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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
ゆるふわ金髪少女 折部詠ルート
54/56

五話「吟詠の夜に、詩歌ありて」⑥

前2話、少々修正致しました。

少し読みやすくはなっていると思います。

 詩歌をコンビニに置き去りにして、数分経った。

 俺はここで待つ、と言った。それは確かだ。


「店長が遅刻してどうするんですか馬鹿ですか」


 いや、榊に連絡しといたから、数分なら大丈夫だぜ?

 それよりどうしたんだ、こんなギリギリなのにコンビニ寄りたいだなんて。


「説明させないで! 早く行って下さいいい! 察してくださいよおおお! うわあああん!」


 泣きながら店に入る詩歌を見送ったのが数分前。

 こう言われては待つわけにも行かず、俺は詠とアザレアカフェに向かっているのだった。


「恭平って、ホントデリカシーないよねー」

「自覚はしているがお前にだけは言われたくない」


 飄々と笑う詠を睨んだ。

 彼女は気にしたふうもなく、微笑む。

 

「なんかねー」


 急にひとりごちる詠。初めて見る表情だった。

 悲しいとも楽しいとも違う、どこか達観したような笑み。

 俺はなぜだかそれを見て、すごく悲しく思った。


「どうしたんだよ」


 気がつけば、先を促していた。

 ごく自然に、口から零れた言葉だった。

 

「……わたし、今、楽しいよ」

「ドSだなお前」


 率直な感想だった。

 あまりにも真剣にそういうので、茶化さずにはいられなかった。

 しかし、先ほどの彼女の表情を思い出し、後悔した。


「詠」

 

 名を呼んだ。

 思えば、俺はこいつのことを何も知らない。

 突然人質として現れ、俺と組みたいとほざく。

 ”片倉”にも”選別”にも、そして俺の記憶にも、おそらく明るい。


「うん……?」


 詠はこちらを向かず、返した。

 その横顔はひどく儚く見えた。

 だから。


 自分でも、なぜそういったのかわからなかった。

 俺が紡いだのは、なんというか言葉のあやで。


「俺は、お前の事をもっと深く知りたい」


 自分の発した言葉の意味を理解するまで、数瞬。

 俺の悲劇は、詠の表情を見て、気づいた事。


「……え」


 いつも余裕そうな顔が、真っ赤に染まる。


 ――いや待て誤解だ。


 ああ、とうに取り繕える雰囲気ではなかった。


「だめ、だよ。恭平には大切な人、いるのに」


 やばいこいつはなにかとんでもないかんちがいをしている。


 慌てて取り消そうとする俺の肩を、何かが握った。

 それは、腕だった。

 か細く小さな指で、俺の肩は万力のように締めあげられる。

 遅れて、恐ろしい声が聞こえた。


「きょうへいくーん。また女の子口説いているんですかー?」


 詩歌だった。

 地獄の釜の蓋を開けたかのような怨嗟は彼女の口から。

 おかしい。絶対におかしい。


「いたいいたい! 誤解だ詩歌! 詠! おまえもなにか……」


 詠を見やる。

 誤魔化すでもなく。飄々と笑うでもなく。

 ぼんやりと夢のなかにいるように、そこに立ち尽くしていた。

 

「……詠?」


 俺の再度の問いかけに、詠は夢から覚めたように声をあげた。


「……あ、恭平……? わたし、なにか、おかしかった?」


 呆けたような質問。幼子のようだった。


――どうしたんだ。お前じゃないみたいだったぞ。


 とても、そうはいえない雰囲気だった。

 詩歌も異変に気付いた。

 俺の肩を握る力が弱まる。

 

「いや、別に。どうしたんだ? 寝不足か?」


 急遽取り繕う。しかし、詠に気付いた様子はない。


「あ、うん……。そうみたい、うふふ」


 そう言う詠の声には張りはなく。

 しかしこれ以上何かを言える雰囲気でも無かった俺と詩歌は、合流して歩き出す。


 だが。

 先ほどの詠の表情。

 何故か俺の胸を強く締め付けた。

 なぜだ。

 詠とは、先日初めて出会ったのに。


 この胸を突き刺すような痛みは……。


――俺は、過去に詠と出会っている?


 俺の心の中での問いに。

 当然ながら応える声は無かった。

 





 

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