アリス専用機マルット登場
微妙な空気の中、アリスが肉とレタスを口に突っ込みながら自分の考えを言葉にする。
「う〜ん、自分を軽くみているわけじゃなくて。
私自身にとっても一世一代の賭けに出た方がいいと感じたんです。
師匠に身を捧げたら、最低限生きて部隊に戻れるまで守り切ってくれそうな気がしますし。
それに師匠は情が湧くと、どんなことしても助けてくれそうだし」
当人は至って真面目に考えてそれなのだ。
それにはクララもセラも頷いている。
責任を取るかどうかの違いであって、そこは3人とも同じ考えなんだな。
ちょっと全力投入し過ぎな気もするが打算と言えば打算だが、そもそも……。
「俺はそういう『いいヤツ』じゃねぇぞ?」
まずあの出会いでそこまで全力で信じ切るのが問題で、クララの話の方がとてもよく納得できるんだが?
「う〜ん、ただの直感なので」
アリスはなんでもないように首を傾げる。
つまり、根拠らしい根拠はないと。
何度もいうが、直感に全力投球っておかしいよな?
そこで先ほどハシゴを1人外されたクララが言い訳の言い訳をする。
「先生、誤解しないでください!
私も誰にでもそう言うわけではなく、先生だからですからね!
こう見えて貞操はやたらと堅い自信がありますから。
ね、2人とも?」
戦争に関わるものは狂気と暴力に近づき、次第に命と自分自身を道具として考える。
そうでなくても貴族家は結婚に愛は求めず、家と家の同盟のために使われる。
クララが自身の身体を使った交渉を手段の1つとして考えるのも、その生まれによるものも大きいだろう。
貴族の考え方はともかく、俺たちのような戦争に近い狂気の世界の住人からすると、クララの考えの方が正しいわけだが……。
常識的で平和な世界であれば愛や恋などを楽しむ余裕もあるだろう。
アリスとセラはその人間性が残っているということだろうか。
そうであればなおのこと、こんなところでただの傭兵ごときに自らを安易に捧げるべきではないのだ。
せめて今後の全てを背負わすぐらいは必要だ。
遠慮するがな。
もしも、これが徹底した機械文明ならこの人間性が殺し合いの際に邪魔になる。
それを訓練で徹底的に削ぎ落とすのだ。
甘さを捨てるともいう。
魔導機というのはその点がタチが悪い。
戦場で摩耗されるレベルの兵士の場合、上官の死ねという命令に素直に従うために感情を捨てさせられる。
そうなった場合、魔導機はある一定以上の力を発揮しない。
技量は必須なのだが、徹底的に感情を破棄してしまえば一定の成果を出すプロにはなれても変革は起こせない。
反対に心の強さが魔導機に大きな影響を及ぼし、とんでもない成果をあげることがある。
己の信念のもと強さを発揮できる、それが魔導機だ。
魔導機の真の力は人間として心の強さという絶対条件があってこそといえる。
感情を捨てた兵士ではダメなのだ。
民間の研究所が造った魔導機がとんでもない力を発揮することがあるのもそのためだ。
かつてあった世界大戦でも、決着をつけたのは民間と軍の連合部隊だった。
もっともそれ以前に、戦争で人間性を保つというのは矛盾する問題ではあるのだが。
「……先生。
やっぱりいまの話なしで。
私も借金のカタではなく愛すべき嫁としてお願いします」
いや、今更言い直されても……。
微妙な空気のまま、食事を再開。
アリスとセラがチラチラと、クララの様子を伺いながら黙って食事を続けている。
うん、なんとも言えない空気である。
「そ、そういうことで私も先生のことを恋の相手として見ていますからね!?」
クララは先ほどの流れをフォローするようにアリスとセラに再度、同意を求めたが……。
「ははは……」
「どうかなぁ……」
アリスとセラは微妙な笑みで誤魔化した。
「信じてよぉおおおおおおお!?」
なんて麗しい友情だこと……。
おまえが1番常識人だと俺は思うぞ、うん。
ちょっと汚れすぎているかもしれないが。
あと、マジで恋愛相手に俺を選ぶのはやめてくれ。
「そんなわけで師匠、私たちがエロいわけじゃないんですよ?」
昨日の話からなぜそうなった?
魔物退治の最中だというのに、わざわざ通信でアリスはそんなことをほざく。
なにがそんなわけ、なのかはともかく。
「わかってる、おまえたちはただのむっつりスケベだろ」
あまりに言うから、3人ともにわざと手を出す素振りをしてみた。
すると逃げはしなかったが、3人でかたまって真っ赤な顔でプルプル震えて身を寄せ合っていた。
幻覚だが、小動物の耳と尻尾が見えた。
手を出されれば仕方がないが、当たり前だがそれ自体を本気で望んでいるというわけではないということだ。
そういう態度では逆に手を出しづらい。
「むきー!
ちーがーいーまーすー!
純真無垢な乙女です!」
「いいから黙って集中してろ!」
アリスのポンコツぶりは、黙っていれば女神然とした見た目とのギャップが激し過ぎる。
「エロじゃない〜♩ 私はエロくない〜♩
聖女よー♩」
アリスは変な歌を歌いながら、危なげなく魔導機のサーベルを振るい、オーガ型の魔物を切り裂く。
アリスが乗っているのは、山賊から奪い取った作業用の丸っこいカスタム魔導機。
作業用だがパワーは有り、魔物の素材をツギハギのように貼り付けて、どこかで分捕ったのであろうモーターも載せ替えているのでそこそこの機動力だ。
掘り出し物といえよう。
捕らえた山賊たちも良い値で売れたので、まとめて100万ガルドにはなった。
マークレスト帝国は険しい山々も多く隠れやすいせいか山賊も多い。
同じ理由で魔物も多い。
魔導機を隠す場所にも事欠かないし、中には地域密着型の山賊も村を形成し、旅人や商人から案内人を付けて通行料を取る者たちもいる。
無論、違法だ。
広義の意味では反乱軍も山賊といえるかもしれない。
その山賊から奪取したカスタム魔導機だが、売ればさらにその倍は稼げただろう。
その魔導機をそのままアリスが搭乗している。
アリスはこれをマルットと名付けた。
なお、俺が叩き切った魔導機の名前はシュバリエだったらしい。
アリス曰く、私の大事なシュバリエは師匠に下半身を貫かれイッテしまいました。責任取ってください、と。
「師匠が適度なおしゃべりは良いと言ったんですぅー」
「うるせぇ、新人が集中してなかったらどつくと言っておいただろ!
クララとセラはしっかり集中してるぞ」
オーガ型の魔物を回り込みながら、クララとセラの魔導銃を放つ。
「話す、余裕が、ないッツ、だけです!」
「クロ師匠、これ、キッツ」
技量の高いクララにはいかに相手の背後に回るか、いかに相手の隙をつくか。
機先を制し、相手の急な反応にも即座に対応できるように技量で魔物を圧倒するように。
初回の遭遇戦のおり、それさえできていれば俺の不意打ちを防ぐことができたかもしれないのだ。
セラは射撃だが接近戦での射撃だ。
遠距離での集中力と精度はなかなかのものだ。
その感覚をさらに磨くのも良いが、近づかれたら終わりではどうにもならない。
まずは近づかれたときに突破して、再度、距離を取れる程度の技量は必要だ。
そのためには接近された際に相手が距離を取りたくなるような能力を持つべきだ。
射撃能力が高いのであれば、近づけばすなわち必中。
あとはそれを接近戦でも行える度胸だ。
もしもあのときそれができたなら、無様に俺に背を向けて逃げ出そうとする必要もなかったはずなのだ。
アリスについてはとにかく避けまくる。
今もおしゃべりをしながらかわしている。
彼女は直感力に優れている。
優れているというか、むしろ異常なほどだ。
3人娘の中でも最終決断はアリスがしていた。
これは彼女の直感力を2人が信用しているからに他ならない。
その結果が俺の弟子入りと夜這いだというので問題ありまくりな気もしなくはない。
弟子入りはともかく夜這いはかなりどうかと思う。
無論、毎日追い返している。
一度でも手を出せば、アリスが言ったようにズルズルとポンコツ3人娘のお世話をしないといけなくなる、そんな予感がするからだ。
敵対するライバルキャラと主人公が男女の関係なんて、なんの冗談だ。
魔物で金稼ぎと修行、それら全てを兼ねて東に向かう。
ゲームでは西に真っ直ぐ向かい、民間の企業や地元組織の協力を得て反乱軍勢力下に帰還する。
その際に協力してくれる組織は、その後も第5部隊の力強い味方となる。
ただそれはかなりリスキーなうえに、ゲームと現実は明らかに違うので、それを頼って西へ真っ直ぐ向かうのは非常に危険だった。
実際のところゲームでも犯罪組織や辺境警備隊などと数回戦闘を行っており、彼女たちが無事に部隊に帰還できたのはかなりの幸運が重なったからといえた。
「ああ……、あのとき外装を上手に避けて貫けてさえいれば、20万ガルドが追加で手に入ったのに〜……」
ハンヨウの街から2日ほど移動したロクアの街の宿で、クララがお金を数えながらヨヨヨと涙する。
今日の成果の確認とここからの方針をまとめるために、3人の部屋に俺が足を運んだ。
さすがに宿では部屋を分けている。
部屋を分けなくてもいいのにーと3人娘がぶーぶーと文句を言うが、そのときは3人同時に抱くぞと言い返すとモジモジとして文句を言わなくなった。
良いのか悪いのか、どっちなんだ。
この街までくればコカはすぐだ。
そこからコカの港で大河を渡る便に乗り込めば、あとは運ばれるだけで良い。
移動しつつ、そのための資金集めをしているわけだが。
意外というか、元貴族のお嬢様のクララが1番お金に細かい。
お金に苦労したんだな……。
なお、クララは現金を繰り返し数えているが、大半は電子バンクに入れているから数えているのは生活費用のお金だけだ。
なので何度数えても、無意味だし増えたりもしない。
お金ってそういうもんだよな……。




