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情報屋 累

「やっぱりこういうところは、どこでも人がいっぱいなんですね!」

 グレイブリッジにたどり着いた、カスミと唄は商店街に来ていた。道の両側に様々な店が、ずらりと並んでいる。ここには上級から下級まで、すべての人間が物を求めてやって来ており、賑わいの絶えることがない。

「商店街とは、どんなところでも人が集まるものです」

「どこにいるんだろう、エルさん」

「エルさん?薬屋さんのことですか?」

「あの人、本名教えてくれないんですよ」

 目を凝らして必死に探そうとするカスミ。

「なにか、秘密の仕事でもしていらっしゃるのかもしれませんね。さて、どうしましょうか……」

 そのとき、どこからかお腹の虫の鳴き声がした。

 カスミは、お腹を押さえて恥ずかしそうにしている。

「お腹空きましたよね。もう、お昼の時間も過ぎてしまってますし。うどん、食べれますか?」

 先程までの場所に比べて、少し落ち着いた雰囲気の場所に、唄はカスミをつれてきた。

「ここに、僕の行きつけの店がありまして。静かでいいのですが、時々騒ぎ事があるので僕からあまり離れないようにしてください」

「おう、ウタさんじゃないか」

 ある屋台から、店主の呼ぶ声が聞こえてくる。そこにいたのは、その太い声に似合った体つきのをした、大男と呼ぶにふさわしい男性だった。頭には白いタオルを巻いている。

「どうも、お久しぶりです。ここ(グレイブリッジ)に来たら、やはりここで食べたくなります」

 唄は親しげに店主と話しながら、屋台へ入る。その横にカスミもついていく。

「あんたは、嬉しいこと言ってくれるね。おや、このお嬢ちゃんは誰だい?まさか、彼女さんか?」

 店主は物珍しそうな目をカスミに向けた。

「私、カスミです。お兄さんには用心棒してもらってます」

「ほう、そうかい!見かけたことないけど、どこの人だい?」

「ロックストーンです」

「そうかそうか、よろしくな。俺はタケだ。和の地からこっちに来て、うどん屋をやっているんだよ」

 タケと名乗った店主は右手を差し出した。それに応えてカスミはその手を握った。

「よろしくお願いします」

「堂々としてるね!ウタさんりも、よほど強そうだけどな」

「私、優しい人だって思えたら、堂々とできるんです。でも、悪そうな人の前だと怖じけついてしまうんです。それに、お兄さんすごく強いんですよ!私を追いかけてきた賊三人を、一瞬で気絶させたんです」

「そうなのか、それはすごいな! まぁ、でもこいつともう一人、よく来てくれるやつがいるんだけどな、ここで柄の悪いやつらが暴れ始めたときに、どちらかがいれば、すぐに騒ぎが収まるんだよ」

 会話に夢中で店主の手は止まっていた。

「店主、そろそろ、うどんをつくってもらっていいですか?」

「ああ、すまないね」

「ふざけんなよ、こら!」

 突然、叫び声が聞こえた。そちらに目をやると、金髪のチンピラが地に倒れている女性を見下ろしていた。

「どこ見て歩いてるんだよ。ぶつかってきやがって。代償は払ってもらうぞ。千万だ!無理なら一緒に来い!」

 金髪男は女性の腕をつかみ、無理矢理に起き上がらせようとする。

 唄はそれをじっと見ている。

「おい、ウタさん。助けてやらないと」

 小さな声で店主が話しかけるが、決して動じない唄。

「すいません。すいません」

 謝り続ける女性を立ち上がらせて腕を引っ張り、チンピラが歩き出そうとしたときだった。

「ちょっといいか?」

 白シャツに黒いベストを羽織い、黒パンツを履いた白髪の高身長イケメンが現れた。

「なんだ?俺に話しかけるなんて、いい度胸して……」

 チンピラは言い終わらないうちに、腹を一発殴られて崩れた。

「くそ……」

「早くどっか行った方がいいぜ。オレは殺さないけど、あっちの和服の人が殺してしまうかもしれない」

 白髪の男は唄の方を指した。

「くっ、あれは……」

「よかった。知ってるみたいだ。それなら説明は要らないな。早く消えろ」

 金髪男は醜態をつきながら、腹を抱えて逃げていった。

「怪我はないか」

「あの、ありがとうございます」

「いいから、早くこんなとこから抜けな。ここは人通り少なくて、柄悪いから」

 女性は何度も男に頭を下げながら、走り去った。

「さてと、久しぶりだな、唄」

るい、お久しぶりです」

 唄に累と呼ばれた男は、屋台へと近づいてきた。

「元気にしてたか、まだそんな格好してるのか。タケさん、こんにちは。俺もうどんひとつ。あれ?珍しく女性の客もいるじゃないか」

「おう、ルイ。何が珍しくだよ。でもな、珍しいことなんだよ。このウタさんがつれてきたんだよ。嬢ちゃん、これがさっき言ってたもう一人の強いやつだ」

「お兄さん、かっこよかったです。はじめまして、私はカスミです。ウタさんに用心棒をしてもらってます」

 カスミは累に怯えている様子はない。優しい人だと判断したということだ。

「オレは累。お嬢さん、ちょっとごめんな」

 累は唄を屋台の外に引っ張り出した。

「お前、どういうつもりなんだ?あの子は誰なんだ」

 少し離れたところで、屋台に背を向けて唄の胸ぐらを掴む累。 

「それは仕事として聞いてますか?」

 詩は首をかしげる。白いきれいなうなじがみえる。

「こんなところでとぼけなくていい。彼女にはなんて言ってるんだ。吟遊詩人か?」

「ええ」

「それで用心棒ってどういうことだよ」

 しつこく聞く累に、唄はこれまでの経緯いきさつを話した。

「それでなんで、オッケーするんだよ。本当は暗殺者だってバレたらどうするんだ?」

 できる限り小さな声で、カスミに聞こえないように唄の耳元で話す累。

「僕は彼女を殺すつもりはありません。今晩、仕事があるので、その間は彼女の面倒見てもらえますか?」

「少女の用心棒の合間に暗殺する吟遊詩人だなんて、忙しいやつだな」

「もう、仕方ないことでしょう?」

「まあ、そうだけど。オレだってきっと同じ立場でも放っておけないだろうからな。特にあんなに可愛い子は」

 累は目線を後ろに移す。カスミは店主と楽しそうに話している。

「戻りましょうよ。彼女もうどんも待ってますよ」

 二人は屋台の中に戻った。

「すまないな。久しぶりの再会だったから、聞きたいこととかがあって」

「いいですよ。累お兄さんは、どんな仕事をしているのですか?」 

 累の話を聞こうと、体の向きを変えるカスミ。邪魔になった髪を耳にかけ直す。

「オレは情報屋だよ」

「ほんとにいたんですね!?今日は会ってみたかった人にたくさん会えて、嬉しいです」

 カスミは目を輝かせている。

「情報屋なんて、そんな会って嬉しいことないと思うけどな」

「お嬢ちゃん、うどん食べれるか?」

「はい、美味しいです。これがはじめてなんて、もったいなかったです」

「そうだろ、でもはじめてがうちのうどんなら、もう他は食べられないかもな」

()すぐらい ()ちにかがやく ()のちかな」

 三人の会話が弾むなか、唄はうどんに集中していた。

「美味しかった」

 食べ終えた三人は店主に別れを告げ、屋台を出る。

「日が沈みきる前に、エルさんを探しましょうか」

「オレの情報によると、ロックストーンからこっちに来た薬屋さんは、ホテル街と商店街の境目付近で商売しているはずだ」

「そんなことまで、知ってるんですね」

 カスミは感心している。

「ホテル街に近いのは嬉しいですね。早速向かいましょう」   

 陽が沈み、段々と空は暗くなり始めていた。

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