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旧都ラクト潜入作戦

「そうなのか?」

 別にそうならそうで構わんが?


「そうなのです。ですので今夜一夜の情けをですね……」

 俺にズズイと顔を寄せ、いつも通りなそんなことをほざくアリス。


 そこにコーラルが声をかける。

「アリス、なにを言っているの?

 例の任務ブリーフィング始めるわよ。

 クロ、お願いね」

「あいよ」


 室内にはすでにこの任務に関わる特定のメンバーしかいない。

 部隊長のオリバー大尉を含めアリスたちを除けば、10人程度。


「あれ? なんで師匠が前に立つんですか?

 説明するんですか?

 あれ?」

「あら、先生!?」

「……なんでクロ師匠が作戦を説明?」


 アリスに限らずクララもセラも目を丸くしているから、俺がこの任務に関わることを3人とも知らんかったのだろう。


 おそらく、この旧都ラクト潜入作戦で部隊から抜けるからアリスはお別れと言ったのだろう。

 しかしまあ……。


「今更、なに言ってやがる。

 おまえが俺を推薦したんだろうが」


 コーラルへの口利きをアリスがしていたのは間違いない。

 そうでないとコーラルたちも大元の旧都ラクト侵攻作戦に大きく関わる潜入作戦に俺を参加させるわけがない。


「……そうですけどぉ〜。

 コーラルさん、よく信じましたね?

 師匠は大概怪しいとコーラルさん言ってたじゃないですかぁ〜」

「当人の前でよくそこまではっきり言えるな!?」


 本当に今更過ぎねぇか!?

 それを真っ直ぐ信じ切ってたのはおまえだろうが!


「そうなんだけどねぇ……、肝心のアリスが信じてるんでしょ?

 だったら私も賭けに出てみようと思ったのよ。

 ……どちらにせよ、賭けにでもでないと達成困難な任務だからね」


 困ったように、というか半分諦めが混じったため息でコーラルはアリスにそう言った。

 副長のルーマリアなんかはあからさまに俺を疑いの目で睨んでいる。


 なんというか、こいつらは実にアリスに甘い。

 昔からの仲だから、というだけではない。


 これはゲームの中では出て来ない話で、ロドリット将軍やオリバー大尉がそれとなく話してくれたことだが、皆が反乱軍結成当時にアリスの行動で命を救われたことが理由のようだ。


 反乱軍はいまでこそ政府軍の方針を良しとせず対抗し戦っているが、始まりはそうではなく政府内での粛清の嵐から逃れるための緊急処置だったそうだ。


 粛清対象となったロドリット将軍たちにアリスが道を示し、政府軍の魔の手から逃れたのだ。

 ロドリット将軍たちはそれをまるで奇跡のような夜だった、と眩しいものを懐かしむように言葉をこぼした。


 宰相クーゼンがなぜそれを行おうとしたのか。


 宰相クーゼンの主張はこうだ。

 マークレスト帝国を世界で最強にして至高の座に戻す。


 かつて始祖の時代。

 マークレスト帝国は世界を支配していた。

 それが時を重ね分裂し、いまの規模の帝国となった。

 それでも超大国だが。


 宰相クーゼンはそれでは満足できず、マークレスト帝国が再び世界を握る夢を見た。

 現代の世界の社会体制でそんなことが実現できるはずもないだろうに。


 それは世界の全ての人を戦乱に巻き込む危険な思想だった。

 それに異を唱えていたのが、アリスたち反乱軍の面々だ。


 宰相クーゼンは超大国マークレスト帝国で巨大な権力を有していた。

 そもそも一般人からすれば、なぜそんなヤツに権力を集中させるのか疑問にすら思うことだろう。


 それが政治というものだと人は言う。

 そして、その権力におもねる者はとても多かった。


 どういった危険思想にしろ体制側の人間なのも大きい。


 それでも内乱を発生しうる大粛清を行おうとするとまでは誰も想像がつかなかった。

 それを予言の如く言い当てて、回避させたのがアリスだったのだ。


 アリスの直感にコーラルたちも従うわけだ。

 実際に自分自身がそれで救われているのだから。


 それだけに疑問は残る。

 アリスが俺を師匠呼ばわりし続ける、その真意を。


 そうするのが最善だと信じているというのか。

 遠からず、俺がお前を殺すというのに。


 ……それとも。

 お前の直感では俺に勝てるとでも?


 ならば、その直感ごと喰らってやろう。

 絶対の未来予知などは存在しない。


 そんなことができるのならば、そもそも内乱など起きるはずもないし、ゲームでもアリスが死ぬこともなかったのだから。


 それに。

 《《それでも》》俺が勝つのだから。




 俺はアリスたちの前に立ち、研究所を破壊するときに盗んだデータバンクによる旧都ラクトの情報を公開して説明していく。


 俺がいくつもの情報を持っているのは、このときのデータを持っていたから……ということにしてある。


 それでも怪しさは拭えなかっただろうが、サラ博士の保証は随分と俺を反乱軍に馴染ませた。


 それだけサラ博士の反乱軍での立場がしっかりしていたことと。

 記憶を無くす前の俺はサラ博士の中で随分と信用におけるヤツだったこと。


 身元保証すらない人間は反乱軍にもたくさんいる。

 それを実際のスパイと見分けるのは混ざり合いすぎてどうあっても不可能なのだから、保証があるだけ随分マシなのだ。


 ……だがな、残念だけど俺はこの怪しいゲームとかいう記憶をぶち込まれた際に決定的に壊れたのだろう。


 やっぱり俺はアリスたちと戦うことを止める気にはなれない。


 一通り説明してやるとアリスが挙手して質問してきた。

「それで師匠。

 今夜の私とのランデブーはどう致しましょう?」

 それを聞いて、この場にいる全員が俺をぎょろっとした目で見つめてきた。


 なあ、アリス。

 お前、ほんとなんで俺を師匠呼ばわりしてんの?

 しかもそれって任務関係ないよな!?

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お師匠様はライバルキャラ!
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