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カスミと累

「ごめんな、こんな質素なホテルで」

「いえいえ、それよりもいいのですか?薬も部屋代も全部だしてもらって……」 

「薬は唄が出したんだろ。部屋代はいいんだよ。気にするなよ。それより、よかったな。エルさんに会えて」

 カスミと累は今、ホテル街にある簡素ホテルの一室にいる。唄は今、仕事あんさつに出ている。

 薬屋のエルに、三人は会うことができた。唄は怪しい人間ではないか、と疑っていたが決してそんなことはなかった。実際に「エル」というのは本名だった。カスミが、偽っていると思っていただけなのだ。

 エルから無事、薬を買うことができた三人は、一晩泊まる場所を探し、ここまで来ていたのだ。唄は、ホテルが決まり次第すぐに姿を消した。

「お二人のお陰です」

「ところで、部屋は違うにしても、怖くないのか?大人の男二人とずっと一緒だし」

「唄お兄さんも、累お兄さんも、優しい人だって信じてますから。死んだお父さんが言ってたんです。目を見ればいいって」

「そうなのか。カスミちゃん、もう眠たい?眠かったらもうオレは自分の部屋に戻るけど」

「疲れましたけど、寝れるかどうかわからないです」

「そうか、それなら、もう少しここで話しておこうか。唄のこと、色々と聞かしてあげるよ」

 累は窓際に置かれた椅子に座る。カスミはベッドに腰を下ろしている。

「まあ、とは言ってもオレは情報屋だ。カスミちゃんに唄の情報を売るには、こちらもなにか貰わなければいけない」

 突然、鋭い目付きでカスミを睨み始めた累。

「代償……ですか?お金……?」

 累の態度が急変したことに、少し怯え始めたカスミ。

「情報を、金で簡単に買えるなんて思ったらダメだよ。情報は情報で買うものさ」

「私……」

「ハハハ、冗談だよ」

 累の顔に笑顔が戻った。

「ごめんよ、怖がらせちゃって。君が怖がったらどんな顔をするか、見たくなっちゃってさ」

「ひどいですよ……」

 カスミの肩の力が抜けていく。ベッドに倒れこんだ。

「君は警戒心がないね」

 胸ポケットから煙草を取り出した。

「ここ喫煙可の部屋ですか?」

「知らない」

「ルイお兄さんって、ウタお兄さんと全然違うタイプ(種類)ですよね」

「まぁね。カスミちゃんは、ウタがタイプ(好み)でしょ?」

「え?」 

 慌てて顔を手で隠すカスミ。

「あいつ、イケメンだもんね。でも、オレはあいつのタイプ《好み》、分からないな。そんなにいつも、一緒にいるわけではないし。あいつがここ(グレイブリッジ)に来た時は、大体会うけどな」

「お二人はどういう関係ですか?」

「話をそらそうとしてる?いいや。君の好きな人の話を聞かせてあげるよ」

「好きとかではないです!かっこいいと思っただけです」

 カスミは起き上がって必死に否定しようとする。それを見て笑う累。

「否定すればするほど、だぜ。オレとあいつは大した関係じゃない。ただ、たまに会ったときに話すやつだ」

「そんな風には見えませんけど」

「オレがこういう人間だからじゃないか?あいつは、人と関わりを持とうとはあまりしないから、最初は大変だったよ」

 累は口から大きく煙を吐いた。

「初めて会ったのは?」 

「あいつが人探しをしていて、オレが情報屋として情報を売ったときかな……?何年前だろうか、忘れた」

「そう言えば、お兄さんたちはいくつなんですか?」

 質問しながら、カスミは冷房の温度を調節するために立ち上がった。

「ちょっと寒かったか?」

 カスミは腕をさすっている。

「下げすぎちゃいましたね」

「外は暑かったからな。で、歳か。オレは二十六だ。ウタは……同じくらいじゃない?」

 累はドアの方を見つめている。

「そうなんですね……」

「ごめん、オレ眠たくなった。部屋戻っていい?」

「もうですか?」

 カスミは寂しそうな顔をしている。

「ごめんな。オレも本当は色々教えてあげたかったんだけどな。そうだ、一つあいつの秘密を教えてやるよ。耳を貸して」

 累は温度を調節しているカスミの顔に、自分の顔を近づけた。

「実は……」

「ふふふ、そうだったんですか」

 カスミも累も笑っている。

「オレが教えたこと、言ったらダメだよ。それと、ウタかオレ以外、誰が来ても開けるなよ。部屋から出るときは内線で202に掛けるように」

 累は釘を刺して部屋を出た。 

「はぁ、行っちゃった。ほんと、今日一日変わったことばかり起こってるな」

 鞄のなかから、唄が買ってくれたおむすびを取り出し、カスミは食べ始めた。

「ウタさん、食べるものが和の人だな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 201の部屋を出た累は、廊下に人がいないことを確認して、隣の202の部屋に入った。唄の部屋は205、カスミの部屋の廊下を挟んだ向かい側になっている。

 累が部屋に入ると、206の部屋、唄の隣から何者かが出てきた。黒い生地に紫の花がいくつか描かれ、スリットの入ったドレスを身に付けている。髪は左右で団子に結ばれており、それぞれに簪が刺さっている

 その人物は201の前でしゃがみ、髪飾りに右手を当てた。が、その手を誰かに掴まれる。すぐさま、左手を足下へ持っていこうとするも、その手も掴まれる。両手を紐で縛られてしまった。抵抗しようとするが、腕と服を引っ張られ、202の部屋に連れ込まれた。

「今日はついてるな。美少女に、二人にも出会えるなんて」

 累は先程の人物から、武器をすべて取り上げてベッドの上に並べている。小型ナイフが三本、かんざしが二つ。

 少女は体と腕、そして両足を縄で縛りつけられている。

「お前、一丁前に武器だけは揃えているな。でも、腕はど素人だ」

 捕まっているのは、カスミと同じ年ぐらいの少女のようだった。少女は口を開こうとしない。

「まぁ、あんたの話は耳には入っているけどな。中華の地からやって来たであろう、暗殺者がいるって話を」

 中華の地とは、和の地と洋の地の中間辺りにあり、洋の地とは同じ大陸上にある。

 累は少女のあごに触れている。

「オレがいて、あの子に手出せると思ったのが間違いだ。そして、その格好。目立つぞ」

「ウタの方が、目立つ」

 少女はそれだけをはっきりと言った。

「まぁ、そうだな。で、誰からの指令だ?」

 累は煙草に火をつけた。

「ここ、禁煙」

 少女はまた、はっきりと言った。

「それで?別にここ、煙探知機も正常に動作してないだろ。お前、口を割らない気なんだな。まぁ、いいか。ウタが来るまでこのままにしておこうか」

 少女はただ、累を睨んでいる。

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