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鮮烈!その名はフラッグ!

 ホーリックスでは隊長含む魔導機部隊の1/3が撃墜されたらしい。


 結構な被害だ。

 政府中央軍とバーゼルたち特務隊がいかに本気だったかがわかる。

 どんなときでも死を恐れず突っ込んでくる敵というのは油断ならない。


 中央部カンチエンの街。

 800万人が住む反乱軍第2位の都市。

 第3部隊ホーリックスと第5部隊スペランツァの両部隊はここから旧都ラクトへ侵攻する。


 北側最大の都市ホクスイからは、第2部隊と第4部隊が北部の反乱勢力と共に旧都ラクトを襲う。


 カンチエン側から入り込む第3部隊と第5部隊と連携して挟み込み半包囲する作戦だ。


 どうしてだろう?

 2倍の兵力で相手を半包囲する作戦は十分に有効なはずなのに嫌な予感しかしないのは。

 ゲームでそれが罠と知っているせいなのだろう。


 侵攻の主力となるのは北部からの第2部隊と第4部隊なのだが、半ば統率の取れない勢いだけの民兵が北部反乱勢力が中心。

 それと足並みを揃えようというのだから、それが第2部隊と第4部隊の足を大きく引っ張ることになるのは当然だ。


 訓練をしたこともない人間との足並みなんて揃えられるわけがない。


 そもそも軍の移動とは、それだけで様々な物資も運び、その中で人を何十キロも計画的に運ばなくてはならない。

 ただ歩いて移動するのとはわけが違う。


 その計画だけで困難を伴うので、移動途中にはぐれる人もたくさんいる。

 団体行動の際に前の人について行っていると思ったら、全然無関係な人だった、とかな。


 しかしながら、この時点では北部の反乱勢力も見た目だけは立派で、政府と戦う勇者のような様相。

 だが真実は裸にフルフェス兜だけ被ったノーガード状態だと彼らは気づかない。


 共に並ぶ完全武装の反乱軍はなにかおかしいと思う前に、彼らの熱苦しい声援を背に受けるために、根拠のない自信を持ってしまっていた。


 いずれにせよ、民衆の熱狂も後押しされるので北部の反乱勢力が結果的に足手まといとなろうとも、政府軍が今か今かと待ち受ける旧都ラクトへ一緒に攻め入るしかないのだ。


 すでに政府軍により仕掛けられた罠から逃れる術は今の反乱軍にはないのだ。


 この中央部都市カンチエンは旧都ラクトから近くはあるが、東へ抜けるには広大な森が控えており空中戦艦でもないと移動は厳しい。


 大きな会戦となるので、補給と準備はここでも入念に行われる。

 そもそもホーリックスの魔導機隊が半壊しているのだ。

 その立て直しは急ピッチで行われる。


 周辺警備については、スペランツァの魔導機隊も組み込まれることとなった。

 今日もローテーションによる警備任務を終えたところだ。


 その俺たち4人に小隊コードネームはチームプリンセスだそうだ。

 普通に俺の存在消えてるよな?


 しかし、ここで無理をして旧都ラクトでは疲れが出てやられましたではどうしようもない。

 なので俺たちにもカイチエンでの待機任務……つまり、休暇も与えらる。


 夕方に少し差し掛かろうという時間帯なせいか、食堂は調理準備をしている人たちを除けばまだそれほど多くはない。


 俺たちは警備を終えた後なので、そのまま少し早めの夕食を取っていた。


「ヒーロー、ここいいか?」


 俺に声をかけたのは短髪金髪の歯をキラリと光らせたナイスガイ。

「俺はフラッグ。第3部隊所属の魔導機乗りだ」

 イカつくも縦長の顔にアゴの先がケツアゴなのも、この男の魅力だろう。

 こういうヤツの方が包容力があるように見えてモテるもんだ。

 歴史が証明している、はずだ。


「俺の名はクロだ。俺の専用席でもねぇしな、どうぞ?」

 そう告げるとドカッと俺の隣に腰を下ろしてフラッグはニカッと笑う。


「知ってるよ、ヒーロー。

 今日はもうアガリだろ? 一杯奢らせてくれ」

 そう言ってナイスガイは琥珀色した半分ほどの酒瓶を軽く振り、ウィンクをして見せる。


 俺の影に隠れるようにして、ひそひそと3人娘が熱い視線で俺を見る。

「えっ、師匠を狙う新たな……男?

 これはフラグ……?」

「男の魅力を振りまき、その色気で先生を!?」

「……ゴクッ」


 おまえら、黙れ。






 次もすぐに警戒任務があるが、とりあえずいまは警戒任務の直後なので24時間は待機任務になる。


「せっかくだ、ご相伴しょうばんに預かろう」

 こういった戦友との交流は重要だ。

 ちょっとしたところで戦場での連携も違えば、軽口の一言でも交わせるだけで心の持ちようが違う。


 これがクールを気取ってコミュニケーションを怠れば、生き死にの中で冗談混じりの軽口すらスルーされて生き地獄を味わうことになるのだ!


 傭兵稼業は気楽な職業とか思っているヤツがいたら勘違いするなよ!

 生きるために苦手でもコミュニケーションを取る必要があるんだ、キツいんだぞ!?


 まあ、戦友との語らいが嫌いなわけでもないがな。

「ああ、忘れていた。

 こいつらも一緒だがいいか?」


 そこでじーっと俺たちを眺める3人娘をいま思い出したとでもいうように、俺はフラッグに告げた。


「もちろんだ。

 プリンセスとの同席を拒む男はいないさ」

 そう言ってフラッグはフッと笑ってアリスたちにも酒を見せるが。


「私たちはお酒はやめておきますね、お酒弱いので」

 アリスが代表してニコリと笑い酒を断る。


 たしかに出会った初日から勧められるままに酒飲んでエライ醜態を見せたな。

 むしろ、アレがあったから断ってるのか。

 学習能力あったんだな。

 そう考えたことが顔に出たのか、アリスは不満げに俺に頬をぷく〜っと膨らませて見せた。


「そうかい?」

 フラッグは気を悪くしたふうもなく俺のカップに酒を注いでくれる。

 それから注いだカップを持ち上げ、乾杯と一言。


「……良い酒だな」

 ケツアゴ金髪のナイスガイはジャズのなるクールな酒場が似合う顔で寂しげに笑う。

 士官用食堂だけど。


「相棒のシホウが死んじまってな。

 今日はそのとむらいだ。

 ……あんたが倒した特務隊のバーゼルってヤツにやられてな。

 つまりあんたは俺の相棒の仇を取ってくれたヒーロー、というわけだ」


 チンっとビンを鳴らして酒を掲げるフラッグ。

 コレだ、コレだよコレ。

 戦場の一時の戦士の休息、男の世界。


 生きるための刹那の恋人との逢瀬も悪くないが、それよりも男とか女とかいうよりも生死を越えた戦友との語らい。

 コレこそが戦士というものだよ。


 それを机にへばりついて顔を寄せ合い覗くように見てくる3人娘。

「ぬぬぬ、師匠。

 私たちというものがありながら」

「男だ、男の世界だ……」

「これがあの……?

 だから先生は私たちに手を出さなかったというのかしら?」


 やかましい。





 それから数日後。

 偶然というか、必然というかフラッグと出撃が重なった。


 互いの魔導機が出撃し、周囲警戒とご挨拶のようにやってきた敵の強行偵察を相手にする。


 言葉を交わす必要はない。

 魔導機が同士で親指を立てて、ニヤリと笑うだけ。

 きっと向こうもきっと同じように笑っているはずだ。

 フラッグとも立派な戦友だ。


 並んで飛ぶ2体の魔導機。

 それを見守るように後方についた3人娘が乗る3機の魔導機。


 敵機接近の警告アラームと通信が入ったところで、ズドンとフラッグが乗った魔導機が撃墜された!


「ふらぁぁっぐ!」


 その爆煙が消えぬ間にアリスがフラッグを狙撃した強襲魔導機を撃墜する。

 3人が即座に加速して、敵魔導機を連携して追撃。


 強行偵察の敵魔導機はそこからさして粘る事なく、3人に追い返されるように撤退して行った。


 俺は煙をあげて落下するフラッグの魔導機の向こうに、空に爽やかな笑顔でキメたフラッグを幻視した。


 戦場では危険が隣り合わせ。

 昨日巡り会った友も、次の日にはどちらかが死者の列に並ぶ。

 そういうものなのだ。


「……こういうとき、どういう顔をしてよいのかわかりませんわ」

 クララが通信で俺にそう言う。

 それに俺はこう答える。


「笑えばいいんだよ。

 自分が生き残れた、戦場ではそれが全てだ」


 それにセラがポツリと。

「……なぜだろう。クロ師匠がいまそれを言うと、ブラックジョークにしか聞こえない」

「なんでだ!?」

「師匠〜、フラッグさん生きてますよー」


 結論からいえば、フラッグはコックピットへの直撃は免れて、無事に脱出装置が働いてパラシュートで笑顔を浮かべていた。


 このときに怪我を負ったとして、フラッグは後方に下げられることとなったが、それでもなんとか生き延びることができたのだった。

 ……悪運の強いやつだ。

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お師匠様はライバルキャラ!
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