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第7話 少女を探して

 商店街は時代がかったマスコットキャラクターが入り口に立っている、歴史を感じるものだった。


 八百屋、蕎麦屋、呉服屋……看板を見るだけでも、かつて様々な店が立ち並んでいた事が分かる。


 しかし、それら全てのシャッターは閉ざされたまま沈黙している。


 今はもう営業していない、かつての人々の息した証。

 営業店舗が無い以上、少女もここには居ないだろう。


 諦め半分で街を見ていると、駄菓子屋があった。そこだけは木造の引き戸が少しだけ隙間が空いていた。

 思い切って力を入れると、重い手応えを感じつつも開く。


 薄暗い店内はともすると閉業しているのかとも思えたが、お手頃サイズのチョコ菓子や揚げ菓子が埃をかぶる事もなく丁寧に並べられた様子から、まだ店が続いている事が伺えた。


 中に他の人の姿は見つからない。少女もいないようだ。

 壁に貼られたセピア色の広告に混じり、真新しい鮮やかな色が目に入る。


 それはショッピングモール新設のお知らせだった。

 地域最大級の文字が印象的な誌面には行き方が示されていた。


 買う物が無くてこれを見つけて移動した、という事は十分に考えられる。

 幸いそう遠くは無い。確認しに向かおう。


 踵を返す時にふとカウンターを見ると、小さな紙が置かれていた。

 何か足跡になるものかと手に取ると、やや薄れた文字で「当たり 五十円」と書かれていた。


 他に何ら特別な表示のない、駄菓子の当たり券だった。


 元に戻すと訳もなく、何か自分も置いておきたいような気がした。


 ポケットを探すが、糸くずが出てくるばかりでいつも入れていた財布は無かった。

 少し悩みつつも、自販機で手に入れた緑茶を置き、その場を去った。


 ショッピングモールは駐車場からして広く、軽く見ても千台近くは止められるように見えた。

 しかし、人のいないモール街の静けさは商店街とはまた違う不気味さがあった。


 入り口すぐにフロアマップがあったが、全長五百メートル越えの三階建てと捜すには骨が折れる。何かしら絞り込める要素があれば良いのだが……


 流石に商店街とは規模が違う。フードコートにはチェーン店がずらりと整列しており、好みが分からない以上、探すなら他を当たってからが良いだろう。


 服屋……も絞り込むには数もジャンルも豊富が過ぎる。彼女の好みどころか俺には一般的な良し悪しも分からない。よってこれもパス。


 そうして絞っていくうちに、ある一つのイベントが浮かびこんだ。


 水族館の展示コーナーだ。


 世界中の様々な魚を集めている……という紹介を見て気が付いた。


 少女が自分の好みを反映させているのならば、魚、ひいては水族館に興味を持つ可能性は十分に考えられる。


 アタリをつけて向かった水族館は、魚のカテゴリーによって区分けがされており、特に熱帯魚のコーナーは外と同じような世界が広がっていた。


 奥に進むと、海水魚のコーナーにたどり着いた。

 ヒラメやハリセンボンといくつかの水槽の先には一際大きい水槽があった。

 そこにいるイルカの姿は、魚に興味が無くても足を止めるほど美しかった。


 なぜなら、そのイルカは黒かったのだ。


 普通の灰めいた鈍色とは違い、まるで夜空のように暗い。


 一目見ただけではシャチと見間違うかもしれない。


「…………。」


 少女もまた、そのイルカに魅入られていた。


 俺が近づいている事には気付く事もなく、張り付くように水槽の中を見ている。


「買い物は終わったのか?」


 全身を震わせて驚きを表現すると、姿をこちらに向ける。


「……どうして?」


「あっちこっち探したからな」


 否定。

 恐らく、聞きたいことが異なるのだろう。


「……探す、理由」


「えっと、アパートの人たちが探してたからかな。一緒に帰ろうぜ」


 沈黙……首肯。


 独特なコミュニケーションをとる少女だが、一つ頷くと自分の後ろを着いてくる。

 多分、これでいいのだろう……?


 水族館から去ろうとすると、女の子は後ろをしきりに振り返る。


「どうした、忘れ物?」


 否定。


「……魚、見たい」


「どうぞ、はぐれんなよ」


 見残していた所があるらしく、俺の警告も届くことなく角を曲がってしまう。


 ここで見失ってはまた推理大会をする羽目になると、追って水族館の中へ入った。


 入り口では知名度のある魚が看板役を担っていたが、中ではマダコやトラフグなど、ややマイナーな種類が目立つ。


 しかし、少女は一つ一つを真剣に眺めていたため、追い付くのは容易だった。


「好きな魚とかいるの?」


 やや迷っていたが、少女にしては珍しくはっきりと答えた。


「イルカ」


「……イルカ?」


 想定外の答えに思わず反芻する。

 てっきり鯉だと思っていた。


「入り口にいた、黒いイルカが好き」


「じゃあ、鯉は?」


「本物の魚がいい」


 どうやら外を悠々と泳いでいるあの『いかにも鯉のぼりです』という見た目は好みでないようだ。


「あ、出口」


 言われて指を指す少女の先を見ると、薄暗かった水族館が終わり、照明で明るく彩られたショッピングモールがあった。


「じゃあ、アパートに戻ろうか」


「うん」


 とても正直で、素直な子。

 今も隣で帰路につくその姿は、とても何か企てているようには見えなかった。



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