表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第15話 二たび、少女を探して

 ボスの頼みで、再び少女を探すこととなった。


 予想のつく場所としては、やはりショッピングモールだろうか。


 駄菓子屋を越えて、そのまま西に向かう。


 道中、立派な木々に目を向けると、運動公園があった。


 公園にメダカが集まる姿は、子供達が放課後に集う様子にも見える。


 鯉の姿が無い世界は、やや単調ながらも平和に機能している。


 ……そう思ったが、冷静に考えて鯉が他の魚を食べる様子を見たことが無い。


 鯉って、なにを食べて生きているんだろうか。


 鯉のエサを食べる姿は安易に想像出来るが、野生の鯉となると途端に分からない。


 最初に見たときは雲を食べていたようだし、霧や霞を食べて生きているのだろうか……


 いやいや、仙人じゃあるまいし。


 そんな事を考えていると、ショッピングモールに到着した。


 駐車場の空き具合から店内の様子まで、変化は見られない。


 代わり映えのない景色は、移動水族館も同様だった。


 水槽を揺蕩うクラゲとタコ、目玉であろう黒いイルカ……その全てに見覚えがあった。


 とはいえ、魚の美しさに変わりは無く、気が付くと少女を探すという目的を忘れ、水槽を目で追っていた。


 外にも熱帯魚やその他見栄えのする魚はいくらでもいるのは分かっているのだが……ついつい気になってしまう。


 何かが違うのだろうが、その違いがよく分からない。


 ついに出口までのんびりと見て回ってしまった。


 一応、他の人間が居ないことは確認した。


 当然、少女の姿も無かった。


「ハズレか……仕方ない、テキトーに歩くか」


 商店街以上に様々な店舗が立ち並ぶモール街を見て回るのは面倒ではあったが、体力にはまだ余裕がある。


 それに店舗ごとの感覚も狭いので、そこまで時間も掛からないだろう。


 服屋、フードコート、ゲームセンター……一通り歩いて回ったが、このショッピングセンターの中に少女の姿は無かった。


 扉で塞がれているためか、モール街を魚が泳いでいる事も無い。


 人がいない事を除けば、現実と何ら変わらないようにも見える。


 自分の足音だけが響く静謐な通路は奇妙でもあり、僅かに落ち着く自分がいた。


 足を止めると、一切の音が止む。


 呼吸する息遣いすら鬱陶しく感じるほどの静寂。


 そんな安寧も、程なく終わってしまった。


「ワカバ、聞こえますか?」


 突如として、ボスの声が聞こえてきた。


「驚かせないでくださいよ」


「すみません。前回の鯉と戦った時にも一度やりましたので、慣れたかと」


 ボスの言い分も分かるのだが、耳元で突然話し掛けられるようなものだ。


 それも突然。


 すぐに慣れろ、という方が難しい。


「それより、アパートに少女がやってきまして。戻って来て頂けますか?」


「えっ……帰ってきたって事ですか?」


「その通りです。ただし、私では中々話が進まず困ってしまいまして」


 机に阻まれて意識する事は少ないものの、ボスは背が高く、迫力のある人間だ。


 前に話をする時も、少女は俺に耳打ちをするという方法で会話をしていた。


 苦手意識があるのかもしれない。


「分かりました、すぐ戻ります」


「よろしくお願いします」


 それきり、声は聞こえなくなった。


 ……一体、どういう仕組みなのだろうか?


 ため息を一つ吐いて、物静かなショッピングモールを出た。


~~~


 アパートに戻ると、あたかも最初からそうであったかのように少女が隅に座っていた。


 ボスは反対側の椅子に座っており、どこからか見つけてきた新聞を目の前に広げていた。


 お互いに限界まで距離をとっている様子が何だかおかしかった。


 俺は顔を隠しているボスに近づいた。


「ボス、なにやってるんですか?」


「近付くと怖いものを見たような顔をされてしまいますので、妥協点としてこうしているのです」


 新聞で顔を見えなくすることで最大限配慮をしようという事らしい……気が利いているのかいないのか。


 ともかく、当初の目的を果たすべく今度は少女と目線を合わせて話をする。


「あー……俺の事、覚えてる?」


「…………ナンパ?」


 違う、と言い掛けたが今のは聞き方が悪かった。


 どう考えても道行く女の子に声を掛けるときのやり口だ。


「ごめん、そんなつもりじゃなくて」


 慌てて言葉を重ねようとする俺を、笑みを浮かべながら首を振って止める少女。


「覚えてる。麩菓子のお兄さん」


「麩菓子……」


 麩菓子の人として認知されていた。


 大変不本意ではあるが、覚えてもらっているだけ良しとする。


 実際、俺も呼び方を知らない訳だし。


「君の事なんて呼べばいい?」


 そう問うと、まぶたを閉じて考える仕草をする。


 ……そのまま数十秒。


 眠ってないか怪しくなって来た頃に、返事が帰ってきた。


「……ハナ」


「よろしく、ハナ」


 頷き、僅かに微笑みが返ってきた。


「それでボス、聞きたかった事はなんですか?」


「以前に知っているが景色が違う、と言っていただろう? 具体的な違いについて聞きたくてね」


 確かに以前ボスが聞いた時に、そのような事を言っていた。


 あの時は、すぐ後に鯉を討伐するという話が入りうやむやになってしまったが……


「ハナ、自分の知っている世界と違うところについて、教えてくれるか?」


 問うと、眉を寄せて考える。


 しばしの空白の後に返ってきた返答は、不思議なものだった。


「多分……お店が違う?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ