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作者: ふくのかみ

ゲームセンターでの出来事。

 父は九州男児。

頑固一徹ラーメン屋的な風貌だ。

目つきが悪く、警察官に職務質問されたことは一度や二度の話ではない。

ゴルフが大好きなので冬でも日焼けをしている。

 短気で、よく私がいたずらをしたりマナーや道徳に反するようなことを言ったりやったりすると頭をゴツン。ゲンコツがすぐに飛んでくる。

女だって悪いことをしたら、殴られるのだ。

 人前では基本的に物静かなので親戚にも寡黙な人だね。なんて時々言われることがあった。

家族の前ではおしゃべりで面白い父。情に深く、家族や友人を大切にする一面もある。

 父を尊敬する反面、いつか穏やかな男性と結婚したいと子供の頃から願っていた。

幸運なことに、ゴールデンレトリバーのような愛嬌と見た目からわかる賢さを兼ね備えたような旦那と出会い、結婚してから10年が経つ。驚くことに、感情的な父と正反対であろう穏やかな旦那のことを父はえらく気に入り、二人はとても仲が良い。



 今から約29年前。

宮崎県にシーガイアという施設がオープンした。小学生の頃一度だけ、父と姉と従兄弟たちで遊びに行ったことがある。

 多様なプールを目的に行ったのだが、記憶は正直あまりない。東京にも『東京マリン』という大型のプール施設があったし、なにより約29年前の記憶だ。

 シーガイアは泊まる施設の他、プール以外にも大型のゲームセンターなど遊ぶ場所が沢山あった。

自分は、ゲームセンターへ殆ど行ったことがない。昔は近所の商店街の隅っこに、今にもなくなりそうなUFOキャッチャーが数台あるようなお店はあったが、実際潰れてなくなったしコインゲームができるような大型の施設は電車を乗らないと行けなかった。

 


 そんなゲームセンターの知識がない当時の自分でもなんとかできそうなものがあった。コインがばら撒かれている引き出しのようなものが一定のリズムで、出たり入ったりしているゲームだ。

 こちらからコインを入れて山を崩していくだけなので、誰でもチャレンジできるであろう簡潔なルールなのである。

 今にも大量コインが崩れてきそうな雰囲気なのにもかかわらずコインはなかなか出てこない。崩すことができなければ投入したコインが引き出しにそのまま入ってしまうのだ。

コインがどんどん増えて山になっている。簡単ではあるものの常にイライラを抱えながら行うストレス製造機ともいえるようなこのゲーム。

冷静に考えると、そもそも何が楽しいのか。


 スロットのような機械で遊ぶ従兄弟たちは、なんだか子供なのに少しだけ大人っぽく見えるから不思議だ。うるさい店内の音と必死でコインを投入しているのにも関わらず、なかなか山が崩れないストレスで私の表情が強張っていたのだろう。

 父が近寄ってきた。

姉もチラチラこちらを見て気にかけてくれている。

 私の方を見て「なかなか落ちないな」と父が言った。見ているだけなのもストレスだったのだろう。

「貸してみなさい」

と言われ、バケツに入っているコイン全て父に渡した。


..何故だろう。

 父に任せれば、全て上手くいくそんな気がした。

学校の勉強だって知らないことは今まで一つもなかった。すぐに熱くなり、怒ると怖い父でも家族全員が信頼をしているのだ。

 父が、物凄い勢いでコインを流し込む。

既に引き出しにある小さな山程度のコインをこちらもを使っているはずだ。なんで落ちない?

 感情が高ぶった父が機械を思い切り殴った瞬間。すぐ下のポケットから、大量のコインが出てきた。

機械に設置していたランプが、物凄い音を上げながら光りだした。 


 遠くから時折、こちらの様子を見ていた姉の顔色が悪くなり目が点になっている。

状況を把握したのだろう。

背を向けて少しずつ遠ざかり他人のフリをしている。

 



警備員が数名、慌てた様子でこちらへ向かっている。

 みんなで捕まるんだと思った。小学生も犯罪者になるのだろうか。

普段は人に涙をみせない、道徳やマナーを重んじる頑固一徹の父が目の前で警備員に連れて行かれている..

 小学校低学年であった自分には、かなり衝撃的な場面だ。

警備員に事務所らしき場所へ連れて行かれる父をチラっと見た。

こちらに気が付き、いたずらっぽくニヤッと笑った。

 父のような人とは絶対に結婚しない。

そう心に決めた。

父は事務所に連行されたのち、厳重注意で帰らされたそうです。

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