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素敵な終末を  作者: 黒喰ちひろ
第一章 その手が導く未来
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001

 


「___鈴木ユウ、あなたに今一度問います。良いですか?選べる道はただひとつ。そして貴方の選択がどうか彼女と、あの世界を導いてあげられることを祈って。」


「最後に、どうかこれだけは忘れないで。

__彼女たちは、貴方のことを    」



 18を迎えたあの日から、時折不思議な夢をみるようになった。

 羽衣を纏った美しい天女様に語りかけられて、最後は自分の足元に大きな穴がぽかんと急に空いて抵抗も虚しく下へと落ちていく不思議な夢。

 何度も何度もみる夢なのに最後に彼女が言った言葉だけは絶対に聞こえなくて。





「.......はあ、憂鬱だ」

「なにが?」

「ワッ!!!!!」


 布団から上半身だけを起こして、あの夢をみた時にだけ感じる "何か大事なことを忘れているようなモヤモヤ感" を取っ払うようにため息を吐いた瞬間、耳元で聞こえた予想外の声に驚きのあまり叫んでしまった。

 起きる前からいたのか、たった今入ってきたのか。どっちにしろノックもせず他人の独り言を聞くような馬鹿で悪趣味な女は一人しかいない。


「へへ、驚いた?」


 ドッキリ大成功とでも言いたげに悪戯な顔でニヤッと笑った馬鹿で悪趣味な女...もとい、幼馴染みである黒喰ちひろを一発ポコッと軽い音をたてて叩いてやった。


「あでっ......もー!!今日はユウが透月祭に行きたいって言ったから早起きしたのに!知らないからね!」


 ぷんぷんと腹を立てた様子で部屋からドシドシと足音をたてて出ていった彼女を尻目に、クローゼットをひらいてパジャマから今日のためにと卸した新品の服へ着替えた。

 今日は「Nー67区」で行われる、一年に一度の「透月祭」の開催日だ。


 リビングへ向かうと、トーストの香りと優しいコンソメスープの香りがした。


「起きるの遅くなって悪かった。...いただきます」

「いいから早く食べて行くよ!いただきます!」


 朝食の並べられたテーブル。

 向かい合わせになって手を合わせるそれが日常。

 幼い頃に両親が他界した彼女と、両親が出張で常に家にいない俺は昔から兄妹のように一緒に暮らすようになっていた。


 目の前の彼女は頬いっぱいに詰め込むリスみたいで、思わず笑ってしまいそうになるのを抑えてトーストを一口かじりながらテレビをつけた。




 

 朝食を食べ終わり街へと足を進める。

 ルンルンで鼻歌をうたいながらスキップしている彼女の胸元に埋め込まれたコアは今日も透明で、太陽に照らされて虹色に輝いていた。

 かくいう俺のコアも彼女より透明度は低いがどちらの色ともつかない「色のないコア」を持って生まれた。



 この世界の全生物は身体のどこかに「コア」と呼ばれる、第二の心臓とも呼ばれる宝石のようなものが埋め込まれて生を受ける。


 一つは月を思わせる薄い青みを含んだ白色。

 もう一つは鴉の羽を思わせる艶を含んだ黒色。


 俺とちひろは、生まれた頃からそのどちらでもない「透明な色のないコア」だった。

 子供の頃は周囲の人間からよくからわれたり気味悪がられたりはしたが、今となっては顔見知りの人間は慣れたようで普通に接してくれている。



 透月祭は、" 人々のコアを休息させる日 " という意味があるらしい。教会にいけば神父がコアを清めてくれるんだとか。


 コアの色で差別化された世界ではあるが、この日だけはみんな仲良く過ごし一年を祝う...だなんて。

 そんなのは建前で基本的にどこかしらで乱闘が起こる。最悪の場合は死者が出ることも。


 大通りでは屋台がずらりと並び、夜になると花火があがりパレードが行われる。

 警備にあたるためか、この世界に存在する白色のコアを持つ者だけが所属することを許される自警団のような組織........Gloireの制服を着用した人達もちらほらとみられる。


 

 年齢関係なく白色のコアを持つ者だけが所属することを許される組織がGloireグロワール

 実力主義の黒色のコアを持つ者だけが所属することを許される組織がVictoireヴィクトワール


 どちらも、ちひろが説明してくれたことだった。


 コアという存在が出来上がった日から、政府も警察も異能力を用いた犯罪は手に負えず困り果てていた。

 そんな時に立ち上がったのがその二つの組織。



 数十年前から存在し今も代替わりをしつつ続いている不思議な二つの組織。彼らの目的は未だに明確にはされていないが市民も彼らに助けられることが多く政府も目を瞑っている。

 実際に彼らを目にする機会は少ないため少しだけ感動した。


 グロワールの椿や彼岸花の描かれた美しい歴史を感じさせる和装の制服にはロマンを感じざるをえない。カッコイイ。

 ちなみに、ヴィクトワールの制服は反対の洋装で黒色の軍服に金属の装飾や紫の薔薇が特徴。それもまた男のロマンである。


「あっ!!あそこにいるのユカリンとづかちゃんじゃない!?おーーーい!!!二人ともー!!」

「あ、おい....!」

 

 一度でいいから着てみたいよな〜なんて考えていると、横を歩いていたちひろが大きな声で手を振りはじめた。

 その方向をみると、組織の幹部のみが着用を許される特別な帽子や羽織を身につけた人がいた。

 確か名前は........朝霧ユカリさんと手塚悠生さん。

 テレビのドキュメンタリーやらニュースやらでしかみたことのない人物をあだ名で呼ぶ彼女にだらだらと嫌な汗が額を伝う。


 死刑なんてもんじゃ済まない、最悪二人ともぐちゃぐちゃのけちょんけちょんにされて殺される。


 ___そんな俺の妄想はどうやら杞憂だったらしい。


 ちひろの姿を見掛けた二人は明るい笑顔で、こちらに駆け寄ってきている。

 話を聞いたところ、三人は知り合いだったらしい。

 

 はじめまして〜とテンプレの挨拶を交わし、暫く四人で雑談していたが遠くの方で乱闘騒ぎがあったらしくその音を聞き付けて二人は行ってしまった。




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