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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
天然ウザカワ女子大生 早広叶ルート
34/56

四話「泡沫の夢をかなえ」①

お待たせしました。新章執筆完了しました。

叶ちゃんルートです。

 「おはようございます、恭平くん」

 「……ああ、おはよう」 


 俺に向かってにこりと微笑むは、黒髪の可憐。

 柔らかな温もりが布団越しに伝わってくる。

 鳶色の目はまっすぐに俺を見つめて笑う。

 

 ワンルーム十畳の狭い空間、ベッドはひとつ。

 ああ、断ったさ。全力で抵抗したとも。


 ――なら私はソファで寝ますよ。


 ふざけんな、お前がベッドをつかえよおお!


 ――いや、ここ恭平さんの家ですし、私居候の身ですし。


 そうだけど! そうだけどもおお! 俺がソファで寝るから、いや床でもいいから!


 ――なんでそんなにいやがるんですか。


 嫌じゃないよ!? むしろ大歓迎だよ!?

 ――変態恭平くん本音がだだ漏れです。


 変態じゃないよおお、普通の反応だよおお!


 ――そうだ、いい方法があるじゃないですか。これで万事解決です。

 

 結論→何も解決していない。

 どうしてこうなった。

 まあ、俺は、その、詩歌と一緒の布団で寝る羽目になった。

 ひとり暮らしだ、当然予備はない。

 ベットから落ちそうになるギリギリで耐えていた俺を、いとも残酷に睡魔は襲った。

 いや無理だ、疲労がやばかった。

 そしてこれだ。いまのこの状況なのだ。

 

「……何をしている」

「寝顔を見ていました」

 

 ぐおおおおおおおおおおおお!

 何故寝たあああああああああ!

 寝ぼけた頭は一瞬で冴えた。

 いや無理だろこの状況。平静な奴がいたら見てみたいものだ。

 と思いつつ、俺は平静を装っているのだが、どうもこの娘には見透かされていそうな気がする。

 ああ、手を握られている。指先が触れる。動悸が早くなる。

 膝になにか触れた。少しひんやりとしたやわらかさ、絹のように木目細かですべすべなそれが心地よくて、詩歌の視線から逃げるように、膝でさする。


「……ひあ……」


 詩歌が女の子のような声をあげた、いや、女の子なんだけども。

 見ると彼女の頬は赤らみ、抗議するような視線を鳶色の瞳から送っていた。

 はい、どう考えても詩歌さんの太ももをさすさすしてました。

 言動で平静を装うあまり、動作が全く平静ではありませんでしたああああ!


「あああああああああ! ごめん、ごめん、ごめんなさあああいい!」

「……恭平くん、安定の変態さですね」


 HENTAI安定宣言きたああああ! 嬉しくねえええええええええ!

 しかし、やっていることは全く言い訳ができない、困った。

 

 泣きそうなほど賑やかな朝。

 しばらくぶりか、ひどく懐かしく思えた。

 ん、朝……朝!?


「……詩歌、いま何時だ」

「正午を少し回ったところですよ、よっぽど疲れていたんですね、寝顔を堪能したら起こそうと思っていたんです」

「堪能せんでいい! あああ! すまない。榊、早広!」

「謝っても時間は戻りませんよお、そろそろ準備して向かいましょうね」

「起こせよおお!」


 賑やかな朝、もとい昼下がり。

 大きな日常の変化を感じながら、慌てて俺は着替える。

 浮ついた気持ちを戒めるよう、タイをきつく締めた。

 昨日の服は煙の匂いと汗と血で使い物にならなかった。

 ……ダメ元で後でクリーニングに出しておこう。

 少しカジュアルな紺のブレザーとグレーのパンツ。よく磨きあげた靴は深い茶色。

 ベルトの皮と質感を合わせることも忘れない。

 髪に無香性の整髪料を馴染ませ、歯を磨き、髭を剃る。


「よし」

「格好いいですよ、旦那様」

「ごめんなさいぼくあなたになにかわるいことしましたか」

 

 詩歌はくすりと笑って、服を羽織る。

 薄紅のペプラムトップスはレースで淡く、ふんわりと花がらのシフォンスカート。

 全体的に淡い、ふわっとした印象のコーディネートは、しかし、彼女の黒髪の可憐に掻き消されシックな存在感を醸していた。

 サイドポニーに纏め上げた艶やかな黒に、一輪咲いたベゴニアの髪飾り。

 鳶色の瞳と、だいだいの髪飾りが対を成すように黒に光る。

 人形のようなその整った造形に、きめ細やかな白絹の肌。

 見惚れるな、というのがそもそも無理な話だった。


「……似合ってるよ」


 とっさに出たのはそんな言葉だった。

 そんなものではないのに、おそらく彼女なら何を着ても霞む。

 それほどまでに圧倒的な存在感。

 静謐、純真、可憐、全てを纏ったその容貌に、振り返らぬ男はいないだろう。

 しかし詩歌は頬を染めて。

 ――ありがとうございます、と。

 淡桃うすももの唇でそう言った。

 

「服、無かったんで、早広さんに借りたんですよ」

「そ、そうか、綺麗だよ、本当に、少し、見惚れてた」

「あわわ、早く行きましょう恭平くん、何だかすごく恥ずかしい格好をしている気分です。私今視姦されています」

「してねえよおおお!」


 賑やかに玄関を開ける。

 照れた顔を隠すように前を向いた。

 火照った頬に冬風が心地いい。

 遅れて詩歌が続く、慌ただしくふわふわのブーツを履き、手を伸ばす。

 少し逡巡してその手を取った。

 

「早くしろ、遅刻だ」


 わざと冷たく言ったのは照れを誤魔化したわけではない、たぶん。


「はい」


 詩歌は微笑み、強く手を握り返した。

 さあ行こう。新しい日常の幕開けだ。


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