二話 ラムネをめぐる攻防
「もしノゾミがマイペースじゃなくなったら、天変地異が起きたりするかもしれないな?」
そんなふうにふわりと笑うディール様は、まだほんの少しだけあどけなく見えて。あたしもつられて笑ってしまう。
「ちなみに、今日のお菓子とはどんなのだ? 味見してもいいか?」
それなら、と答えつつ。針仕事をいったん置いて、家具職人の父さんお手製の猫脚テーブルに乗せてある籐籠に目を向けた。
「今日のお菓子はラムネづくしなんですよっ」
我ながら力作! とばかりに力こぶしを握りつつ、一パックずつ袋詰めにしたラムネを見せた。
ラムネはたくさん作ってしまったから、来客用の菓子皿の上蓋を取りつつ、瓶の飲み物も手渡す。
「なんだ? これ? 酒?」
瓶の中で爽やかな透明度を保っている液体に興味津々のご様子なディール様。ふふっ。かわいらしくていらっしゃる。
「お酒ではないんですけど。生憎専用の蓋がないのが残念ですが、とても爽やかな炭酸飲料なのですよ」
「ふぅ~ん? 飲んでもいいのか?」
菓子皿からラムネをつまみ食いしていたディール様が、瓶の蓋を取ろうとしたその瞬間――。
「ノゾミー。今日も菓子もらいに来たぞぉ~」
たいへん!!
幼馴染み登場!!
なんとあたしの初恋の人でもあるゾーイが荒々しくドアを開け放つ。
ゾーイとディール様が謎の視線を交わし合う。
ああ、福眼、福眼。
「「誰だ?」」
まったく身なりの違うタイプのイケメン二人の声が合わさる。
この場所にいられてしあわせぇ~。
「ボクはディール。魔王ギュルディーノの弟だ」
ふん、とばかりに胸を張るディール様。
「オレはゾーイ。ノゾミの幼馴染みだ。で? なんで魔王様の弟君がわざわざこんな狭っ苦しい場所にいるんです?」
おいおい。あたしだけが置いてきぼりかよっ。
「ああ、わかりました。あなたでしたか。毎日ノゾミにお菓子を作らせているのは」
「そうだが、なにか?」
なんだか棘のある会話になってきたなぁ。
二人とも、話し合えば仲良しになりそうなのにな。もったいない。
「ふぅ~ん? 今日はラムネか、ノゾミ。ディール様、なんなら蓋をお取りしますが?」
ああ。ゾーイは普段とても気さくなのに、時々虫の居所が悪いと、こうやっていじわるになる。
困ったもんだ。
それにディール様にしても、わずかながらそういった部分があるから、二人でにらめっこがつづく。
「おかまいなく。この程度の蓋なら、簡単に……?」
ぐあっ!? なんて奇声をあげて、ディール様がのけぞる。どうやら、ディール様の体温があがっていたらしくて、蓋を開けた瞬間に炭酸が噴き出したのだ。
「あっははっ。やっちまいましたな、ディール様。けど、飲んだら酒よりうまいんですぜ?」
怪訝そうな表情を浮かべていたディール様だけど、瓶の中で落ち着いてきた炭酸飲料をひと口飲んだ。
「あまい」
「そのまんまじゃないっすか。あっははっ。あんた面白い人だな。すかしてるだけのお人形かと思ってた」
「すかしてるって、ボクのことを馬鹿にしているのか?」
「いいえ。そんなつもりはござんせんよ。で? ラムネは気に入ってくれました?」
「ああ」
渋々といった感じだったけれど、ディール様のお口に合っていたようで、安心した。
つづく