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ゲームの醍醐味、ライバルキャラと主人公

 3人娘は反乱軍の任務中だ。

 ほんとは4人での偵察任務だったが、隊長であったガーンズ大尉が任務中にあっさりとやられた。


 ガーンズ大尉は当然、ゲームには登場していないがかなり信用できる腕を持っていたのだろう。


 反乱軍が圧倒的な人手不足というのはあるが、それでも新人を連れて最奥とは言わないがかなり深い東側勢力に入り込んで偵察を行っているのだ。


 それでも戦場では死ぬときは死ぬ。

 儚いもんだ。


 帰還ルートの手配や伝手は秘匿情報だったらしく、3人娘は独力で部隊に帰還途中だった。


 もしくは当初のルートが使えなくなったか、おそらくその両方だろうな。


 マークレスト帝国は長いところで端から端まで3000キロはある結構な大国だ。


 3人娘の帰還目標地点も直線距離で500キロも先だ。

 街道を爆走できるならば3、4日の距離だが、魔導機で突っ走るなど悪目立ちし過ぎて政府軍に捕捉されて終わりだろう。


 当たり前だが整備された平野部の街道と、道なき道の山や森などの整備されていない道では移動できる距離は雲泥の差だ。


 そうでなくても西側地域は険しい山々や谷がいくつもある難所ばかり。

 なので1日30km程度を慎重に進んでいたところだった。


 ゲームでは移動に関する補給のことなどは何の情報もなかった。

 聞くと携行食のカロリーバーと水でなんとか凌いでいたそうだ。

 金も碌に持っていないようだ。


 努力と根性、それが今回の3人娘の合言葉。

 その努力と根性だけで15日以上を突っ走るつもりだったようだ。


 ゲームで正確な日数は示さなかったが、その日数と過酷さは想定を大きく超えるものだったのは間違いはない。


 不思議な気もするが、3人の中で行動を決定しているのはアリスのようだ。

「格好付けているが、口の端に食べかすついてるぞ?」

「いやん!」


 くねくねと恥ずかしがるアリスの頬についた食べかすをセラが甲斐甲斐しく取って、自分の口の中に入れた。


「自分で言っちゃあなんだが、そんなに信用できる行動は取ってねぇぞ?」


 ほんとに自分で言うのもなんだが、である。


 やり合ってみたかったという理由だけでこいつらを襲っているんだから、そこらの盗賊とやっていることはまるで変わらない。


 アリスはキョトンとして、酒を美味しそうにくぴっとひとなめ。


「ん〜……、私たちをどうにかする気ならあの時にできたでしょ?

 あとでなにかあるにしても、それは今じゃない。

 それで十分だよ」


 刹那的というか、戦場では先を考えても仕方がない、今という一瞬をどう生き延びる気かだ。

 その意味では兵士向きともいえるな。


 だが、なぜだろう?


 あり得ない話なので俺の勘違いだろうと思うが、それ以上の信用がその言葉から滲み出している気がする。


 アリスは肉をフォークに刺して、酒と共に掲げる。

「それと、ご飯をくれる人は良い人だ!」

「黙って食ってろ、ポンコツ」


 完全に気のせいだ。

 ポンコツなだけだった。


 それなら飯食わせたら、どんな悪人でもこいつの中では良い人になってしまうということになってしまう。

 アリスはなおも俺に言いつのる。


「酷い!

 ……いえ、わかっています!

 あなたは私たちの身体が目当てなのでしょう、わかっていますとも。

 ここは私が犠牲になるわ、だから他の2人には手を出さないで!」


 真剣な顔で2人を庇うような発言に、クララとセラが感極まったような表情で見つめる。


 俺はそれに笑顔を浮かべて応えた。

「食ったら寝ろ、ポンコツ娘」


「酷い!

 私の覚悟を!

 うわぁーん!」


 酔っ払いだな。

 誰だこいつに酒飲ませたの、俺か。


 俺は深くため息を吐き、仕方ないというふうに考えていた言い訳を口にする。

「雇ってもらおうと思ってな」


 実際はただの気まぐれ。


 使った金も研究所から退職金代わりにもらったものなので、縁起担ぎに景気良く使わせてもらっただけだ。


 ただ今後のことを考えて、主人公3人娘と一緒に行動するのも悪くないかと思っただけだ。


 それにはアリスを宥めていたクララがいぶかしげな顔をする。

「雇う?

 私たちがあなたを、ですか?」


 さあ、主人公とライバルキャラの共闘だ。

 ゲームの醍醐味だろ?



「私たち、と一括りにするならそうだな」


 反乱軍自体を私たちというならな。

 俺の言葉にセラが目を細め、グルルと黒い小犬が威嚇するように俺を睨み、絞り出したような声で小さく問う。


「……どこで私たちのことを」


 それには殊更に呆れたふうをよそおう。

「おいおい、傭兵ならおまえらの組織にあたりが付かないやつなんかいないぞ?

 いたらよっぽどの間抜けか、ド新人だけだ。

 まあ、おまえらもド新人なんだろうが」


 マークレスト帝国の反乱軍は野盗の集団ではない。

 皇子に追従した政府軍の離反者だ。


 なお、ゲームでは続編の意味でもあったのか、最後まで皇子の姿は出て来ない。

 内乱終結後は反乱軍の幹部主導でマークレスト帝国は共和制に移行する。


 実際はすでに死亡しているんじゃないか、なんて説もある。


 それでも確かなことは反乱軍は今も軍組織としての秩序を保っており、西軍なんて言い方する奴もいる。

 呼称は西方解放軍だそうだ。


 なので、こいつらも初期軍事教育は受けている。


 一応、1世代前とはいえ軍用量産魔導機を与えられている程度には、優秀さが認められているわけだからな。


 だからこそだ。

 民間では1世代前の軍用魔導機など、なかなか手に入らない。


 それが装備が整った中で3機。

 当然、軍関係だと即分かるし、隠れながらの移動な時点で政府軍ではない。


 一般人ならともかく、傭兵も魔物狩り中心のハンターも、魔導機乗りなら疑わないわけがない。


 流石に3人娘もここまで疲れ切っていなければすぐに気づけただろう。


 それと……。

 俺は3つのメモリーカードをテーブルに滑らせる。


「あー……」

「こ、これ!?」

「……やられた。

 私たちの情報を抜いていたなんて」


 アリスが失敗したなぁという表情、クララが素直に驚き、セラが憎々しげに睨む。


 そのメモリーカードは魔導機専用カードで中にはパイロットデータが入っている。

 個人情報の全てが入っているわけではないが、所属や戦闘データにクセ、反応パターンが入っている。


 魔導機は訓練すれば誰にでも乗れる。


 ただし、それを適正に扱うとなれば個人のパターンデータに合わせたものにしないと、まともに戦闘を行えない。


 たま〜に最初から魔導機と相性が良い例外はあるが。


「おまえら、魔導機の整備を自分でしないだろ?

 整備や修理を外部に出すには個人データの保護は必須だぞ。

 抜いといてやったから保管しておけ」


 これが一般の傭兵ならば個人データごと調整をしてもらうが、この3人娘はこれでも反乱軍の一員である。


 西側エリアなら、それでも大丈夫かもしれないが、ここは政府勢力圏の東側だ。

 敵地であまりにボケボケし過ぎた。

 新人であることを抜きにしても、お嬢様集団と言われても納得してしまう。


 とにかく、このデータで俺が3人のことを反乱軍のメンバーであることを知ったと誤認させられたはずだ。


 実際は元から知ってたわけだが、反乱軍だと確信した理由づけには十分だ。


 まあ、頼るはずの隊長がさっさと戦死して、根性だけを頼りに自力で敵地を抜けようというのだ。


 ゲームでは、この根性での帰還が評価されて部隊の中核として活躍していくことになるのだが。


 実際にはすでに精神的な疲労もギリギリで、ろくに頭も働いていない状態だ。


「いいから酒飲んで寝ろ。

 俺の要望はそういうことだから、明日にでも返事を聞かせてくれ」


 そう言って俺は解散を言い渡す。

 クララとセラは酒を見つめ、悔しげな表情。

 自分でも疲労し切っている自覚はあるだろう。


 それでもなお、騙されないように気を張っているのだ。


 性格はともかく、3人とも主人公らしく見目は良いからな、悪い男がいくらでも寄ってくることだろう。

 俺も悪い男だしな。


 俺の話を聞いて、1人だけなにかを考えるように腕組みしていたアリスは大きく頷き……。


「わかりました!

 早速、今日から夜伽を命じるわけですね!

 しかしながら、その役目は私だけでお許し……」


「おい、その酔っ払いのポンコツ連れてさっさと部屋に行け」


「もががっ!」


 クララとセラの2人はアリスを羽交い締めにして、引きずるように2階にある宿の部屋へと移動していった。


 それを眺め……。

「あいつら助けたこと、早まったかな?」


 俺はちょっと後悔した。

星評価お願いします_(:3 」∠)_

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お師匠様はライバルキャラ!
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