三話「アザレアの花言葉」⑦
三話ようやく中盤です!
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閑散とした住宅街を二人で歩く。
肩を貸そうかと提案したら、真っ赤になって詩歌は首を振った。
午後のティータイム。躑躅町は静かだった。
「恭平くん」
無言に耐えかねたかのように、詩歌が口を開いた。
「さっきは失礼な事を言ってごめんなさい。ただ、やっぱり妹を奪ったあなたを許せそうにはありません」
「……そうか」
そうでなくてはならない。
感情を殺せ。
俺を憎む事こそが、彼女自身を守ることなのだ。
再開したその日の夜、彼女はこう言った。
――私とあなたは今日出会った。
そう、言ったのだ。
解っている。
それは過去を水に流すという意味ではない。
それ以前の俺を決して許さないという意思表明……!
忘れてもいいのか、過去の罪を。
いや、忘れてはならない。
彼女は決して忘れない――。
「でも」
と彼女は戸惑うように。
「朝、のことは、嬉しかった、です」
いったい幾千の葛藤が詩歌の身を割いているのか、俺には想像はつかない。
少し照れたように顔をそむける彼女の言葉を、疑いたくは無かった。
長いようでとても短い帰り道だった。
六年前、何度も通った道だ。
身体が覚えていた。
アザレアの庭。
三人で子供の頃は駆けまわった。
無残にも葉は枯れ、茶色く濁っていた。
閑静な住宅街。どこにでもあるような庭付きの一軒家。
詩歌の、家だった。
少し、呆けてしまった。
昔を思い出していた。
「ここまでで大丈夫です、ありがとうございました」
俺の様子を知ってか、詩歌はピシャリとそう言った。
「大丈夫なのか」
「母はいますが、とても静かです。父は仕事にいっています」
体調のことを尋ねたつもりだったのだが。
無意識下での恐れが見えた。
「わかった。お大事に」
「はい、明日はたぶん大丈夫です。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
詩歌はそう、背を向けた。
俺は詩歌を見送る。
――臭うな。
彼女の淡い香りに混じって、家の奥から覗く醜悪な臭い。
詩歌が玄関を開けて一層強まる臭気。
肉の腐ったような臭いと、強烈な薬品臭。
「まずいな……」
知らず、言葉が零れ出た。
冷や汗が滲む。
どちらも、自分には何だか判っていた。
推理が正しければ、おそらく……。
焦りがつのる。
早く、行動を起こさなければ。
取り返しの付かないことになる。




