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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
18/56

三話「アザレアの花言葉」⑩

少し平和。

日常回難しいいいい


「おう、お疲れさん、店長」

「こんばんは~! 店長どこいってたんですか~?」

 二人の声が暖かかった。

 榊と早広。文句をいうまでもなく、声をかけてくれた。

 二十時を少し回った。もうピークは過ぎたのか、閑散とした店内を見渡す。

「店長……」

 早広だった。

 子犬のようにこっちに寄ってくる。

 漆黒の制服がはためいた。健康的な太ももに思わず目をやる。

 いやいや、そうじゃなくて!

「おう、今帰った。急用ができて、榊に代わってもらったんだ。任せてすまない」

 早広は、とんでもないです、とぶんぶん手を振る。

「あー、大丈夫です! 私馬鹿だけど、店長が何をしようとしているのかくらい、だいたいわかりますよ! 詩歌ちゃんのこと! よろしくお願いします!」

 客席に響く声。

 何人かの客が何事かとこちらを見ていた。

 やめろやめろ、恥ずかしい。

「わかったわかった、詩歌の件は任せろ。それよりも、何か手伝うことはあるか?」

 誤魔化すように話題を変える。

 ストレートにに言われるのは、慣れない。

「えーと、営業はだいじょうぶなんですが、閉店作業へいさのほうが、まだ全然手付かずで……」

「オーケー分かった。営業はそのまま任せるぞ。俺は作業の方を進めていく。早広、休憩は大丈夫か?」

 このペースでは二十二時をまわるだろう。

 俺の提案に早広は。

「だいじょぶっす!」

 太陽のように、軽やかに笑う。

 ありがとう。

 礼を言って、業務に戻る。

「俺には聞いてくれねえのかよ!!」

 キッチンから抗議の声。

 うるせえ。レディファーストだ。



 さすがに榊の動きが目に見えて鈍ってきたので、十五分の煙草休憩をやった。

 俺、優しい。

 休憩から戻ってきた榊は、倍のスピードで、業務をこなし始めた。

「煙草すげえ……」

 とんだチートアイテムだ。

 榊を見て、つぶやいた俺に早広が、ぼそっと一言。

「煙草吸ってるから、数時間ごときでへばるんですよ……」 

 なるほど至極正論だった。

 哀れ榊。


 つつがなく、閉店は終了した。

「お疲れ様。榊、ありがとうな」

「たまたまだよ。たまたま休みだったんだ」 

 照れたように顔をそむける榊。

 先程からうるさく鳴り響く、携帯のバイブレーション。

 榊の携帯だった。

 男のツンデレは気持ち悪いと思います、はい。

「で、どうだったんだよ」

「親父と会った」

「……は?」

「そのまま戦闘になって、劣勢になったから、やむを得ず離脱した」

「何してたんだよ……」

 呆れたように榊が言うが、事実は事実なのだ。

 嘘をついても仕方あるまい。

「榊、何点か聞きたい。お前、詩歌の親父に会ったことはあるか?」

「あ、ああ。今朝話しただろう。半年前だ。やくざみたいな男だった」

「それより前に会ったことは?」

「……? いや、ないな」

 怪訝な顔をする榊。

 何故そんなことを聞くのか。

 一応の確認だ。今夜仕掛けることは、間違えました、じゃすまない。

「そうか。なら母親は? 会ったことは?」

「あ、あるぜ。最寄りのスーパーが一緒なんだ。瑞原さんと母娘おやこで買い物する姿をよく見たな」

 榊の逡巡を、俺は見逃さなかった。

 目線が左上を向いた。これは過去の体験を思い出している。

 少し鼻を擦った。躊躇いのサイン。

「過去形なんだな。最近は? 見てないのか?」

「ああ、……瑞原さんの母親なんだが、これも今朝言ったとおり、少し、こう、精神的に参ってるみたいでな、最近はあまり出歩かないらしい」

 そうか、やはり。

 打ち消したかった最悪の想定は、どうやら現実であるらしい。

「具体的にはいつから会っていない?」

「ひと月程……いや、三週間か。最後にあった日は、瑞原さんのことを少し話した日だから覚えている」

「わかった、聞きたいことは以上だ。ありがとう榊」

「おい店長、何に気付いているんだ? 俺にはさっぱり……」

 扉を開ける音。

 早広、ナイスタイミングだ。

「おまたせしました~!!」

 紅茶とシナモンの香りが控室に広がる。

 俺はすっかり彼女お手製チャイの虜になっていた。

 疲れた頭と身体に糖分はいい。

「店長、聞いてるのか……?、何これうめえええええ!!」

「な、そうだろ、そうだろ! これ絶対売れるぜ!」

 興奮して叫ぶ俺達。

 余談ではあるが、夜中である。

「あはは、廃棄品なんでむりですよ~」

 お客様用の紅茶。早広はその出枯らしを丁寧に集めている。

 当然二杯目なので、甘み香りよりも先に、渋みが来る。

 絶妙な淹れ具合と、シナモン、ミルク、クリーム、シロップの配合がなければ、とても飲めるものでは無いはずだ。

 まさに、神業だった。

 榊はうまいうまいと言いながら、携帯に目をやる。

 鬼電コールに表情が固まっていた。

 そのまま面白い顔をしながら、携帯を持って、慌ててBYに出て行った。

 笑いを堪えるのに苦労した。

「店長……。榊さんに代わってもらって、少しひどいとおもいますよ……」

 じい、と俺を見る早広。

 彼女はいつも正論だった。

 反省。


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