表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
28/56

三話「アザレアの花言葉」⑳

 崩れ落ちた俺に。

 その声は不意に。


「恭平くん! 私は生きています! 早く、早く!!」


 幻聴か。

 幻に救いを求めているのか、俺は。

 しかし、聞こえる声は、確かに。

「詩歌……?」

「いつまでボオっとしてんだよ!! 早く逃げるぜ!」

 不遜なる声。堂々とした姿。

 暗がりの中、煌めく金髪。

 榊だ。

 逃げずに、来てくれたのか。

 いや、おそらく、ずっと機会を伺っていたのだ。

 熱いものがこみ上げてきた。

 一瞬でも疑った過去の俺を殴り飛ばしたい気分だった。

 しかし、先ほどの飛沫は?

 たしかにナイフが刺さった瞬間、暗がりの中、飛んだ。

「糞おおおおおおお!!」

 詩音の慟哭。

 長い髪は、濡れ、張り付き、整った顔立ちは般若のように歪んでいた。

 相対する榊。

 ダガーは跳ね跳んで、また部屋の隅に。

 詩歌が跳ね飛ばしたのだ。

 

 状況を遅れて理解した。

 詩歌は何らかの状況で、榊が部屋の奥に隠れ、潜んでいることに気付いていた。

 しかし、それは最後の作戦。

 絶対に悟られるわけにいかなかったのだ。


 だから、俺すら、騙した。


 詩歌を囮にしての榊の背後からの殴打。

 振り返った詩音に、榊は持っていた何かをかけた。

 飛沫が飛び散る中、詩歌がナイフを奪い、投げたのであった。


「俺がこいつをおさえる! 店長! はやく早広を!」

 いつも気怠げな声色からは、考えられないほどの意志がそこにあった。

 呆けている場合ではない。

「ああ! 分かった!」

 早広の元へと駆け寄る。

 途中、詩歌と目が合う。

 心臓の高鳴りを感じた。

 彼女も、少し逡巡し、頬を赤らめた。


 生きたい。


 久々にそう思ったかもしれない。

 ひどく懐かしい感情だった。

 早広を抱く、意識は戻っていた。

 電圧は己が意志で抗えるものではない。

 悔しそうな表情が見て取れた。

「いくぞ、早広」

 彼女の柔肌に触れる。

 いわゆるお姫様だっこというやつか。

 頬にかかる吐息が妙に熱く感じた。

 庭先に出た俺達が振り返り、見たものは、相対する榊と詩音。

「邪魔しやがってええ!! もういい! お前から殺す!」

「来いよボケ! 返り討ちにしてやらああ!!」

 郁夫の手にあったはずのスタンガンは、詩音の手に。

 奴は俺達を観劇するように、ほくそ笑んでいた。

 ――何が狙いだ。

 微動だにしない郁夫に不気味なものを覚えた。

 しかしサシの勝負に持ち込めただけでも好機。まずは早広と詩歌を安全な場所まで連れていかなければ。

 うしろ髪引かれる思いで、しかし、脱兎のごとく庭先を玄関口まで駆けた。

 今は榊を信じよう、この状況で出てきたのだ、無策ではあるまい。

 ぼそり呟いた言葉とは裏腹に、俺の心は不安で満ちていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ