所とは……桜の咲くあの丘だった。


そこは竜がいたとは思えないくらい桜たちが元気に咲いていた。

まだ落ちている花びらは少なく、木にしっかりとついていた。

やっぱり夢だったのだろうか……。


桜の木にそっと手を触れ、耳を澄ますとあの黒竜の声が聞こえた気がした。





いつでも見守っているぞ…………

授業中に思い浮かんだおかげで設定ごちゃごちゃでした

残念クオリティでごめんなさい……。

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