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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
30/56

三話「アザレアの花言葉」㉒

ようやく! 30話目です!

六万字まで来ましたー!

次は十万字目指して頑張ります!

 状況は最悪であった。

 燃え盛る炎と熱に、部屋の唯一の出口は塞がれていた。

 今となっては推察することしかできないが、おそらく畳という畳、壁という壁に揮発性の燃料が染み込ませてあったのだ。

 音と光によって、部屋の外の惨状も伝わってくる。

「こいつはやべえわ……」

 榊が歯噛みする。

 ふらつきながら立とうとする彼を制止し、低い姿勢を促す。

 火災の時に真に憂慮すべきは炎でなく、煙だ。

 煙に含まれる一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンに異常な速度で結びつき、酸素の吸入を阻害する。

 結果、酸素不足により脳細胞は正常に機能しなくなり、意識混濁、昏倒を引き起こす。

 そうなってはもう、迫り来る火の手から逃れる術はないのだ。

 上着を脱いでハンカチ代わりに口に当てる。

 榊は厚手のニットカーディガン。おれはジャケットと多少不安は残るが、無いよりマシだ。

「姿勢を低くして進め。一気に突っ切るぞ」

「突っ切るって、この炎の中をか……?」

「他に方法はない。時間がたつごとに、状況は刻一刻と悪化していく、判断は早い方がいい」

 白く立ち上っていた煙は徐々に黄ばみ、もはや猶予はない。

 これが黄色から黒煙になってしまうと、もうアウトだ。

 視界は狭まり脱出を阻害され、生きたまま炎に巻かれる羽目になる。

「……わかった店長。どっちが先に行く?」

「言い出しっぺは俺だ。俺から行くが、お前は手を握れ。脱出経路は頭に入れてある」

 こうなる事も想定のひとつにはあった。

 一刻を争う事態のため道具は一切持ってこれなかったが、庭先のホースで服を濡らす時間くらいはあった。

 榊を見る。シャツとチノパンといったシンプルな服は、先ほどの液体によりぐっしょり濡れていた。

「榊、まさかそれ、ガソリンじゃないよな……」

「違げえよ! どんな自殺志願者だ! ……水だよ水、スタンガンの相打ち覚悟でぶっかけたんだが、まさかこんな形で役に立つなんてな」

「馬鹿だろお前……」

 思わず苦笑いするが、実際はそんなに悪くない。

 スタンガンの電流というのは、対象に触れていたとしても自分に流れ込んでくることはない。対象の体内の水分のほうを、電気が好むためだ。

 しかし、お互いが極端に水に濡れていれば話は違ってくる。

 通常、そのような使用は想定していないが、使用者にも感電の可能性があるのだ。

 自分の危険を顧みない、愚策だった。

 俺達を守るため、彼はその策を選んだのだ。

 胸に温かいものがこみ上げてきた。

「店が潰れたら困るんだよ、生活できねえだろ」

「お前、現場があるじゃん」

「格好つけさせろよ! お前いつも一言余計なんだよ!」

 榊がわめく。もう元気みたいだな。

 さて、ふざけている場合ではない。万が一にそなえ、早広にメールを送っておいた。

 即座着信の嵐。すまない、心配をかけてばかりだ。

 電源を切り、榊と向き合う。

 さあ、脱出開始だ。

「……行くぞ!」

「おう!」

 手を握り、前傾姿勢のまま、呼吸を止め走る。

 炎がちりちりと肌を焼く。構わない、突っ切る。

 走る。走る。

 部屋を出て右。

 廊下をまっすぐ。

 玄関はうねる炎に阻まれていた。

 こっちは無理だ。

 右手に襖。

 あいにく両手がふさがっている。蹴破り、奥へ。

 呼吸が苦しくなってくる。

 もう少しだ。

 先ほど詩音と相対した部屋へ出る。

 庭が見えた。

 ラストスパートだ。

 

 月光。

 アザレアの深緑。

 地面をじゃり、と踏みしめる。


「脱出おめでとう、片倉恭平くん」

    

 居る筈のない人が、そこに。

 後ろを振り返る、ぜえぜえと息を吐く榊。

 畳に広がる血液。

 炎に巻かれる詩歌の母さん。


 違和感はずっとあった。

 なぜ郁夫は何もしてこなかった。

 演技をするメリットはなんだったのか。

 そうして、詩音は。

 自宅を燃やす事こそが、彼と彼女の狙いだったのか。


 違う。

 六年前の悲劇は、まだ何も終わっちゃいない。


 最初から、仕組まれていたのだ。

 俺と詩歌の再会も。

 この、シナリオも。


片倉かたくら……郁代いくよ……!」

 

 怒気をはらませ、眼前の叔母を見上げる。

 醜悪な笑みが、そこにあった。

 全てを見下す、王者の余裕がそこにあった。

 全ての元凶が、そこにいた。   


       

どうみても、榊ルートです。

本当にありがとうございました。

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