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夢幻泡影のアザレアカフェ  作者: ナナカセナナイ
クーデレ美少女 瑞原詩歌ルート
15/56

三話「アザレアの花言葉」⑦

三話ようやく中盤です!


 閑散とした住宅街を二人で歩く。

 肩を貸そうかと提案したら、真っ赤になって詩歌は首を振った。

 午後のティータイム。躑躅町は静かだった。

「恭平くん」

 無言に耐えかねたかのように、詩歌が口を開いた。

「さっきは失礼な事を言ってごめんなさい。ただ、やっぱり妹を奪ったあなたを許せそうにはありません」

「……そうか」

 そうでなくてはならない。

 感情を殺せ。

 俺を憎む事こそが、彼女自身を守ることなのだ。

 再開したその日の夜、彼女はこう言った。

 ――私とあなたは今日出会った。

 そう、言ったのだ。

 解っている。

 それは過去を水に流すという意味ではない。

 それ以前の俺を決して許さないという意思表明……!

 忘れてもいいのか、過去の罪を。

 いや、忘れてはならない。

 彼女は決して忘れない――。

「でも」

 と彼女は戸惑うように。

「朝、のことは、嬉しかった、です」

 いったい幾千の葛藤が詩歌の身を割いているのか、俺には想像はつかない。

 少し照れたように顔をそむける彼女の言葉を、疑いたくは無かった。

 

 長いようでとても短い帰り道だった。

 六年前、何度も通った道だ。

 身体が覚えていた。

 アザレアの庭。

 三人で子供の頃は駆けまわった。

 無残にも葉は枯れ、茶色く濁っていた。

 閑静な住宅街。どこにでもあるような庭付きの一軒家。

 詩歌の、家だった。

 少し、呆けてしまった。

 昔を思い出していた。

「ここまでで大丈夫です、ありがとうございました」

 俺の様子を知ってか、詩歌はピシャリとそう言った。

「大丈夫なのか」

「母はいますが、とても静かです。父は仕事にいっています」

 体調のことを尋ねたつもりだったのだが。

 無意識下での恐れが見えた。

「わかった。お大事に」

「はい、明日はたぶん大丈夫です。よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 詩歌はそう、背を向けた。

 俺は詩歌を見送る。

 

 ――臭うな。


 彼女の淡い香りに混じって、家の奥から覗く醜悪な臭い。

 詩歌が玄関を開けて一層強まる臭気。

 

 肉の腐ったような臭いと、強烈な薬品臭。


「まずいな……」

 知らず、言葉が零れ出た。

 冷や汗が滲む。

 どちらも、自分には何だか判っていた。

 推理が正しければ、おそらく……。

 焦りがつのる。

 早く、行動を起こさなければ。

 取り返しの付かないことになる。

     

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