生態系
数日後
圭介は、広場の岩に腰を下ろし、ダンジョン内の様子を眺めていた。
「……なんつーか、動物園のふれあい広場?」
ミルワームたちは壁から壁へ移動し、土を食べ続けている。
ウズリットたちはその背後をついばみ、時折、捕食が始まる。
「おいおい……ウズリット、ミルワーム食ってんのかよ」
ピッと鳴いたウズリットが、50cm級ミルワームをちぎりながら食べている。
《ウズリットの主食は小型の虫類。ミルワームは適正食です》
「いや、適正って言われても……」
さらに視線を動かすと――
ラットファングが、ウズリットに飛びかかる瞬間を目撃した。
「うわ、食ってる……!」
《ラットファングは雑食性で、小型動物を捕食します》
思った以上に自然界そのものだった。
ただ、驚きはしたものの、すぐ気づく。
「あれ……数、減ってない?」
ミルワームはさらに壁の奥へ潜り込み、新しい個体が土の中から顔を出している。
ウズリットも巣のような場所を作り、卵らしきものを抱いていた。
《繁殖が順調に行われています。生態系は均衡しています》
「なるほど……捕食されても増えるってことか」
《はい。現在のダンジョン内は“安定生態系”に移行しました》
《ミルワームによって土壌の分解と再生成が進んでいます》
《ダンジョン全域の土壌環境が整いました》
圭介は手を伸ばし、壁の土をつまんだ。
数日前よりも柔らかく、湿り気があり、生きているような感触がする。
「すげぇ……本当に“ダンジョンが育ってる”ってかこの広場もっと狭くなかった?」
《ミルワームの行動により拡張されました。》
《これにより、追加機能が解放されます》
《植物配置:苔・草類を配置可能》
《水場生成:小規模水源の設置が可能》
「苔とか草……?」
《ミルワームの排泄土壌は高栄養成分を含み、
植物の定着を促します》
「つまり、森ができるってことか……ダンジョンの中に」
《規模は小さいですが、環境再現が可能です》
圭介は少し笑ってしまった。
「なんか……家って感じがしてきたな」
生き物がいて、土が呼吸して、緑が芽吹く。
あの日、突然ゴブリンにされて放り出された洞窟とはまるで違う。
圭介が造った“拠点”になりつつあった。
「よし……植物、配置してみるか」
コアのメニューを開くと、植物の候補がずらりと表示された。
苔、薬草、ラディッシュに似た根菜――どれも低コストで配置できる。
「コストも抑えたいし、苔と薬草がバランス良さそうだな」
圭介が意識すると、土の上に柔らかな緑色がふっと広がった。
岩肌の間に淡い苔が貼りつき、ところどころに薬草の若芽が顔を覗かせる。
さらに通路の節目には、小さな赤いラディッシュ状の野菜も芽吹き出す。
「……おお。めちゃくちゃダンジョンっぽいじゃん」
生命が増えると、本当に雰囲気が変わる。
次に圭介は中央の広場へ向かった。
ミルワームたちが走り回り、ウズリットの群れが羽音を立てている場所だ。
「水……水源って、こんな感じでいいのか?」
『小規模な水たまり形式を推奨します。
循環機能を構築し、枯渇の心配はありません』
「じゃあ、それで!」
圭介が選択すると、地面の一角がぼこりと沈み、透明な水がじわじわと湧き出してくる。
広場にも苔が敷き詰められ、薬草が群れ、そして――毒草の表示。
「毒草は……一応置いとくか。使い道、後で考えるし」
薄紫色の葉をした毒草が、水源近くに小さく芽を出す。
適度に離されて自生するよう配置されており、誤って圭介が踏む心配はない。




