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カスミと累②~ロックストーン編①~

 累が目を覚ましたとき、すでに唄と夢恵は部屋にいなかった。

「あいつ、オレを眠らせやがって」

 昨夜、一緒に部屋に入ってからの記憶が累にはなかった。

 累は白シャツを綺麗なものに替え、荷物をまとめた。

「もう、起きてるかな」

 内線で201にかける。数回、電子音が鳴ってからカスミは出た。

「もしもし」

「カスミちゃん、おはよう。もう、出れるか?」

「はい。少し前に起きたので」

「じゃあ、三分後に部屋を出てきて」

 累は受話器をおき、忘れ物がないのを確認して、部屋をでた。カスミもちょうど三分後ぐらいに出てきた。

「ルイさん、おはようございます。ウタさんは?」

「あいつ、用事ができてしまって先行っちゃったよ。安心しろ、ロックストーンまではオレが連れていってやる」

 累は自信満々な顔をしたが、内心では二つの不安があった。

 一つは、刺客に襲われたらどうしようか、というものだ。夢恵の雇い主が、カスミを殺すことにを目的とした場合に、どれだけの刺客を用意してくるのか。そして、それを自分一人で相手できるのか、という心配だ。

 もう一つは、おそらく的中しているが、カスミが唄に会いたがるだろう、というもの。彼女は事情を全く知らず、彼は事情を話さない方がいいと考えていた。だからこそ、カスミがすんなりとロックストーンへと帰ってくれるか、心配だったのだ。

「用事ですか?あとで合流するとかでもないのですか?」 

 カスミは悲しい目をしている。

「そんなに悲しまないでよ。オレだって、言ったけどさ。あいつ、ひどいやつだよな。今度、行くように言っとくから」

 なんとかなだめようとする累。

「いいんです。すいません。そもそも私が勝手に頼んだことですから。それより、ルイさんは大丈夫なのですか?」

「オレは大丈夫だよ。ちょうど、ロックストーンに情報仕入れに行こうと思っていたし」

「それはちょうどよかったですね」

 カスミは笑った。それが無理に作った笑顔だったとしても、累は安心した。

 ホテルを出た二人はまっすぐ街の門へ向かった。

「グレイブリッジは楽しかったか?」

「はい。また来たいです」

「それはよかった。また来たときは、オレにも会いに来てくれよ」

「どこに行ったら会えるんです?」

「あのうどん屋さんかな」

 累は周囲に警戒しているが、今のところ二人をつけてきている人間はいない。

「あそこ、そんなによく行くんですか?」

「結構行くな。あの近くで情報のやり取りしているし」

 草花が生い茂る道を二人は行く。

「私、ここで草の輪を渡したんですよ」

「告白したのか?」

「どうしてそうなるんですか?ルイさんにも作ってあげようと思ったのに、もう作りません」

 そっぽを向くカスミ。紅潮しているのは、怒りのせいか、恥じらいのせいか。

「そんな怒らないでよ。まあ、あいつは草の輪とか似合いそうだもんな。オレは似合わないからいいや。それより、カスミちゃんの話をなにか聞かせてよ」

「私の話ですか?うーん……」

「カスミちゃんって生まれは洋の地なの?」

 累はずっと気になっていたことを聞いた。カスミという名前の響きは和の地のイメージが強いからだ。

「洋の地ですよ。でも、お母さんが和の地の人なんです。だから、カスミって名前なんじゃないですか?」

 カスミはその質問をぶつけられる理由はわかっていた。昔からよく聞かれることだったのだ。

「そっか。お父さんとお母さんはどうやって知り合ったの?」

「お母さんはもともと、和の地の着物を作る大きな会社の家の人だったらしいのですが、家族内での争いから逃げて洋の地へ来たんだそうです。行く当てもないお母さんは、ただただ船を乗り継ぎ、ついに疲れはてて眠ってしまったのが、この先にある大きな木の根元だったそうです」

 それは、グリーンロードの中間辺りに生える大木のことである。

「大分、遠いところまで来たようだな。一人で大変だったろうに」

 和の地からここまで来るには、いくつもの船を乗り継がなければいけない。

「ロックストーンで商人をしていた父は、品を仕入れるためにグレイブリッジへ向かっている途中、倒れている母を発見。それが、二人の出会いだって聞きました」

「お母さん、なかなか苦労をしているな」

 グリーンロードの下を流れる川は、日の光を反射して輝いている。その上に一隻の船が流れている。船漕ぎは一人。

 そして袈裟を着て笠を被った男が一人、舟の上にたっている。その手に何か光るものを持ち、川の流れる方をまっすぐ見つめている。

「カスミちゃん、ちょっと走るよ」

 カスミの手を握り、累は走りだす。

 しばらく走った二人は、大木のところまできていた。

「はぁはぁ、なんなんですか?」

 二人は息を切らしている。

「ごめん。蜂がいて。苦手なんだ」

 苦しい言い訳で誤魔化そうとする累。

「え?蜂でこんなに走ったんですか?」

 思わぬ理由に、カスミは吹いて笑った。

「ごめんって。こわかったんだよ。さあ、行こうか。ってごめん」

 累はカスミの手を離した。

「オレでごめんな」

「時々いじるのやめてくださいよ」

 笑いながらも、少し寂しそうな顔をするカスミ。

「そうだな、行こうか」

 二人はしばらく歩き、ついにロックストーンへと到着した。門を通るとまず、商店街がある。ロックストーンとグレイブリッジは、ほとんど同じ造りをしている。というか、洋の地の都市の多くは、ほぼ同じである。

「それじゃあ、またな」

「もうですか? お母さんに会ってくれないのですか?」

「娘が、こんな怪しい男つれてきたら、お母さん心配するぞ。今日一日はここにいるし、またあいつ連れてでも、来るからさ」

「そう……ですよね。ありがとうございました」

 カスミは頭を一度下げ、住宅地へと向かった。

「おいおい、あんな少女をどこで引っ掻けたんだ?」

 累に声をかけてきたのは、同業者だ。

「そんなことどうでもいい。袈裟着た野郎、中華のドレス着た少女、二人の暗殺者の情報を集めたい」

 累は煙草に火をつけてくわえた。

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