三話「アザレアの花言葉」⑤
三万文字突破!!
次は五万文字を目標に頑張ります!
だいたい文庫本は一冊十万文字らしいです……
プロの方はすごいです!
自分も質はともかく、それくらいの量を書き上げられるように頑張ります!
目が覚めた詩歌は、すっかり意気投合した俺達を見て、不思議そうに首を傾げた。
「店長、女の子に相手にされないからって、ついに……」
「「気持ち悪いこというなよ!」」
見事にハモった俺達を見て、詩歌はくすりと笑った。
榊が少し驚いた顔をしていた。
「感謝するぜ、片倉……いや、店長。初めて瑞原さんが笑ったのを見たよ」
実際は、笑ったというより微笑んだだけのものだったが、榊はいたく感激していた。
ちょっと待て、今なんと?
店長? 店長って言った?
「……何二人してこそこそ話してるんですか、気持ち悪いですよ」
詩歌には聞こえていなかったらしい。
俺は嘆息して。
「早く顔洗ってこいよ、メイクが涎でぐちゃぐちゃだわ」
実際にはそんなことなくて、本当に可憐で、可愛らしくて。
「~~~~~~!」
だが詩歌にはそんな冗談は通じなかったらしい。すぐに化粧室に駆け込む彼女をみて、榊が一言。
「やっぱすげえわ、お前」
呆れるようにそう言った。
詩歌が起きてる横で、榊と続きを話す気にもなれない。
榊の連絡先を聞き、何かあったらお互いへの報告を徹底する事を約束する。
「ただ、瑞原さんが朝から寝てるのは珍しいな。休憩中はよく見るが」
ふと、榊が疑問を口にする。
まあ、仲間同士隠し事をしても仕方あるまい。
「ああ、一服盛った」
「えええええええ!? 何考えてんだテメエ!?」
「静かにしろよ、詩歌が気づくだろ」
睡眠薬程度は処方箋さえあれば簡単に手に入る。導入の浅いものを使ったが、疲労が濃かったのだろう。すぐ詩歌は眠りに落ちた。
その後衣服をはだけさせ、いくつかの打撲痕、火傷の痕を確認した。間違いなく彼女は暴行をうけているのだろう。決定的だった。
ちなみに、服を脱がしたことはいらぬ誤解を招くため、説明を割愛した。
「真面目そうな顔してとんでもないことするなお前……」
お前もヤンキーそうな見た目に反して、良い奴だわ。
「褒め言葉として受け取っておくよ、よう詩歌! 目は覚めたか?」
先程から常に視界に収めていた化粧室入り口に、詩歌が見えた。
白磁の肌を二月に咲く小梅の花のように赤らめ、ぷんすかと怒っている。あれはあれで可愛い。
「……ふざけてないでオープンはじめますよ」
「はいよ!」
「……了解」
詩歌の号令で俺達は散り、着替えと手洗いを済ませた。
遅れてきた睡魔に、肌を切るような冷たい水が心地良かった。
「あ、そうだ榊」
金髪の背に声をかける。
なんだ、と榊が振り向く。
「キッチンのオープン教えてくれよ。まだ仕事おぼつかないんだわ」
「……わかった」
やっぱこいつ良い奴だ。
◆
オープンは最も時間がかかるものからはじめる。
スープとライス。この二つだ。
厨房の電気をつけ、換気ファンを回す。ガスの元栓を開け、機器のスイッチを入れる。
何をしようかと戸惑っている俺に榊はそう言った。
「前日に洗米した米が冷蔵庫に入ってるから、倍速炊飯でスイッチを入れろ。ああ、スープの湯は八リットルだ、それじゃあ少ない」
レタスをカットしながら、榊は俺に指示をとばす。
「終わったらSAの製氷機から氷を入れてこい、たっぷりだ。待て、洗浄機のパネルにエラー表示が出ている。店長、ガスの元栓をもう一度確認だ、奥にあるから気をつけろ」
「了解!」
俺は元気に指示を受ける。仕事を与えてくれるのは気持ちがいい。嫌なことを忘れさせてくれるから。
「氷の量が少ない。これじゃあランチ前に冷煎が溶けてしまう。食材が傷みやすくなるからたっぷりとだ。それから……」
なかなかのハードワークだった。
自分でやるときは一時間前、いや一時間半前に来よう。
息を切らしながら俺はそう思った。
「アザレアカフェ! オープンします!」
詩歌の小鳥のような涼やかな声が響き渡った。
さあ四日目だ。今日も頑張ろう。
◆