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ダンジョンマスターは人間に戻りたい〜地獄から始まる転落人生〜  作者: REI


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2/5

目覚めるダンジョンマスター


暗い。


息をするたび、湿った空気が肺にまとわりつく。

岩肌のような壁、土の匂い、そして……奇妙に鼓動する音。



ここは……どこだ?



ぼんやりとした意識のまま、俺は手を見た。

細く、緑色で、ざらついている。

指の先は鋭い爪に変わっていた。



「……冗談だろ」



間違いなく俺の手なのに、どう見ても人間じゃない。

皮膚は硬く、筋肉は妙に軽い。

鏡がなくてもわかる。



俺は“化け物”になっている。



その瞬間、頭の中に声が響いた。


『ダンジョンマスター、起動を確認。初期設定を開始します』



「だれだ?」



『こちらはダンジョンコア。本ユニットはマスターの補助を担当します』



無機質な、けれどどこか冷たい女の声。

思考が追いつかないまま、視界の前に光のパネルが浮かんだ。



============

【ステータス】

名前:山本圭介

種族:ゴブリン

職業:ダンジョンマスター

魂ポイント:0

階層:地下1階

拠点耐久値:100%

============



「ゴブリン……? 俺が?」


たしか俺は――死んだんだ。

閻魔大王とやらと、話した気がする。

上手く、記憶がつながらない。妙な気持ち悪さが心に残る。


だが、次の瞬間にはこの洞窟にいた。


『マスターは死亡後、魂の再利用対象に選定されました』



「再利用……?」



『覚えてませんか?この世界における“ダンジョン”の維持には魂エネルギーが必要です。あなたはダンジョンを運営し、魂ポイントを収集します』



「俺が、ダンジョンマスター……ってことか」



『はい。魂ポイントを一億貯めることで、人間への再構成が可能です』



「一億……そんなバカな」


現実味なんてまるでない。


けれど、他に選択肢はなかった。

この体で生き延びるしかない。

生き返るために、戦うしかない。



『警告。外部侵入者を検知。警戒レベル:C。距離、約40メートル』



「侵入者……もう来たのかよ!」


足音が響く。複数人だ。

たいまつの赤い光が、岩の間から漏れている。



『迎撃を推奨します。モンスター召喚や罠の設置には魂ポイントを消費します』



「魂ポイントって……まだゼロだろ」



『はい。したがって召喚は不可能です』



「じゃあ自力でやるしかないのか!?」


手元を見ると、錆びた短剣のようなものが落ちていた。拾い上げる。軽い。

手に馴染まないが、武器があるだけマシだ。


足音が近づく。甲高い金属音と、たいまつの揺れる光。三人組の人間だ。革鎧、弓、詠唱を始める魔術師。普通の冒険者の装いで、普通に笑いながら歩いているようにも見えた。


胸の奥がぎゅっと締め付けられる。人間の足音。人間の息遣い。心臓が、まだ人間だった頃の感覚を一つひとつ揺さぶる。


(これ、やっちまっていいのか――?)


頭の中で疑問が反芻する。

俺は今、ゴブリンだ。薄汚れた爪をした化け物の手。



だが、その中身は確かに山本圭介だ。

ゲームの中にいるような感覚に陥る。


昨日まで会社のデスクに座っていた、妻の顔をはっきり覚えている。あの笑い方、寝顔の小さな皺、休日に作ったカレーの焦げた匂いまで。


人を殺すという行為の重さは、不思議となく、やらないといけない。むしろ楽しむような高揚感が湧き上がる。


俺が人に刃を向けたことはあったか。

いや、職場で怒鳴ったり、喧嘩をしたことはあった。

けれど、目の前の人間の喉を掻き切るなんて、想像すらできなかった。


だが、現実は別だ。こいつらは「侵入者」。


「勝てば、ログアウト出来る。」


ダンジョンに入ってくる者たちは、宝を奪い、命を奪うことを辞さない。


ここに来るということは、ルールを受け入れたということだ少なくとも、この世界のルールではそうだ。


(……でも、それは言い訳に過ぎない)


圭介の内部で、二つの声がぶつかる。


一つは人間としての倫理。

人を殺してはいけないという当たり前の線。

もう一つは、今の状況に抗えない現実。


魂ポイントはゼロ。武器も罠も召喚も使えない。生き延びるために何を差し置いても行動しなければ、この体で生き残れない


人間に戻る機会すら消える。


ふと、ダンジョンコアの淡々とした声が耳に入る。


『注意:外部侵入者は魂ポイント源です。非致死措置は可能ですが、得られるポイントは大幅に減少します』


非致死で行けるのか。意図せぬ救いにも思えた。

だが、戦闘の最中に完全な制御ができるか? 


そして、非致死にしたところで、次の侵入者に殺されるリスクはどうなる? 


次の侵入者が“人間”である以上、慈悲は自分の首を絞める可能性が高い。


(俺は戻りたいんだ。人間に。妻の顔をもう一度見たいんだ)


記憶が、全ての決断の後押しをした。

愛着も懺悔も、全部まとめてこの胸の奥に押し込める。


もし今、目の前の人間たちに躊躇して致命傷を与えられなければ、次に来るやつらに殺される。


そうなれば、ここで終わりだ。

ゼロから始まった魂ポイントは永遠にゼロのまま。



「……悪い。すまない。だが、俺は生きる。生きて地球に帰る」



圭介は自分の声を聞いて、驚いた。

それは諦めでもないし、憎しみでもない。

もっと単純な生の欲求の声だった。

人は本能的に生き延びようとする。


その当たり前の声が、今は最も真実に思えた。


短剣を握り締め、岩陰から飛び出す。

足先に冷たい床の感触が走る。

たいまつが揺れ、冒険者たちが顔を上げる。


「ゴブリンだ! 気をつけろ!」


弓が引かれ、詠唱が漏れる。

だが圭介は、もう躊躇わない。


素早く前方へ蹴り込み、剣士の足元に滑り込む。刃を逆手に回し、喉元へ突き上げた。


抵抗の叫びが、暗闇の中に裂けた。

その姿を見ただけで、心が軋んだ。


俺が“戻りたい側”の存在。

だから今は、倒さなきゃいけない敵だ。


『侵入者排除で魂ポイントを得られます。倒した魂は、すべてマスターに還元されます』


「……悪いな。俺は、俺のために生きる」


たいまつの光が近づく瞬間、俺は飛び出した。

弓が放たれ、矢が肩を掠める。

痛みが走るが、恐怖はない。

むしろ、燃えた。

 

この小さな体でも、戦える。


この世界が“命の奪い合い”なら、俺もそのルールで戦う。


「っ!」


剣を受け流し短剣を逆手に持ち替え、再び、喉元へ突き上げた。


鮮血が飛び散り、冒険者が崩れ落ちる。


『魂ポイント+300』


声とともに、体の奥に熱が流れ込む。

妙な感覚だ。血よりも、もっと生々しい“命の実感”。


「一人……!」


残りの二人が動揺した瞬間、俺は岩壁の影へ滑り込み、魔術師が詠唱を始める前に背後を取った。


短剣で脇腹を裂き、次いで弓使いの喉を掻き切る。


静寂。


たいまつが地面に転がり、炎が揺れる。

俺は荒い息を吐き、血の匂いの中に立っていた。



『迎撃完了。魂ポイント+600。合計:900』



「……たった、九百か」


一億まで、あと99,999,100。

笑うしかない数字だった。



『獲得した魂ポイントは召喚・強化・拡張に使用可能です。』



「使えば強くなれる……けど、貯めなきゃ生き返れない」



まるで、両手を縛られたゲームのようだ。

進化のために使えば、生き返りが遠のく。

貯めれば、次の侵入者に殺される。



「上等だ……やってやる」



血に濡れた短剣を握りしめ、俺はダンジョンの奥を見つめた。

 


この小鬼の姿で、どこまで行けるのか。

魂の果てまで、試してやる。


死んで元々、このチャンスを逃すわけにはいかない。


闇の中、ダンジョンの心臓が低く脈打った。


ちょっと長くなってしまいました。

これはのんびり書く予定ですので、ぜひブックマークよろしくお願いします。


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