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五話 くずれた落雁

 考えてばかりだと、糖分が欲しくなる。うん、必須アイテムだ。


「ねぇ、ゾーイ。あたし、あんたのどこが好きだったんだっけ?」


 試作品の落雁を型に入れてみたけど、まだ全然上手にはできてない。いびつに欠けた落雁の味もいま一つだし、ぽくぽくとした歯ざわりがない。なんだかなぁ。


 そんなあたしを、ひややかな目で見つめてくるゾーイ。


 おやおや?


 さっきまでのディール様との盛り上がりがウソみたいに感じるぞ?


「あのさぁ、ノゾミ。そういうことを、本人に聞くのはなしな?」


 なんだか急にお兄さん風を吹かせるゾーイに腹が立つ。


 だって、ゾーイとはおなじ年だもの。


 一見すると粗野な風貌のゾーイだけれど、これまでの人生で彼女がいなかったことなんてなかったんじゃないかってほどのプレイボーイ。


 つまり、放牧していても勝手にモテるタイプ。


 けど、あたしはちがう。十才の時にゾーイに告白して玉砕してからというもの、恋をすることを完全にあきらめてしまった。


 その分、お針子とお菓子づくりに没頭できたわけだけど。


 これまではそれでよかった。  


 でも、今はちがうと思う。


 こんな気持ちのままで、きちんとおいしいお菓子をつくれるはずがない。


 だからこそ、あえてゾーイに質問したんじゃないよ?


 凄んで見せてもゾーイは引かない。


 なにせ昔から腕っぷしの強いゾーイだから、初対面の女の子にたよられても断ったことがない。


 ゆえに、ゾーイはトラブルを抱える女の子を放っておけない百戦錬磨のゾーイとあだ名されるほど人望がある。


 それほどゾーイは強くてやさしいのだ。


「ってか、正直言うと、オレにもよくわかんねぇ。女の子は好きだし、たすけてあげるべき存在だけど、どうもまだこう、結婚したいな、っていうほど誰かのことを独占したいと思ったことがないんだ」


 恋って、そんなものなのかしら?


 百戦錬磨のゾーイが言うくらいだから、そうなんだろうけど。


「昔、オレたちがチビだった頃さ。実はオレ、ノゾミのことが好きだったんだぜ?」

「じゃあ、なんでふったの?」


 そんなのおかしいじゃん。


「それがさぁ、友だちでノゾミのことを好きなやつがいてさ。だからなんとなく、って感じでな?」

「ふぅ~ん?」


 ゾーイは見かけによらず優しい。女の子や弱い人に対しては特に優しい。だからきっと、そんなところを好きになったんじゃないかと思うけど。


 だめだ、思い出せない。


「ねぇ、もしその時、両想いになっていたら、今頃あたしたち、どんなふうになっていたと思う?」

「え?」


 えって、えっ!?


 なんで? 


 なんでゾーイがそんなに顔を赤らめてるのよ?


 あ、わかった。


「熱があるんだ?」

「ちがうわ、ボケ~っ!!」


 そう? ならいいけど。


 つづく

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