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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
天然ウザカワ女子大生 早広叶ルート
35/56

四話「泡沫の夢をかなえ」②


 足早に改札を抜けた。

 アザレアカフェまでは二駅ほどだが、別に歩いて行けない距離でもない。

 タクシーを拾うほどの余裕もない俺は、電車を選択した。

 ……ほれ見たことか。

 駅征く人々の視線は俺の方を向いていた。

 いや、正確には俺の隣の彼女に。

 しっかりと繋がれた手。

 少しひんやりとした、柔らかい感触にどきどきする。

 もちろん拒否した。町中はさすがに勘弁だ。


「一人で歩いてると、良く声をかけられるんです。……おもに、男性の方に」


 なるほどそうか。さもありなん。

 この今が現実だった。

 俺は変な虫を寄せ付けないための”彼氏役”と言うわけだ。

 いいだろう、気分は悪くない。


「少し急ぐぞ、離れるなよ」

「はい」


 彼女の存在を確かめるように、指を絡ませ、強く手を握った。

 彼女の横顔が朱く染まっていたのを見て、少しの優越感を覚える。

 しかし、二人の繋いだ手はお互いに朱く、紅く。

 きっと寒さのせいなのだ、うん。



「いらっしゃいませ!」

「すまない、遅くなった」

「ごめんなさい早広さん、遅れ……」


 詩歌の謝罪は最後まで聞き入れられなかった。

 早広が被せるように叫んだからだ。


「大丈夫です大丈夫です! 私春休みですし! 学校ありませんし! 元気そうでよかったです、これからもよろしくお願いします!」


 屈託の無い笑顔。この娘は命の危険にさらされたというのに。

 詩歌の瞳は潤んでいた。

 

「ありがとう、早広さん……」


 早広はにかりと笑う。

 しかし俺は胸にどろどろした感情が巡っていた。

 ――幾重にも塗り重ねられた仮面。

 瑞原詩音、郁夫。そして片倉郁代。

 共通すべきは、感情が一切読めないこと。

 しかし俺は奴らの中に確固たる感情を見つけ出していた。

 それが何かは、ぼんやりとしてわからない。言葉で形容できるものではないのかもしれない。

 しかし、ぞくりと、背中に冷たいものが去来した。

 ああ、一緒なのだ。

 早広、叶。

 お前は、何を隠している?


「店長も、お疲れ様でした!」


 その八重歯を覗かせた可憐な笑みが、俺には不気味に見えた。

 考えすぎではないのか。この子を疑うというのか。

 しかし、思い出す。

 郁代が言い放った言葉が胸の中で粘つくように、離れない。


 ――詩歌ちゃん、叶ちゃん、和人くんはある条件のもと、バラバラに集められた被害者よ。


 だとすれば、選別はやはり終わっちゃいない。

 こいつのことを知る必要がある。

 まずは敵か、味方か。

 排除すべきか、否か。


「ああ、ありがとう早広」


 温和な笑みを浮かべ、早広に礼を言う。

 なぜ早広の仮面に気付いたのか。

 こいつは、俺と同類の匂いがしたから。


 血と、死の臭い。

 むせ返るほど生臭いその醜悪な臭いは、同類のみが感じ取れる霞のようなもの。

 おそらく、彼女も――。


 俺の正体に、気付いているのだ。


 

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