三話「アザレアの花言葉」⑪
そろそろ三話も終盤です。
ああああ!早く!叶ちゃんルートを書きたい!!
あ、一応全ヒロインのエピソード書ききるつもりです!!
プロットばっかりが先走ってゆく……。
筆の遅い自分が憎い!!ぐおおお!!
急ぎ身支度を整える。
予定よりも少し早いが、余裕があるに越したことはない。
早広が驚いたように声を上げる。
「店長、今日は急いでるんですね」
「悪いな、今日はお前の相手してやれないわ。これでも忙しいんでね」
「殴っていいいですか」
痛い痛い。もう殴ってる。
ぽかぽかと可愛らしい拳を抑え、笑う。
「早広、榊」
巻き込むべきではないと思った。
ただ、ここからは俺一人では進めない。
頭を下げる。
何事か、と二人が息を呑む音が聞こえた。
「どうした、店長。水くせえぞ」
榊は何が言いたいか、察してくれていた。
声は興奮と期待、怒りを混ぜた色に感じた。
「……詩歌を救いたい。力を貸してくれ」
はっきりと、思いを告げる。
もう誰も失いたくない。
もう誰も壊れてほしくない。
思えば今までの人生で、人に力を借りたことなどなかったのかもしれない。
自分はいつだって与える側だったし、そう自覚もしていた。
彼女のおかげで、他人よりも優れているという自負もあった。
ただ、此処から先、失敗は許されない。
万が一にも、詩歌を失うことなどあってはならない。
そうすれば、また。
また、俺は。
壊れてしまう。
どうしよう。
不安。
後悔。
ああ、断られるのか。
それもそうだ。
こんな出会って一週間もない奴を。
誰が信用するというのか。
俺ならしない。
ただ。
こいつらなら。
もしかして、というのがあった。
でも違ったのだ。
店長という権限を傘に、指示を飛ばしていた。
こいつらは、仕方なく俺と仕事をしてきたのだ。
言うことを聞かざるをえない。
そんな偽りの信頼関係の中。
急にこんなこと言われても信用できるものか。
ああ。
詩織、お前ならこんなときどうした?
いっぱい教えてくれたじゃないか。
俺が心を読めるようになったのも、お前のおかげだ。
どうすればいい?
だが詩織は、もうこの世にはいない。
現実を再認識する。
今まであった足場が崩れていくような、絶望。
無理だ。
俺には。
「店長」
肩に触れる優しい感触。
早広の声。
常闇の世界を照らすような。
太陽の声。
「あなたを、信じます。どうか、詩歌ちゃんを助けてあげてください。
わたしに出来ることならなんでもします。
榊さんもきっと、同じ気持ちです。
どうか、顔を上げてください。
前を、向いてください。
いつものように。
傲慢で、不遜で、尊大で。
でも、成果を出せる店長でいてください。
私達はしっています。
あなたがしてきた努力を。
実績を。
同じように、その力で、今度は詩歌ちゃんを助けてあげてください」
顔をあげる。
にこり、と微笑む早広。
「昨日はごめんなさい。あれからずっと考えてたんです。後悔してたんです。今日、詩歌ちゃんが早退したって聞いて、もう……」
言葉で、何と伝えたらよいのだろう。
「店長は、私達の、光です」
違うよ。
光は、お前だ早広。
「ありがとう……」
頬を熱いものがつたった。
止めようと、しかし、溢れ出るそれを抑えきれなかった。
「おい! おいおいおい、水くせえわ店長!」
バシン! と背中に衝撃。
榊が勢い良く俺を叩いた。
痛みが少し心地よかった。
「いいか、俺達は同じ店でやってるんだ。いわば家族のようなもんなんだよ。家族が傷ついてるんだ、助けだすのは当然だぜ!」
「臭えわ、榊……」
「ひでえ!」
抗議の視線。
良い奴だ、こいつは本当に。
「ありがとう、榊」
「お、おう……」
照れて顔をそむける榊。
やめろ、男のツンデレは本当気持ち悪いうええ。
◆
少し落ち着いた。
先程はみっともない姿を見せてしまった。
誤魔化すように咳払いをすると、早広はくすりと笑った。
「それで、店長」
テーブルに肘をつき、榊が問う。
「ああ、どうした?」
「作戦はあるんだろう?」
「もちろん」
早広がびくん、と震えた。
彼女は一度詩歌を救おうとしている。
しかし、失敗した。
それだけでなく、詩歌の境遇はそれ以降、より酷いものとなり、挙句の果てに本人にも拒絶されていた。
「早広」
優しく、声をかける。
早広は子犬のように、大きな瞳をこちらにむけた。
「安心しろ、作戦は鉄板だ。万に一つの失敗もない」
肩に触れ、目を見て言う。
ぽう、と彼女は呆けて。
「わ、わかりました……」
慌てて納得したようにそう言った。
二人の目を見る。
さあ、失敗は許されない。
「作戦を告げるぞ……」
夜は、まだ終わりそうになかった。