これやこの 行くも帰るも
百人一首 第10首
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関
蝉 丸
数日前、ここで僕は一目ぼれを経験した。
まさに衝撃的だった。
その日の学校の帰り道、テレビを見るため、僕はいつもとは違う道で帰っていた。おやつのパンを買うコンビニがないので普段はそこの道で帰らないのだが、今日はこっちのほうが近道だろうと思った。
そこで女の人とすれ違った。さらさらした黒髪が風になびいていて美しい。ベージュの鞄を肩に提げている。
その女の人の鞄から青いハンカチが落ちた。僕は慌ててそれを拾う。
「あの、ハンカチ落としましたよ。」
女の人は振り向いた。
その瞬間、僕の体は痺れた。震えが来た。
これが一目ぼれか。
「あら、ありがとうございます。」
その女の人は優しそうに微笑んだ。
なんて美しい笑みなんだ・・・。
ハンカチを受け取り、その女の人は去っていった。
名前聞きたかったな。大学生かな。恋人はいるのかな。
僕はまたあの人に会えるだろうか。会ってもっといろんなことを話したい。恋人というのが高望みでもせめて友人になれたら・・・。
それからというもの、僕はあの人に会うため、この道で帰っているのだが、まだ一度も会えていない。
会いたいなあ。ここで会えたのもただの偶然ではなくきっと何か縁があるだろうから。
きっと会える。そう信じる。