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第9話 鯉の討伐作戦(上)

 ボスは鯉の討伐を計画しているらしい。


「討伐って言っても、いままでどこにいるか分からなかったのに、出来るものなんですか?」


「場所が分かれば、計画も容易ですよ。ケイ、説明を」


「はーい、二人ともこの地図を見てくれる?」


 そう言って見せられたのは女の子を捜すときにも見た地図を広げる。


 よく見ると、上から追記されており、建物を無視した直線が何本か引かれている。


「この線は鯉が通った所を分かる範囲で描いたもの。線だけ見るとまっすぐだけど、間を繋ぐと……」


 そうして線と線の間を繋いでいくと、円が出来上がった。


 まるで一種の環状線のように、同じところを泳いでいたらしい。


「つまりこの線上にいれば鯉に出くわすってこと」


「なるほど……それで、どうやって戦う? 空でも飛ぶか?」


「それくらい自由に出来ると良いんだけど、その場合常に飛ぶことを考えないといけないから……」


「つまりなにかに意識を逸らされた瞬間に真っ逆さまと」


「そう。という訳なので、こちらを使います」


 そう言って取り出されたものは概ね拳銃によく似た物品。

 しかし、その先端には忍者が塀を上るときに使われたという鉤爪が付いていた。


「これで片方を鯉に引っ掛けて、反対は電信柱なんかに縛り付けて貰うよ。これは二人にお願い」


「分かった……ただ綱引きになったら勝ち目は無いぞ」


「引っ掛けさえしてくれれば大丈夫。その後は私が綱伝いに登って攻撃するよ」


「綱渡りって……サーカス団に所属でもしてたのか?」


「いやいや、流石に現実じゃ出来ないって……多分」


 ケイの神経の良さにもはや驚愕を越えてやや引いたが、ケイが「する」と言ったならやってくれるだろう。


「で、ケイが登ってる間俺とこの子はどうしてればいい?」


「とりあえず待機かな。もし何かあったらボスが連絡してくれるよ」


「ボスが連絡役ってことは……」


「私はここから連絡するよ」


「……意地でも動きませんね」


 これまでにボスが動いてる所を一度たりとも見ていないような気がする。


 実は重度の引きこもりなのでは……と失礼な事が一瞬脳を通りがかった。


「とりあえず準備が必要だね。十分くらいしたら声をかけるから、その時に作戦開始するよ」


 そうしてケイが台所に飲み物を探しに行くので俺も一休みする事にした。


 女の子はケイと一緒に台所に向かったので、適当に近場の座椅子に腰掛ける。


 この世界は敵対的な存在が現れる代わりに叶えて欲しい事を叶えて貰える、と聞いた。


 ケイやボスといった問題の解決を図る立場の人間を除けば、何らかの願いを持っていてもおかしくないはずだ。


 俺はこの世界を、消去法で女の子が作ったと考えていた。


 女の子は姉に会いたいと願っていた。


 であれば何らかの形で姉が登場している……そう思っていたのだが、現れる気配は無い。


 街は広いのでどこかにいるのだろう、と言われてしまえばその通りなのだが、溶け残った砂糖のような違和感が残る。


 このまま鯉を倒して『はい、おしまい』で済むのだろうか……?


「ワカバ、そろそろ行くよ」


 考えたところで結論は出るものではない。後回しにせざるを得ないだろう。


 あるいは、鯉を倒して初めて何か分かる、そんな事もあり得るのだろうか。


「いってらっしゃい」


 ボスの声はいつでも耳の奥まで自然に入り込んで来る。


 それが思考から顔を上げるタイミングだと教えてくれたかのようだった。


 ケイが案内した場所はアパートから五分ほど歩いたところにある道路だった。


 車にとっては捕まってばかりで不便の多そうな駅前通りの信号だが、夢の中で鯉を捕まえるのに使われるとは予想すら出来ないだろう。


「二人は反対に立って、鯉に鉤爪が引っかかったらその信号の柱に縛り付けてね。出来たら合図をちょうだい」


 そう残してケイは道路沿いの雑居ビルに入る。登るワイヤーは自分で確保するらしい。


 飛んでくると予想されていた方向を目を細めてみると、遙か彼方に小さく何かが向かってきているのが分かる。


「さて、外したらそもそも始まらないぞ……」


 ケイから渡されているのは鉤爪拳銃が一丁、予備の銃がもう一丁。その二発を外せば次はない。


「ワカバ、そう緊張する必要はありませんよ」


 突如、脳内にボスの声が響いた。イヤホンもしていないのに耳の内側から響いて聞こえるのはなんだか不気味だ。


「驚かせてしまいましたね。まぁちょっとした特技ですよ」


 伊達に指示役を立候補したわけでは無いらしい。


「今見えている物が鯉です。タイミングは指示しますので、出来るだけ引きつけてください」


 分かった、と小さく声に出して隣を見ると少女も首肯している。全員に聞こえているようだ。


 段々と、目を細めずとも姿がはっきりと見えるようになってきた。

 正面からではあの独特なウロコ模様もよくわからないが、風通しの大きな口が本来見せるハズの反対側の景色は黒く染まっており、見通す事が出来ない。


 あの向こうが繋がる先は冥府か、はたまたブラックホールか……そんな事を考えると冬でも無いのに身震いしてしまう。


「後五百メートル……二人とも、構えを」


 声に合わせて銃を向ける。このまま一挙一動を抑えて当てる為にもまだ撃てない。


「残り四百メートル」


 百メートルでこれほどにまで差が生まれるのかと、驚いた。


 さっきと比べて、大幅に迫力が増した。

 突然この距離で出会ったら驚いてそのまま逃げ出すかもしれない。


「残り三百メートル」


 ここまでくると側面がどうだったなどと意識する余裕はない。


 東京タワーのてっぺんは遠くに感じでも、この距離は近く感じるのだから不思議なものだ。


「後二百メートル……ここからが勝負所です。もっと寄せて」


 正直そろそろ撃ちたい。もう撃っても良いだろうと思った距離で『ここから』などと言われて少し心が折れそうだとすら感じた。


「百メートル……もう少しの辛抱です」


 もう鯉は俺の顔よりも大きく見える位置まで迫っている。

 今、自分が撃たずにいるのは女の子より先に撃つ真似をしたくないという、ちっぽけな自尊心のようなものだ。


「――六十メートル! 各自放て!」


 号令の声で反射的に引いた引き金は、二つの発砲音と共に綱が飛んだ。



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