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主人公をボコボコにしてしまいました

 俺が駆る漆黒の魔導機が主人公の1人、クララの魔導機にサーベルを突き刺す。


 魔導機コックピットのすぐ横、動力パイプを切断。


 機体が命を失うようにアイモニターの光を消失し、ガチャンと魔導機の手足が力を失くし崩れる。


 傍目にはコックピットを貫き、中の人も死んだようにしか見えないだろう。


「なんで!?

 なんで!!!」

「もう嫌!

 こんなの嫌!!」

 残った主人公の2人、アリスとセラが泣き叫ぶ。


 セラは魔導機を反転させて逃げようとしたから、首根っこを掴み引き倒した。

 魔導機がまるで殺されまいともがくように暴れるが、それを意に介せず魔導機の首にある動力パイプを踏み抜く。


 人とは違いそれで死にはしないがメインモニターも損傷し挙動に大きな制限がかかる。


「仲間置いて逃げるたぁ、感心しねぇな」

 俺が吐き捨てるように言い放つ。


 セラは逃げようとしたことに自責の念でもあるのか、それとも諦めてしまったのか。

 魔導機はそれで動きを止めてしまう。


 代わりにではないが、生きている魔導機の通信装置からセラのすすり泣きが聞こえてくる。


 性能的にいえば、彼女らの乗るガンマ型魔導機は1世代前の量産機ではあるが、軍規格のものなので民間よりも性能は圧倒的に高いが俺には関係ない。


 残る1人アリスの魔導機が逃げようか、踏み止まるか悩む素振りを見せるのを挑発するようにちょいちょいと手招き。


「おら、来いよ。

 今なら倒れた仲間2人とも生きてるかもしれねぇぜ?」


 断言するが生きている。


 これはそう、ゲームの悪役のセリフを真似ているだけだ。


 そら、どうだ?

 主人公覚醒イベントだぞ?


「う、うわぁぁああああ!!

 こんな、こんなところでぇぇええええ。

 死んでたまるもんですかぁぁあああ!!」


 声をあげて、不恰好に剣を振り上げてアリスの魔導機が突っ込んでくる。

 逃げることより仲間を救うことを選択したようだ。


 よし、それでこそ主人公だ。


 俺は突っ込んできた魔導機を丁寧に蹴り上げ、宙に浮いたところで真横にサーベルを振り抜く。


 機体の足を両断。

 あとは自重で主人公機は大地に沈んだ。


 こうしてあっさりと3機は沈黙、土煙が舞う。


 その土煙がゆっくりと消えたあたりで。

「うっ……ううっ……」

 すすり泣きだけが聞こえてくる。

 やり過ぎたかな、と思うと同時にこうも思う。


 おいおい、大丈夫かよ主人公ども。


 主人公たちを擁護するならば、本来はここまでボコボコにはされない。

 むしろ立場は逆になっていたはずだ。


 3対1、この数の差は非常に大きい。

 人と同じように機体も背後からの攻撃には圧倒的に弱い。

 3機で囲めば容易に対抗できたはずだ。


 もちろん技量の差はある。


 俺の手術前の記憶はすでに曖昧になりよく覚えていないが、魔導機体乗りとしてそれなりの場数はこなしていた。


 愛機がぶっ壊れ、金が無くなり進退極まったがゆえに手術を受けることになったが、根本の技量は損なわれなかった。


 しかしそれ以上に主人公の3人の技量がお粗末だった。


「嫌だ、こんなに……、何も出来ずに終わるなんて……」

「グスグス……」

「もうやだぁ……」


 そんな俺の凶行は彼女たちに深い傷を負わせることになったのだ!


 ヤベェ!!! やっちまった!!





 俺は今、ゲームの瞬間に立ち会っている。


 主人公というべき3人が今、ここに現れるのを待ち受けていたというわけだ。


 俺の役目はゲームの小物の悪党。

 ことあるごとに主人公の前に立ち塞がり、ボコボコになって退散させられる。


 ルート次第では一時的な仲間にもなるが、結局敵のままのライバルってところ。


 だから試したかった。

 俺がどこまでいけるのか、どこまで生きるってことに向き合えるのか。

 その瞬間こそが最強に興奮する。


 こんなあり得ねぇ記憶をぶち込まれたせいで、俺もどこかぶっ壊れたんだろ。

 それとも元から、か。


 漆黒の魔導機ハーバルトに乗って、俺は舌なめずりをする。


「さあて、主人公の仔猫ちゃんたち。

 楽しませてくれよぉ〜?」


 その言葉と共に俺はフットレバーを踏み込む。

 遠くに見える3機の機影。


 まさにゲームスタートだ。





 ……んで、今に至るわけだが。


 俺は3人の小娘のすすり泣きを聞きながら、どうしたものかと改めて思案する。


 そういえば初期は機体の性能も低く、数が多いとはいえはぐれ山賊にも苦戦してたな。

 ここまでぼこぼこにしていながら今更思い出した。


 なお、このマークレスト帝国には山賊が多い。

 隠れる険しい山々も多く、反乱軍の拠点となる西側はほぼ山だ。


 ちなみに盗賊は平野部や街の中にいる。


 食糧事情の厳しい冬には村ごと盗賊となり、旅人や商人から案内役をつける代わりに通行料を取ったりする。

 状況次第では根こそぎ奪う。

 そこは山賊も同じだが。


「……おい、パーチカルツインブースターはどうした?」

「ううっ、死にたくな……えっ?」


 ここに来る前に主人公機はチュートリアル的な山賊をぶちのめし、パーチカルツインブースターというパーツが手に入れ、そこで僅かながら機動性がアップしていたはずだ。


 そうすれば初手ぐらいは避け切れた可能性はある。


 ……まあ、避けさせねぇけどよ。


「パーチクピーチクって……なに?」

 俺の問いにアリスが問い返す。


 モニターは繋げていないので姿は見えないはずだが、間抜け面でそう聞き返してきたのが簡単に想像できる。


「パーチカルツインブースターだ。

 パーチしか合ってねぇじゃねぇか……いや、いいや」


 多少の木々が点在した荒野。

 街道からはやや外れた道なき道。


 その中をひた走っていた彼女たちの立場は推して知るべし、といったところだ。


 それもそのはず。

 ゲームとやらによると、彼女たち3人はマークレスト帝国の反乱軍だ。


 反乱軍とはいっても無法者の集団ってわけでもない。

 一言でいえば、継承争いだ。


 マークレスト帝国は大国である。

 皇帝が病気で倒れ、宰相クーゼンが第3皇子ベルトを擁して実権を握った。

 それに第1皇子ジークフリードが反旗を翻した形だ。


 皇太子は決まっておらず正統性はどっちもどっちだが、勢力は圧倒的に宰相側だ。

 しかしながら、宰相クーゼンは権力を掌握するために中枢のみならず、広く民衆にまで弾圧を行った。


 第1皇子派のように宰相クーゼンを絶対に認めない派閥がいくつもあったために、権力を掌握するには必要なことではあった。


 しかし、それがそのまま各地での火種となった。

 当然だ。

 権力争いは勝手にしてくれと思っていた民衆も、火の粉が自らに降ってくれば抵抗せざるを得ない。


 かくしてマークレスト帝国は宰相クーゼンの東側と落ちのびた第1皇子の西側で内乱となった。


 なお、人口や街の規模は東側が圧倒的で、西側は領地こそ広いが荒れた山々や森が広がり、東側の1/3以下の国力しかない。


 いま俺たちがいる荒野は東側に位置するが、西側にもかなり近い。


 この3人娘がここにいたのも、とある偵察任務で東側に取り残される形になったからだが……。


 それを知っている理由は一切説明できない。


 なので────。


「おまえら政府軍の者じゃないな?

 政府軍じゃないとすると……すまん、間違えた」


 襲撃は間違いだった、で誤魔化し切ろうと思う。


「へっ!?」

「えっ?」

「えぇ……」


 通信越しでも3人娘がポカンと呆気にとられた雰囲気が伝わる。


 そして3人を代表するようにアリスが尋ね返す。

「……ま、間違えた?」


「おう、政府軍だと思って迎撃した。

 すまんすまん、誰も死んでないから良いだろ?」

 自分で言っててあんまりな気もするが、他にどうこう言いようがない。


 ゲームシナリオ通りに主人公3人とライバルキャラの遭遇戦かましたら、勝てるかどうか試したかったとか……言えねぇし。


 通信越しにアリスがふるふる震えている感じが伝わる。

 感度良いな、その魔導機。


 そしてついにアリスは絶叫する。


「ま、ま、ま……間違えたってなんですかぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


星評価お願いします_(:3 」∠)_

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お師匠様はライバルキャラ!
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