伝播（でんぱ）していく熱（ねつ）
「はい、叔母さん。氷枕の上に頭を載せてください、熱冷ましのシートも額に貼りますから」
てきぱきと、姪が私をベッドに寝かせて、看病をしてくれた。ちなみに私が寝かされたのは、姪の部屋である。普通なら姉の寝室に、叔母である私を運びそうなものだが、熱のある私は其処まで頭が回っていない。
「おかしいなぁ……半袖だった貴女は平気で、何で私の方が風邪をひくのかしら……これが若さって奴かしらね……」
「朝のファミレスでも話しましたけど、叔母さんの生活が不規則で、食生活も乱れているからだと思いますよ。ペットボトルを置いておきますから、ちゃんと水分を摂って。コーヒーは駄目ですよ、脱水症状になります。お粥も作りますから、ゆっくり休んでてくださいね」
「うぅ……面目ないわぁ……」
意識が、ぼんやりする。私は姪の世話をしに来たはずなのに、これでは逆ではないか。うなされながら、私はベッドから半身を起こして、エプロン姿の姪にお粥を食べさせてもらう。ありがたいのだが、残念なことに味が分からない。厄介な伝染病なのだろうか。あるいは姪が、ただ味付けに失敗しただけのような気もした。
まるで風邪をひきがちだった、子どもの頃みたいだ。そう思ったとき、何かが頭の中を掠めた。昔、こんなふうに熱を出して、そのときに何かが起きた気がする。決定的な、何かが……。
思い出せそうで、思い出せない。私は更に別の、これまで封印してきた記憶を思い起こしていた。今まで忘れていたのは、後ろめたい思い出だったからか。当時、私は十五才だった。姉は早くに結婚して出産をして、そのときに姪は五才であった。
私は姉が幼かった頃を知らない。十才の年齢差があったからで、物心がついたときから、私は姉に恋愛感情を抱いていた。姉が二十才で結婚して実家を出たのは、きっと私たち姉妹に取って、良いことだったのだろう。
姉の夫は、年配の忙しい人で、姪が五才になる前に亡くなってしまった。姉は夫が建てた家に住み続け、その家に私や母が泊まって、育児を手伝ったものだ。封印していた私の記憶は、その時期のものだった。
私は姉の家で、幼い姪をお風呂に入れていた。当たり前だが、姪の顔には姉の面影があって。そして姪の姿に、私は姉を重ねたのだ。見ることが無かった、姉の幼女時代。決して手の届かなかった姉という存在が、無防備に私の前へ現れた気がして。私は、姪に悪戯をした。
一度だけ、だったと思う。いや、複数回かもしれない。許されることではないと分かっていて、私はその記憶を封印した。そして私が姉の家を訪ねることは、少なくなっていった……。
意識が遠ざかっていて、気がつくと私は、ベッドで姪から服を脱がされていた。びっくりして、全く身動きできない。「ああ、起きました？ 汗、拭いちゃいますね」と姪が無邪気に笑っている。私は仰向けの状態で、手際よく剥かれて全身の肌をタオルで拭われていった。
「め、姪ちゃん。そんなこと、しなくていいから……」
「遠慮しないでください。昔、叔母さんが私をお風呂に入れてくれたじゃないですか。その、お返しですよ」
この子は、私の行為を覚えているのだ。私は赤ん坊のように、足を開かされた。姪がベッドの上に、膝立ちで圧し掛かってくる。ピンクのネグリジェ姿は桜の妖精を思わせた。
「……ご……ごめんなさい。許して……」
「謝らないでください。私、嬉しかったんです、あのときのことが。あれが私の初恋で、今も私は叔母さんを愛してます。だから、どうか拒まないで……」
姪の顔が下に沈む。私は開かされた足の間を苛められて、何度も何度も啼かされた。
「何で、そんなに上手なの……？」
「勉強しましたから、ネットの漫画とかで。叔母さん、今の気持ちは？ 何を望んでますか？ 正直に、教えてください」
「恥ずかしいわよぉ、こんな格好で……でも、止めてほしくない。お願い、もっと続けて」
「私も、そうでしたよ。昔、叔母さんにされたとき。同じ気持ちになってもらえて嬉しいです。一緒に堕落しましょう、叔母さぁん……」
姪の白い肌が上気していて、桜色になっている。この子は私の姉より、容姿は子どもっぽい。しかし内側に淫靡な熱を持っていて、それに当てられて私は発熱したのではないか。そんなことを考えた。
得ることを諦めていた悦びが、私の中で開花する。今や姪の身体は私よりも熱い。私と姪は、ひたすら堕落し合いながら、同じベッドで夜を共に過ごしていった。
