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第19話 魚屋にたどり着き

 ケイによると、魚屋にミユキさんの姿は無かったようだ。


 周囲を見回ったが、近くには見つからなかったらしい。


 何時も魚の世話をしているイメージがあったのだが……どこに行ったのだろう。


「ケイは捜索を続けてください。ワカバは合流を」


 俺も行けば何か分かるかもしれない。


 路地で一休みしていたおかげか、体力もある程度回復してきた。


 ハナを見ると、自信気に頷く。こちらも大丈夫そうだ。


 上空では出てくる瞬間を待ちわびる大きな影。


「いいか。せーので飛び出すから、遅れるなよ」


 俺の声に首肯が返ってきた。


 鯉にこちらの動きを悟られないよう、一度視線を遮れる陰に隠れる。


 冷静に息を整え、合図する。


「せーぇ……のっ!」


 ハナは脇目も振らず駆け出した。その勢いは俺にも劣らない。


 十メートル近く走って、僅かに振り返る。


 気付いた鯉が頭を曲げる所が見えた。


 ここで足止めが出来るのならばそうするが、これまでの動きから考えると鯉は恐らくハナへ向かい、何も出来ないように思う。


 鯉がハナに固執する理由は分からないが、俺たちに出来るのはひたすらに足を動かす事だ。


「ハナ、次の信号で左だ!」


 鯉が走りにくく、かつ俺たちが魚屋に近づく道を指示する。


 ボスから教わった地図を思い出しながらも決して脚力は緩めない。


 己の足と記憶力と、ハナの体力が勝負だ。


 ――どうか、持ってくれよ。


 街並みが少しずつ都会を離れ、ビルやマンションが少なくなっていく。


 平屋や小さいアパートがちらほらと見え、魚屋に行った時の風景が近づいてきた。


「次を右に曲がって、交差点を二つ抜けた所にあるはずだ!」


 実際、目的地はもう目の前という所まで近づいてきた。


 ボスを介した連絡は無い。恐らくミユキさんはまだ見つかっていないのだろう。


 迂回している事と足の速さを考えると、十分に探す時間はあったと思うが……本当にいなくなってしまったのだろうか。


「ワカバー!」


 上から声が降ってきた。ケイの声だ。


「見つけたのか!?」


「逆ー! 見つからないから探すの交替して!」


「ケイはどうするんだ?」


「鯉の足止めだよ」


「鯉の足止めって……あ」


 見上げた俺はようやく気付いた。ケイはいつものゴスロリ服はそのままだが、両手には拳銃が握られ、服のあちこちには両刃のナイフが納められていた。


 いつの間にかそんな準備をしていたらしい。


「倒さない程度に色々やるから、その間に何とかして!」


「何とかって……見つからないのにどうすればいいんだよ……」


 とは言え、鯉を倒す実力を見せたケイ以上に、鯉と対面出来る人間もいないだろう。


「気をつけろよ」


「もちろん!」


 ウィンクを一つすると軽快に屋根を飛び移り、鯉へと向かって行った。


 あっという間に駆け上がる様子を目で追ってしまったが、ハナと距離が空いてしまった事に気付き慌てて呼び掛ける。


「行き過ぎだ! 戻ってこーい!」


~~~


 魚屋は一目見た限り、見た目は同じように見える。


 違いを上げるならば、入り口に群がっていた多種多様な魚たちの姿が無くなっている事くらいか。


 空き家のようにも見え、ハナが素通りしてしまったのも無理はない。


「さて……どこから見たものか」


 部屋の扉は全て開け放たれている。ケイが確認のために開けたのだろう。


 部屋を確認するが、確かに姿は見当たらない。


「見つからねぇ……ん、どうした?」


「…………」


 ハナが眉を寄せながら、何だか落ち着かない雰囲気だ。


 首を振って俺の問いに否定しているが、壁や天井をきょろきょろと見渡している。


 まさか秘密の隠し部屋が……って、ないか。


 念のためにクローゼットや魚の餌を取り出していた保冷庫を確認するが、やはり成果は無い。


「八方塞がりだな……」


 全く手掛かりが見つからず、部屋の真ん中で腰を下ろした俺とは対称的に、ハナはあっちこっちを見ている。


 探しているというより、何か考えているようにも見える。


「…………」


 真面目な瞳で、時折考え込むようにまぶたを閉じる。


 俺には見えない何かが、ハナには見えているようにも感じた。


 走り通して体力も落ちてるだろうし、休憩が必要だろう。


 勝手ながらもこの前食べた魚の蒸し焼きの記憶を頼りに、台所へと入る。


 冷蔵庫を見ると、お茶のペットボトルがあった。


「後はお菓子でもあれば完璧なんだが……」


 と思い、水道の上の吊り戸棚をしらみつぶしに開けていくと、お菓子が幾つかあった。


 ハナとミユキさんの好きな麩菓子は無かったが、適当に貰うことにした。


 女の子をお菓子で呼び出して……というと聞こえが悪いが、実際休憩は必要だろう。


 俺と同じペースで走らせてしまったのだ。きっと疲労もそれなりにある。


「ハナ、お菓子の時間にしようぜ」


「――!」


 ハナは振り向きざまに目を見開いた。


「ふふん、好きなの選んでいいぞ……あれ?」


 ハナはその場に固まり、口を僅かに開いた。


 てっきり、喜ぶと思ったのに。


「…………」


 黙ったままなのも、大きな表情変化もあまりしないのもいつも通り。


 でも、そのまま涙を流すなんて。



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