第14話 再開
突拍子もないミユキさんの一言によって、俺たちは二人で出歩く事となった。
とは言え鯉が何処にいるか分からない以上、あてもない。
前は地図があったおかげで何となく分かった道のりも、今日は見当もつかない。
何となくで彷徨うしか無いか……と思っていると、ミユキさんが道を先導してくれた。
手近なコンビニまで連れてきて、カウンターにあったから揚げを食べる。
「良く道が分かりますね」
「なんとなく、よ? ……それより、噂の鯉、見えないわねぇ」
不思議なことに、あんなに大きく目立っていた鯉が今日はどこにも見えない。
始めは家の影に隠れているのかも……と思っていたが、どこまで歩いても姿が全く見えない事に違和感を感じる。
「どこか行きたいところはあるのかしら?」
空を見上げ、きょろきょろと落ち着かない俺を不思議に思ったか、ミユキさんが問い掛ける。
「えーっと……商店街とか、どうですか?」
何となく言っただけの提案ではあったが、ミユキさんは喜んで案内してくれた。
俺たちは以前立ち寄った駄菓子屋にいた。
「何だか、懐かしい気持ちになるわね」
ミユキさんは幾つかの商品を眺めながらも、やがて一つのお菓子を手に取る。
「これ、頂こうかしら」
懐から当たり券をカウンターに載せ、封を開ける。
一口齧った所で、ピタリと一時停止したかのように動きが止まる。
「……飲み物、あるかしら?」
「どうぞ」
何を隠そう、選んだのは麩菓子だった。
展開が予想できていたので、お茶を用意していて正解だった。
「やっぱり、誰が食べてもそうなりますよね」
「あら、ワカバ君も麩菓子が好きなの?」
「好きというか……食べさせられたというか……」
以前、夢の中で出会った少女を思い出す。
物静かではあったけれど、大切なものを持っている子だった、と思う。
「私も麩菓子は好きよ。しょっぱいし喉が渇くから、お茶菓子にもちょうどいいのよ」
その後も麩菓子の美味しさを語ろうとするミユキさんを宥めつつ外に出るが、鯉の姿は見つからなかった。
一体全体、どこへ消えてしまったのだろう。
「私、そろそろ帰らないと。皆にご飯をあげてる途中だったわ」
そう言い残し、ミユキさんは帰っていった。
「え、ちょっと」
あまりに突然の行動に、止める間もなかった。
「気ままな人だ……」
ここまでくれば、ケイやボスのいたアジトまでそう遠くない。
少なくともボスはほとんど動いている所を見ないので、恐らく出会えるだろう。
少し顔合わせでも出来ればと思ったが……仕方がない。
そう見切りをつけ、慣れてきた商店街を歩き出した。
空を見渡しながら歩いていたが、ついぞ鯉に出くわす事もなくいつものアパートまで戻ってきてしまった。
「誰かいるか?」
「あ、ワカバだ!」
「またお会いしましたね」
アパートにはボスとケイの二人がいた。
「あれ、女の子は……?」
「前いた子? 見てないなぁ……どこかにいるのかも」
どうやら所在を把握している訳では無いらしい。
「そういえば、さっき別の人には会ったぞ。ミユキさんって人」
「え、どこで?」
歩いてきた道のりからおおざっぱな方向と距離を述べると、ケイは近くに置いてあったジュースを一気飲みして出かける準備を整えた。
「ちょっとミユキさんを探してくるね!」
あっという間に家を飛び出していったケイに、少しだけミユキさんの姿が重なって見えた。
「ケイは行動が早いのが美点ではありますが、行動力のあまり計画性に欠ける所がある、といつも言っているのですが……」
ボスはいつもの如く、場違いに大きな机の向こう側に座っていた。
机の上に置いてある地図を見せて、詳細な場所を書き込んでいるようだ。
「ワカバ君、少し頼み事をしてもいいかね」
「なんでしょう」
「また例の少女を見つけて欲しいのです。本来はケイが人捜しをするのですが、飛び出してしまった以上人員が足りません」
「え、ボスが自分で……」
「よろしく頼みます」
「あの……」
「何か質問は?」
「……無いです」
ボスの有無を言わさぬ語気に当てられ、話を打ち切られてしまった。
地図を片手に、外へと戻る。
せっかく戻ってきたアパートも、早々に追い出されてしまった。
「……仕方ない、行くか」
独り言に返事があるはずもなく、俺は街を彷徨う事となった。




