VS特務隊
魔導機は常時通信を繋ぎっぱなしでも影響はない。
それは空間上に漂う魔導素子というものが、離れた距離の音や映像を繋げているからとも言われている。
飛び出して5分。
最初の接敵に合わせて銃砲を放ち命中させる。
そのまま爆発の煙の中を突き抜け、その向こうの魔導機に真っ直ぐ突っ込む。
俺の後方からアリスが銃砲を放つ。
左に避けられたが、そこにドンピシャでサーベルを振りぬく。
「ナイス陽動だ、アリス」
アリスはにこっと笑って通信画面の向こうで片腕をサムズアップ。
サムズアップがなければ見惚れそうな笑顔だった。
「隊長から各機へ。空中フォーメーション01にて対応。プリンセスと傭兵はホーリックスの援護に回ってくれ。
それ以外! 遅れるヤツはプリンセスに笑われるぞ」
オリバー大尉から音声のみの全体通信、それ以外の声は聞こえないが兵士たちはそれに笑みを浮かべていることだろう。
殺し合いの前に笑い合う。
それもまた戦場だ。
「りょ〜かい」
俺は部隊での全体訓練を行なっていない。
空中フォーメーションのほかに基本的な部隊戦術は確認したが、この段階では連携についてはぶっつけ本番になってしまう。
アリスたちも空中戦闘訓練は積んでいても実戦での空中戦闘は初のはずだ。
それでも魔導機乗りの中で空中戦闘を行えそうな者の数は多くない。
そんなわけで連携が不十分でも戦力の足しにと出撃している。
さすがにそんな俺たちを他の隊と混ぜるわけにもいかないので、味方の空中戦艦ホーリックスのお守りという役割が与えられたというわけだ。
「しっかしプリンセスね……。プリンセスよりチームポンコツの方がいいんじゃないか?」
「私たちはポンコツじゃありません!」
わざわざ通信で顔を見せて、わかりやすく頬を膨らませアリスが反応する。
「それだと先生もポンコツになりますよ?」
「……皆でチームポンコツ」
クララからの冷静なツッコミに俺は即座に前言撤回。
セラに至っては若干嬉しそうだ。
「前言撤回だ、プリンセス」
セラの目的が2人の友人と共に過ごすことだからな。
こういうやりとりが嬉しくて仕方がないのだろう。
空中戦闘ホーリックスはだいぶ余裕がなかったようで、駆動部の位置辺りから煙が上がっている。
俺たちはホーリックスにまとわりついていた2体の敵魔導機を即座に4機で囲んで撃墜。
ホーリックスに通信を行う。
ホーリックスの援護に入ることを告げると、すぐにホーリックス艦長ミハイル・ローゼンタールから応答があった。
「助かる。魔導大隊隊長がやられて混乱してる。
いま部隊を戻しているから、それまで敵を近づけさせないでくれ」
「了解」
それを受けて俺も3人に指示を出す。
暫定的ではあるだろうが、ブルーコスモのシーア襲撃の時から俺が3人の小隊長という扱いになっている。
「セラがホーリックスから敵を狙撃」
「……了解」
「アリスが周囲警戒およびセラの観測手」
「がってんだ!」
狙撃には観測手と呼ばれる狙撃を補助する者が必要だからだ。
それと周囲警戒。
「クララが俺と一緒に接近する敵を遊撃」
「了解ですわ」
腕をひと振りで合図すると3人が同時に配置につく。
セラはホーリックスの艦上に。
アリスもその横に。
クララは俺の斜め後ろについた。
オリバー大尉率いるスペレンツァの航空魔導機隊が敵魔導機隊とぶつかる。
それを遠目に見ながら、それでも近づこうとする魔導機を牽制。
しばらくは様子見かと思った中、ホーリックス通信員が半ば悲鳴のような声をあげて通信を送ってきた。
「敵が突破して来た!」
高速移動を繰り返し、味方機をかいくぐり接近する敵の指揮官機とそれに追従する2機。
それに追い縋ろうとしたこちらの魔導機を逆に反転して銃砲で撃ち落としている。
かなりできる腕の敵が3機、ホーリックスに向かってくる。
オリバー大尉からも音声だけの通信が入る。
「すまん! 3機抜けられた。
手練れだが凌いでくれ」
指揮官用にカスタムされた最新鋭のデルタ型、バーゼル中佐で間違いないだろう。
特務隊が南から中央にまで出張って来たか。
「クララ来い! アリスとセラは敵を牽制!」
「わかりました!」
「あいよー」
「……任せて」
アリスだけ返事が軽いな、おっと、戦闘中だ。
特務隊でもエース級であろう残りの2機は3人に任せる。
アリスとセラは距離を置いて牽制することになるので、接近するクララはどうしても2対1になる。
クララ上手く立ち回れよ?
それだけの技量は十分にあるはずだ。
俺は高速機動を行うバーゼル中佐にぶつかるような形で接近する。
ぶつかりあうサーベルとサーベル。
「こんなところまでご苦労さんだなぁ、バーゼル!」




