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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
31/56

三話「アザレアの花言葉」㉓

「ご挨拶ね、年上には敬語を使いなさいと教わらなかったのかしら」

 あくまで淡々と、平然と。

 狂気あまねくこの場所で、彼女は優雅に微笑む。

 それこそが異端、異常。

「それは悪かったよ叔母さん、で、どうしてここに」

「決まっているじゃない、”選別”の続きよ」

 ――馬鹿野郎。

 血液が怒りで沸騰するかのような感情をおぼえる。

 落ち着け、冷静になれ。それこそ奴の思うつぼではないか。

 しかし、思い出すのは六年前。

 ”選別”と呼ばれる地獄絵図。

 吐きそうなほどにおぞましく、忘却したい過去の記憶。

 背後を振り返る。 

 榊は力尽きたのか、意識を失っていた。

 よかった。

 不謹慎ながらそう思う。

 ここからは、本当に聞かせたくない。

「……また、始めようというのか」

「顔色が悪いわね、ついでに言うと往生際も悪いわ。あなたは仮にも”片倉”の血を引いているのだから、もっとしっかりしてもらわないと」

「黙れよ外道。何人死んだと思ってやがる、何人が、苦痛と後悔を抱いて、怨嗟の声を上げて沈んでいったと思っているんだ」

「十七人ね。覚えているわ、忘れもしない私の愛すべき親族たち。いまでも名前を言えるわ、顔も思い出せる。そう、声だって。でも残念、運か実力が無かったのよ、ひっくるめて言えば”才”に欠けていた。残念ね、ホント残念」

 片倉の血族は二十歳になるまでに一度、”選別”と呼ばれる試練を受ける。

 優秀な才を後世に残すため、現当主により、幾つかの課題と苦難を与えられるのだ。

「……狂ってやがる」

「あなたは自分が正常だと思っているの? ”選別”の生き残りが? 普通? ああ、可笑しい。普通じゃ生き残れないわ、普通じゃ殺されるの、食い扶持の無駄だから。片倉には才に優れるものしかいらないのだから」

 わかっているとも、許されざることをした。

 わかっていたとも、叔母の考えなど。

「アザレアカフェも、利用するのか」

「まさか、利用されていないと思っていたの? 前任はどうして倒れたのかしら? なんで都合よく詩歌ちゃんと運命の出会いを? 私の弟が偶然にも詩歌ちゃんを虐待していた? 馬鹿馬鹿しい!」

 瑞原郁夫。

 片倉郁代の弟だった。苗字が変わっていたのですぐには気づかなかった。

 しかしあの風格、狂気は、詩織の葬式であった男性とは確実に違っていた。

 叔母は俺を嘲るように続ける。

「この世に運命、偶然なんてものはないの。全ては打算、計略。全てのキーワードに意味があるのよ」

「……みんなは」

「は……?」

 叔母は目を見開く。

 ああ、自分でも何を言っているのか。

 情にでもほだされたか。

「みんなは、片倉の息がかかっているのか」

「甘っちょろいわね、そんなんじゃ」

「答えろ!」

 月夜に咆哮がこだまする。

 怒りを覚えている自分に驚く。

「……関係ないわ、詩歌ちゃん、叶ちゃん、和人くんはある条件のもと、バラバラに集められた被害者よ」

「”選別”のためにか」

「そうよ、これ以上は教えられないわ。試練はあなたが気づくことから始まっているの。課題は自分で考えてこなして」

 安堵を覚える。よかった、あいつらは信用できる。

 仲間として触れ合える。

「俺は、貴様らの言いなりにはならない」

「自由よ、恭平くんの自由。ただ、あなたは受けると思うわ。……いいえ、受けざるをえない」

 叔母はそう言い切った。

 瞳は確信に満ちていた。

 そうしてこう続ける。

「恭平くん、あなたには王者の資格があるわ。……いい恫喝だった、あなたにはやはり片倉の血が流れている。頑張って、応援してるわ」

 叔母は意味深に言い放ち、去った。

 胸に去来する不安、何かが始まろうとしている。

 とてつもなく大きな陰謀が。

 遅れてサイレンの音。

 火事だと騒ぐ隣家の声。

 おおきくなる喧騒。

「行こう……」

 榊を背負い、逃げるようにこの場を去る。

 アザレアの深緑を眺め、ぽつり思い出した。

 ――「ねえ恭平さん。アザレアの花言葉って知ってますか」


 ああ、調べたよ。

 お前がいなくなった後にだが。

 ――あなたに愛される幸せ。愛の楽しみ、恋の喜び。そして、自制心と節制。

 なあ詩織。お前は俺に何を望んでいたんだ?

 言葉を返すのは、身を切るような夜風のみだった。

 アザレアは、何も語らなかった。


三話「アザレアの花言葉」 完


  

ようやく長かった3話も終了です。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

物語はまだまだ続きますので、どうぞ末永くよろしくお願いします。

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