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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
天然ウザカワ女子大生 早広叶ルート
39/56

四話「泡沫の夢をかなえ」⑥

 刻限まで2日をきった。

 しかしどこか安堵している自分がいた。

 毛頭、油断するつもりなどさらさら無いが。

 隣を歩く早広を見やる。

 淡い桜色のトレンチコートに、白く靡くフレアスカート。

 彼女はその可憐な佇まいとは裏腹に、表情は重く、暗く。

 無理もない、親友の命がかかっているのだ。平常でいろというのがおかしい。


「夜のデートって卑猥な感じだな」

「はあ」


 この空気に耐えられるほど俺は大人ではない。

 唐突に流れをぶった切る手法は、コミュニケーションスキルの中でも実は初歩的なものだ。

 会話自体を、自分の流れに持ち込めるというのが大きなメリットである。


「……頭おかしくなったんですか」


 ただ、流れによっては相手を不快にさせるのが、この手法のデメリット。

 今痛いほど理解してますとも。

 それでもまあ、沈黙は嫌なんだ。

 ひとりは、悲しいほど理解しているから。


「いや、デートだろこれ、どうみても」

「違いますよ馬鹿ですか、詠ちゃんを助けに行くんですよ」

「……詠ちゃん、ねえ」

「私が誰のことを何と呼ぼうが勝手ですよね!?」

「思ってないよ、大学生のくせに子供っぽいとか」

「言ってます! 言葉に出てますから!」


 少し弛緩した空気感。

 求めていた日常がそこにあった。


「どういう娘なんだ、折部さんって」

「ええと、スリーサイズからでいいですか?」

「風俗かよ!」

「……突っ込みが卑猥です」


 お前がボケたんじゃねえか。

 理不尽だわホント。


「いやその俺風俗とか行かねえし、マジ興味ねえし」

「その割には詳しくないですか」

「馬鹿あれだよ、先輩から聞いたんだよ。そういうの好きな先輩がいるんだよ、マジ変態だわ」

「……先輩?」


 しまったああああああああ!

 早広はぎらりと可愛らしい瞳をこちらに向けて。


「先輩っていいましたよね、店長」

「いいいい言ってねえし、聴牌テンパイしただけだし」

「なんで日常会話で麻雀用語が出てくるんですか……」

「え、知らねえの、俺マジ麻雀めっちゃ詳しいんだぜ。役も言えるぜ、ほらあれだろ、……パイパン!」

「白牌は役じゃなくて、牌の種類ですよ……、というか深夜の公道で大声で何言ってるんですか変態」


 なんとか話題を逸らすことに成功した俺。

 いやホントにこいつと校内で会いたくない。マジで。


「で、先輩って?」

「逸らせてなかったああああああ」

「いや教えて下さいよ。考えてみれば店長の事あんまり知らないんですよ私」

「あれ言ってなかったっけ」

「……思いっきり棒読みですね、まあいいです根掘り葉掘り有る事無い事聞きます」


 なにこいつこわい。

 しかし俺の頭は別のことを思考していた。

 そういえばそうだ。こいつはあの場にいた。

 聞いているんだ、あの事を。


「まあいいか、少しなら答えるよ」


 俺は嘆息して頷く。

 早広は少し驚いた顔をして。


「珍しく聞き分けがいいんですね」

「お前俺と出会ってそんなに経ってないよね!?」

「……そんなことどうでもいいんですよ、早く話してください」


 少し、ほんの少しだが。

 早広の顔が暗くなったような気がした。

 しかしすぐにいつもの笑顔で。


「さあ、さあさあ店長」

「うぜーよお前。わかった、着くまでの暇つぶしだ」


 その表情が何によるものなのか、俺はまだ知らない。 

 

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