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カスミの事情

「お母さんが病気なんです。内蔵が悪いらしくて」

 草を拾っては繋げていき、輪を作っているカスミ。

「それで、薬が切れてしまったのですが、ロックストーンでは買えなくて……まだあると思っていたら、私の勘違いでなくなってしまっていたんです」

「その薬を買いにグレイブリッジに行くのですね。しかしまたどうしてあなたが一人で?お父さんとか他の家族はいないのですか?」

 唄の言葉にカスミの手が、一瞬止まる。

「あっ、すいません。事情がおありなんですね。お話ししたくなかったらいいですよ」

「お父さんは三年前、私が十五歳の時に殺されました。まだ元気だった母と私で、外を出歩いていたときです。留守だと思って盗みに入った盗賊に、殺されてしまいました。私が住むのは、中級住宅ですが、下級住宅地に隣接していて、治安が結構悪いのです」

 住宅地は位が三級に別れている。下級住宅地は最も下で、夜になればネズミが、我が物顔で道を走っている。貧困層、もしくは身を隠しているならず者たちが暮らしている。逆に上級住宅地には金持ちが暮らし、真夜中でも絶えず光が灯っている。道は整備され、高級車が速度を競うかのように走っている。中級はその中間、いわゆる一般人が暮らしている。

()ちにかえり ()いせをいきる ()のちかな」

「え?」

「いえ、つらい(・・・)ですね」

「はい。つらいです。その犯人はいまだに見つかってないです。盗みなんて頻繁に起こるんですよ」

「そうですか……それでは今、家にはお母さんだけがいるんですか?」

「はい。でも、近くに住むお父さんのお兄さんが様子を見に来る、といってました」

「この三年間ずっと薬を買うときは、あなたが一人でこの道を?」

 唄は腕を組み、扇子の先を額に当てて持ち手をコツコツと叩いている。これは、唄の癖なのだろう。 

「いえ、優しい薬屋さんがいるんです。普段はロックストーンにいるんですが、今はグレイブリッジに行ってしまっていて。その人は安く売ってくれて……」

「つまり、普通に買うお金はないのですね」

「はい……というか、他はどこもひどく高いんですよね」

 悲しげにカスミは笑った。誰もがかかるような病気の薬の値段は、ある程度決まっている。しかし、特別な病気で普段は手にしないような薬の値段は、ばらつきがある。一般市民には到底払えないような金額を請求するところもあるのだ。

「変なことを聞いてしまい、すいませんね。こんな暗い話ばかりは止めましょう。その、草輪を早く作ってくださいよ」

 唄は扇子で草輪を指した。

「そうですよね。もうすぐできますよ」

 カスミは器用に両端を結び、小さな草輪を完成させた。それを、唄の頭の上に乗せようと背伸びする。しかし、届かない。

「お兄さん、背高すぎます」

「僕にそれは、似合わないのでは?」

「そんな、こんな草輪が似合いそうなお兄さんいないですよ」

「本当ですか?そこまで言うなら、貸してください」

 立ち止まって、カスミから草輪を受け取り、自分の頭の上にのせる唄。

「どうでしょうか?」

「どうでしょうって……かわいいです!」

 カスミは嬉しそうに笑った。

「かわいいのなら、これはあなたの方が似合うのでは?」

 唄が草輪を返そうとする。

 すると、カスミはそっぽを向いた。

「お兄さんのために作ったのに」

「そうですか。それなら僕が持っておくべきですね。ありがとうございます」

 左のたもとへ、その草輪を入れた。

「大切にしてくださいね。そういえば、お兄さんって何歳なんですか?」

 二人はまた、歩き始めた。カスミは少し、唄の先を行く。

「生まれてから二十年は経ってると思いますよ」

「どういうことです?」

 カスミは歩きながら振り向いた。

「そのままの意味ですよ。ちゃんと前を向いて……危ない!」

 つまずいてこけそうになったカスミの手をつかみ、唄は引っ張った。

「ほら、危うく怪我するところでしたよ」

「ありがとうございます」

 そう言いながら、カスミは手をほどいてさらに距離を離した。その頬は少し赤らんでいる。

「見えてきましたよ。グレイブリッジが」

 カスミの行動に何か気にしている様子もなく、扇子で少し先を指す唄。

 二人の最初の目的地、グレイブリッジの門がそこにはあった。

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