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三話 ラムネの味

 まるでお酒を飲むように、ぐびぐびとラムネをあおったディール様が、端正なお顔に似合わず豪快にゲップした。


「がっははっ。ディール様でもゲップするんっすね?」


 ポリポリと食べる方のラムネを自分の口に放り込んでいたゾーイが大口を開けて笑った。


 それまでなんとなく緊張した面持ちだったディール様だったけど、つられてほほ笑んだ。


「きみ、仕事はなにしてるんだ? 見たところ、農家のようだが?」

「オレですかい? なんでも屋ですよ。オヤジの畑を手伝ったり、子どもたちに武芸をしこんだり。頼まれればイノシシだって、熊だってスライムだって仕留めてみせる」


 へぇ~? と、心底意外そうなお顔をなさったディール様が、パッと右手をゾーイに差し出す。


 一瞬、なにが起きたのかわからなくて戸惑うゾーイに、ディール様は、にっこりとほほ笑んだ。ああ、この笑顔は人たらしすぎるっ!!


 まぶしいっ。まぶしい~ぃっ!


「きみ、よかったら城で働かないか? ちょうど門番を探していたところなんだ。武術にたけているのなら、それくらいお手のものだろ? スライム狩りも得意ならなおさらだっ」

「え? オレでいいんっすか? やった!! ついに定職にありついたぜっ!!」


 天井に向かってガッツポーズを決めてから、ゾーイが音をたててディール様の右手を握り返した。


「オレの名前はゾーイってんです。いやぁ、ありがたい、ありかたい」

「こちらこそ、ありがたいことだよ。それで? ノゾミはどうする? 城で働かないのか?」


 あれ? あたし、そんな複雑な話なんてしていたっけ?


 昨夜のうちに、父さんに頼んでおいた落雁(らくがん)の木枠の手入れをしていたあたしは、ついキョトンとしてしまう。


「なに? ノゾミのやつ、ディール様から直々に指名されてんのか? ついにギュルディーノ王の奥方候補としてスカウトでもされたのか?」


 まぁ、食い物作るのと、針仕事と、外見以外に取り柄はないけどな、なんて笑うもんだけら、ついむかっ腹がたってゾーイのすねを蹴り上げた。


「いってぇなぁ。なにすんだよ!?」

「あんたねぇ、言っていいことと悪いことがあるでしょうよ。いくらゾーイがあたしの初恋の人だからって、食べ物とお針子だけしか褒めないなんてひどすぎるわ。少しは女らしいって褒めてくれてもいいじゃないっ」


 って、あれ? ほかにもなにか褒められたような気がするんだけど、わすれちゃった。


「ゾーイはきみの外見も褒めていたぞ? 一応はな」

「そう、一応はな。だまってさえいれば、それなりに美人なんだし」

「それじゃ、あたしがじゃじゃ馬娘みたいじゃないよっ!?」

「「ちがうのか?」」


 あ。そうかもしれない。複雑な褒め方をされたものだから、外見を褒められたことに気づけなかった。


 けど、それは単に容姿を褒められただけであって、女性らしいと言われたわけじゃない。


 なにが悲しくて、だまっていればそれなりに見えると言われてよろこぶ女子がいるのよぅ!?


 怒りにまかせてラムネを飲んだら、口の中でシュワシュワとハジけた。


 つづく

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