表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
天然ウザカワ女子大生 早広叶ルート
38/56

四話「泡沫の夢をかなえ」⑤


 大学までの電車はこれが最後の一本だった。

 閑散とした構内を抜け、外へ。

 早広がふと、呟く。


「店長は何もさっきから教えてくれないんですね」

「何のことだよ」


 少し拗ねたような口調に、どこか放っておけなくなる危うさを感じた。

 しかし、静寂を破る彼女の言葉にどこか安心する自分がいて、少し困惑する。

 やっぱり一人は辛いのだ。


「……俺の事は後だっていいだろ。お前の親友の命のほうが急を要する」

「わかりましたよー。で、なんで暗号文だってわかったんですか?」

「簡単だ。文章に奇妙なほど脈絡がなく、前後の文が繋がっていない箇所が多すぎる」

「はあ、だから?」

「少しは考えてみろよ、着くまでの暇つぶしだ」


 そうなだめるように、早広に説明する。

 ――まず不自然なほどに漢字が多いんだ。

 御目出度おめでとう、命在いのちある、しかながら、などは通常の常用の範囲ではない。

 

「そのなかで仲間ハズレがあるのがわかるか」

「あ! ”なさけ”ですね! なんで漢字にしないんでしょうか?」

「そこがヒントだよ。いや、答えだな」


 情け――ではなく、なさけ。

 小学生のなぞなぞブックと理論は同じだ。全く、馬鹿にしてやがる。

 

「訳わからん文章の下に、狸の絵が描いてあったらお前ならどう思う?」

「え、可愛いなーって痛! なんで殴るんですかあああ!」


 メールで早広に文章を送る。

 ――たたはたやひたろたたのばたかた      (たぬき)

 

「誰が馬鹿ですかああああ!!」

「わかってんじゃねえか!」

「馬鹿にするのもいい加減に……、あ!」

「気づくの遅えよ。そうだ、情けでなく”な”避け。言葉遊びだわ」


 問題は”な”を避けて読んでも文章にならないとこだが。

 ここには早広は気付いたようだ。

 ふふん、と鼻を鳴らし得意気に語る。


「あとは……、縦読みですね!」

「そうだ。”かがくじゅんびしつ いけ”って具合にな」

「……こんな小学生のなぞなぞにも気付け無いなんて……」


 肩を落とす早広に俺は告げる。


「それが普通だよ。自分にとって大切な人が傷つけられそうな時、冷静でいられる人間なんてまずいないさ」

「……なんだか店長、そういう経験があるように言うんですね」

「いや、無いが……」


 たしかに詩歌は特別だ。

 しかし、自分で今の台詞を吐いた時、思い浮かぶのは別の顔。

 しかし記憶にもやがかかる。

 まるで思い出すのを拒否するかのように、心が拒む。


 ――また、すり替えるんですね。


 詩歌がそう言っていたのをふと、思い出した。


「大丈夫ですか? 店長、顔色が悪いです」

「問題ない。てかお前、俺と普通に喋ってんじゃん」

「いや、なんか色々気にすんの馬鹿らしくなって。店長は私のために動いているんですよね?」


 ふとした上目遣いにドキリとする。

 やっぱりこいつは、普通にしてるほうが可愛い。


「……そのほうが可愛いよ」

「はあ!? 詩歌ちゃんいるのにナチュラル口説きですか! この天然ジゴロ!」

「そういえば……」

「は!? 悪いこと考えている時の顔してますよ店長!?」

「お前、俺の奴隷一号だったな」


 よし。伏線回収だ。

 早広の真っ赤な顔が、可哀想なくらい朱く染まって。


「変態だ~~~~!」


 夜の街に可愛らしい慟哭が響く。

 完全に変質者じゃん。俺。

 嘆息するが、二人に漂う雰囲気は幾分か心地の良い物に変わっていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ