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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
17/56

三話「アザレアの花言葉」⑨

章題考える気なさすぎワロタ


「ねえ恭平さん。アザレアの花言葉って知ってますか」

 瑞原詩織は、あまり感情を表に出すことが無い子だった。

 白い壁、白いベッド、白いシーツ。

 ちょこんと座る彼女の肌も、白。

 対比を描くような、艶やかな長い黒髪が、印象的だった。

 素直にとても綺麗だ、と思った。

「あなたに話をしているんです。片倉恭平さん」

 彼女は俺が来ると、いつも会話をねだった。

 最初の頃は話のネタでも用意してきたのだが、毎日通うにつれて、友人の少ない俺はすぐに会話に困ってしまった。

 足繁く通う俺に、最初は無口だった彼女も、段々と心を開いてくれたのか。

 最近は、病室に入ると、まず彼女から話題を振ってきた。

 瑞原詩織はかなりの狂書家である。

 ほかに娯楽の無い病室では必然だったのかもしれないが、ともかく彼女はテレビより、ゲームより、本を選んだ。

 暇を見つけては取り寄せ、使うあてのない知識を蓄えていった。

 唐突に、彼女が本で読んだ知識をひけらかすのは珍しいことでは無かった。

「すまん、わからん。何だ、教えてくれよ」

 そこで彼女は解説をはじめるのだ。

 同世代の誰よりも知識があった彼女は、得意気に知識を披露するのだ。

 ……しかし、その日は違った。

「……教えない」

 どこか拗ねたような顔で、赤くなる彼女。

 思わず抱きしめたくなるほど、可愛らしかったが。

「いやいやいや! いっつも教えてくれるよね!?」

「恭平さんの、鈍感……」

「ええええ……」

 何故か彼女は照れたように口ごもるのだ。

 そんな顔をされては、こちらとしても掘り下げることはできない。

 どうにも、そんな空気が照れくさくて、耐えれなくて。

「詩織」

 鞄から、あるものを取り出した。

「え……」

 驚いたような、呆けたような顔。

 ああ、その顔が見たかった。

「誕生日、おめでとう」

 小さな四号サイズのケーキ。鞄で見つからないように運ぶのは大変だった。

 十四本の蝋燭を立てる。

 火をつけて、電気を消した。

 彼女の眼はかわいそうなくらい潤み、今までに見たことのない表情で、泣き、笑った。

「恭平さん」

 彼女が身を寄せてきた。

 淡い香りが鼻にかかった。

 平静を保つのに苦労した。

「私、生まれてきてよかった……」

 ああ、生まれてきてくれて、ありがとう。

 俺と出会ってくれて、ありがとう。

「……そうか、よかった」

 とっさに口をついたのは、素っ気無い言葉だったが。

 どうや彼女は察してくれたようだ。

 優しく微笑み、楽しそうに息を吹く。

 何度目かの吹きかけで、火は全て消えた。

「おめでとう、詩織」

 電気をつけようと、立つ俺の手が掴まれる。

 誘われるように、彼女の元へ。

 唇に、淡い感触。

 絹のような、彼女の髪が、頬をくすぐる。

「ありがとう、ございます」

 驚いた俺に、彼女は笑う。

 悪戯が成功した、少女のように。

 ああ、せっかくのサプライズだったのに。

 しかしまあ、嬉しさが身体を満たしていた。

  

 ――余命三ヶ月。

 ある日見舞いに来た俺に、詩織は普段と変わらないような表情で、淡々と事実を告げた。

 目は赤く腫れていた。おそらく泣いていたのだろう。

 胸が傷んだ。

 ――もう来なくていいですよ。今まで、ありがとうございました。

 雫を潤ませ、彼女はそう言った。

 声は震えていた。


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