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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
26/56

三話「アザレアの花言葉」⑱


「っ……!」

 驚愕は俺の口から。

 肉体に走る激痛と。

 そして、自身の命がまだ繋ぎ止められている事による、驚愕と。

「があああッ……」

霞む意識で思考を巡らせる。

 右手は駄目だ、郁夫を殴った時から感覚がない。

 後頭部から垂れる血は止まらない。

 視界はぼやける。

 そして、今。

 詩音に掻っ切られた喉から迸る血液。

 赤く、紅く、朱く。

 俺の命を垂れ流すように。

 しかし。

 ただ、耳は。

 俺の聴覚は。

 ひとつの音だけを知覚していた。

「恭平くん…っ、きょう、へいくん……!」

 詩歌だ。

 涙に霞む声。

 彼女は、ただ必死に、俺の名を呼んでいた。

「だ、め、駄目。死んじゃ、だめ」

 額に熱い感触。

 潤む視界で、彼女の涙だと悟った。

「……詩歌」

 世界で一番大切な人の名を呼ぶ。

 後悔など無い。

 お前を、守れるのなら。

「おい、おいおいおいおいおい。……あー、やべえ、マジ泣いたわ。すげえわ、その茶番」

 醜悪な声。

 この世の全てを呪い、あざ笑うかのように。

 悪意は、俺へ。

「……なぜ、すぐに殺さない」

 ありったけの憎しみを込めて、詩音へ問う。

 そう、俺は死を覚悟していた

 充分俺の急所は詩音の射程に入っていたし、仲間を守るために、俺は一切の抵抗をしなかった。 

 しかし、詩音は急所を外した。

 首もとを狙ったダガーは逸れ、胸上を、深く切り裂いた。

「……楽しいからに、決まってんだろ、ボケええええ!」

 咆哮。

 悪魔が、そこにいた。

 どうやら、苦しませ、苦しませ、それを詩歌へ見せつけ、殺したいらしい。

 変わらぬ異常性をを孕む、緋色の目こそが雄弁に。

 そう、語っていた。

「お姉ちゃん、だめ、です、それ以上、恭平くんを傷つけるなら、警察を」

「駄目だ」

 涙声の、とぎれとぎれの詩歌の声を、しかし止めたのは俺だった。

 それだけは、駄目なのだ。

「くははははははは!」

 悪魔は嗤う。全てを見透かしたかのように。

 ああ、本当に、救えない。

「なんで、恭平くん……」 

「駄目なんだよおおおお! 警察は、呼べないんだよおおお! 教えてやろうか、糞詩歌ああああ?」

 ――私は、知っているぞ。

 その眼が、その表情かおが、そう言っていた。

 やめろ。

 絶対に、彼女には聞かせたくない。

「や、め」

 かすれた声。口から零れた血で噎せた。

   

「こいつは」


 やめろ。

 詩歌には、聞かせるな。



「”存在しないんだ”この国に。こいつは」


「片倉恭平は、六年前に、死んだんだよ」



 淡々と。

 ”事実を”詩音は告げた。

 本当に、残酷な真実を。

「え、お姉ちゃ、なんて」

 凍りつく詩歌。

 詩歌は怯えるように俺を見る。

 ――嘘ですよね。

 ――冗談だと言ってください。

 懇願するような眼差しに、俺は、目を。

 

 逸らした。


 詩歌の顔が引き攣った。

 今まで見たことのないような表情だった。

 血の気が引き、表情は絶望の色が濃くなり。

 やがて、彼女の顔から、色は無くなった。


 

  

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