表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
天然ウザカワ女子大生 早広叶ルート
47/56

四話「泡沫の夢をかなえ」⑭

「わわ、起きた」


 薄まぶたにかかる、可憐な声。

 聞きなれない音だった。

 

「おにいさん、だいじょうぶ?」


 目を開ける。

 少し息を呑んだ。それくらい、彼女と俺は密接な位置にいた。

 眩しいくらいの亜麻色。少し金がかかったその髪は、長く、艷やかで。

 俺を覗いていた翡翠色ひすいいろの瞳と相まって、日本人離れした造形美。

 西洋人形のようだ、と思った。

 それほどまでに整った顔立ち。

 睫毛は長く、大きな瞳に覆いかぶさるように。

 小さい薄紅の唇。愛らしい柔らかそうな頬。

 そして驚くべき肌の白さ。

 精巧な作りの人形だ、と言われれば信じてしまうだろう。

 しかし、明らかに違うのはその瞳の輝きだ。

 こればかりはこの世にあるどんな宝石でも再現などできはしまい。

 明らかな生の輝き。

 安堵の溜息が漏れた。


「よかった」

「あれ、あれあれ、普通逆だよね?」


 どうやら彼女は俺を介抱してくれていたらしい。

 それだけに、肩口の傷が目についた。


「いや、肩」

「ああっ、だいじょうぶだよ。心配しないで、ちょっと切れてるだけみたい。起きた時は少しびっくりしたけど血も止まってるし平気だよ」

「そうか、……申し遅れた、俺は片倉恭平だ。介抱してくれてありがとう」

「だいぶかっちりした挨拶だね。わたしは詠。折部詠おりべ よみだよ。もうしおくれましたっ」


 ああ、この娘か。

 悪意のない笑み。純粋な声。

 早広が信頼を置くのも分かった気がする。


「折部さんは、日本人なのか?」

「ハーフなんだよー。おとーさんがスカンディナヴィアなの」


 ヨーロッパの半島の名前だった。その髪の色はそれでなのか。

 

「そうか、綺麗な髪だな。思わず見惚れた」

「す、すとれーとだね」


 思ったことを言っただけなのだが、彼女の白い肌は紅潮していた。

 肌が白いって、可哀想だな、と思った。


「身体は大丈夫か? 縛られてたみたいだが」

「うーん、あんまり記憶ないんだよねー。なんか薬注射されて、起きたら今って感じ。身体は少し痛いかな? 寝違えたようなイメージなの」

「薬か。気分はどうだ? 悪く無いか?」

「うふふ、なんだかおにいさんお医者さんみたい」

「真面目に答えろ、こっちは心配してんだよ」

「大丈夫だよー。寝すぎて頭いたいくらいかなー」


 そう彼女はカラカラと小気味良く笑った。

 とても魅力的なその笑顔は、惹きつけて離さないものを持っていた。

 少し、怖いほどの魅力だった。


 慌てたように早広の姿を探す。

 いない。


「かなえちゃんなら、いないよ」


 ぞっとするほど冷たい声だった。

 声の主を探す。すぐ側にいた。

 同じ人間が発する音とは思えないくらいだった。


「へえ、お前がどっかにやったのか?」

「うん。少し隣の部屋にね。鍵はかけておいたよ」

「用意周到だな。身体でも売ってくれるのか?」


 彼女は妖艶にくすりと笑う。

 ひどく魅力的なその顔に、くらくらする。


「似たようなもんだよー。こんどの”選別”二人一組(TwoManCell)なの」


 やはり、こいつもか。

 安寧など無かったことに気づき、嘆息した。

 これもどうやら脚本の内らしい。

 シナリオライターがここにいるなら、今すぐぶん殴ってやりたいほどの駄作だった。

 

 平静に問う。

 しかし鼓動は激しくなってゆく。


「へえ、それで?」

「わたしと組もうよっ。選別の生き残りさん」


 彼女はハーフだった。

 日本人とスカンディナヴィア。

 今度の”選別”はヨーロッパの離島で行われるという。

 ひどく作為的な、シナリオ。


「狙いは?」

「へえ?」

「とぼけるなよ。俺みたいなのと組んだら、死ぬぞ」


 彼女は驚愕したように大手を上げる。

 海外のドラマのようなオーバーアクションだった。


「いやいや逆じゃん? あなた以外と組んだら死ぬでしょー。だってあなた前の選別で」

「おい」


 俺が知りたい情報だった。

 しまった。 

 

「おしえないよー」


 彼女はそういって立ち上がり、くるくる回る。


「くそが」

 

 悪態をついた。狙いがわかったからだ。


「真相が知りたかったらわたしと組むしかないんだよ? うふふ、すごい顔してる」

「うっせえ。しばくぞ」

「まあ口が悪い。これからよろしくねー。恭平」

 

 しかしなぜか不快ではなかった。

 これが彼女の持つ能力なのか。

 利用されてもいい。

 俺もこいつを利用する。

 そう自分に都合よく解釈していた。


「ああ、よろしく。詠」

「うふふ」


 互いに笑みが零れた。

 詠は自分の意図したとおりに物事がはこんだこと。

 大して俺は。

 日常など。

 望んだ日々など。


 泡沫うたかたの夢に過ぎなかったと自嘲する。

 

 いいさ。

 叶えてやる。

 漂う泡を掴んでやるさ。

 俺は日常を取り戻す。

 絶対に。


 四話「泡沫の夢をかなえ」完

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ