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ジェモロジストは交差点には踏み込まない

作者: SSKK

「貴女はーー」

 時は二つの道が交差する、ほんの少し前。


 ◇◇◇


「やはり、来ませんね」

 朝はいつも溜め息との作業。


 やるべき事は沢山あるのに。

 現れない店主(雇い主)に、呆れている暇も無いのですが。


(そろそろーー)


「お届けです」

 閉じたドアの隙間を縫い、真っ先に声が入店する。

 定時の配達。お疲れ様です。


 時間は厳守(こうあるべき)。常は不快な地鳴り声も、まるで鈴の音の(こころよ)ささえ感じーー


「!」

(声が、女性(違う)?)

 取引先のいつもの(無遠慮かつ大柄の)男性が手持ちする筈、なのに。


「父に急用が出来て、((わたし)が)代わりに」


「ああ」

 そう言えば娘がいると聞いた気がします。今年十八(私より二つ上)だとか。半分聞き流していたので忘れていました。


 父親(筋骨隆々)と似ても似つかぬ華奢な体躯。でも年上。そんな事よりーー


「お一人ですか、宝石(ジュエリー)ですよ? 些か無用心と思いますが」


「大丈夫。脚力には自信あるし。それに、君も……」


「何か」


「あっ、ううん。何でもない」


 何でも無くないと、顔に書いてあります。


 年下(こども)が貴金属の番など物騒だ。そう言いたいのでしょう。

 視線を向けたら口を(つぐ)みましたが。


「そ、それ。綺麗だね! カラフルで(キャンディ)みたい」


 逃げ道を求めますか。まあ良いでしょう。では少し説明を。


「総称をトルマリンと。色ごとに名があり、単色のみならず二色(バイカラー)三色(トリカラー)の多様なーー」


ウォーターメロン(美味しそうな名前)


 ……聞いていませんね。少々注意力散漫なようです。年上なのに。


 "ぐぅぅ。"


(……これは)


「ーーっ!!」


 聞こえないふりをして差し上げたいところですが。

 取り乱されては、気付いていない体裁は保てません。


 "急いでたから"


 鳴った音より余程小さな音量(言い訳)ですね。


「どうぞ、上がってください」

 お茶を所望されるのは父親(いつも)で慣れていますし。


()()のパイやスープで良ければ、お出ししますので」


「そんな、迷惑は……」


()の手製では不服だと。味は保証出来ますよ」


「えっ……寧ろ食べてみたい。ですけど」


「ではどうぞ」


 宝石に(はしゃ)いだかと思えば、鳴ったお腹を恥ずかしそうに。忙しない人です。年上と思えない。


(だからでしょうか)

 異性に、手料理など振る舞ったことは無いのに。


 "忙しいのに、ごめんね"

 "いえ。残りは店主(遅刻の常習者)の仕事です"

 "あと、ハーキーマ君(あいつ)は顔だけで売れるって、お父さんが"

 "(次からお茶は止めにします)"

 "内面も素敵なのにね"

 "な……っ、本当に宝石(トルマリン)みたいな人ですね"

 "真鈴(まりん)だから?"

 "……深い意味は、ありませんが"


 歓談中。過るルベライト(濃いピンクトルマリン)に染まる頬。石言葉(無邪気な愛……)の説明は、またにします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冷静沈着な貴金属番が無邪気な取引先のお嬢さんに振り回されるお話ですね。 続きが気になります! 説明単語にルビを振って読みやすくするの、面白い手法です。自分も使ってみたいです。
2021/12/25 16:17 退会済み
管理
[一言] キターッ♪───O(≧∇≦)O────♪✨✨ めっちゃステキなお話になってるー! すごく嬉しいクリスマスプレゼントです!!
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