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始まり

「え?吟遊詩人なんですか!?」

 カスミは目を大きく輝かせた。

「私、会ってみたかったんです!何か聞かせてください!」

 カスミはとても興奮しているようすだ。

()げさがし ()みにめをむけ ()つめてる」

 扇子で口元を隠しながら、うたは静かに言い放った。

「どういう意味を表してるのですか?」

「それは君の感じたままでいいんですよ」

 唄はカスミに背を向けて大木へと戻り始めた。

「そんなこと言われてもわからないですよ。そういえば一つ聞きたかったのですが、吟遊詩人さんはどうやってお金を稼いでるのですか?」

 カスミは唄の後ろをついていく。

「その日暮らしの生活ですよ。街で雑用を探し、それをやってお金をもらうんです」

「ふむふむ。今日の仕事はもう決まってるのですか?」

「これからグレイブリッジで人探しをするんです」

「お兄さんも、今からグレイブリッジに行くんですか?」

 カスミは唄の前に飛び出し、顔を覗きこんだ。

「まぁ、そうですけど」

「もしよかったら、私と一緒に行ってくれませんか?私、一人じゃ怖くて」

 目線を下げ、カスミは怖がっている様子を見せた。

「それは、僕を用心棒として雇いたいってことですか?」

 扇いでいた扇子を片手で閉じる唄。

「はい!そういうことです。お兄さん、とっても強かったし………」

 唄は腕を組み、閉じた扇子の先を額に当てて人差し指で持ち手をコツコツと叩いた。

「それで、お金はどうするんです?」

「えっと、それはお母さんのところに行ければ返せます」

「お母さんは、グレイブリッジに住んでいるのですか?」

 姿勢を低くして、少女と目を合わせようとする唄。

「ロックストーンです」

 カスミは目をそらした。

「そうですか。そう言えば、あなたはなぜグレイブリッジへ?」

「それは、お母さんが……」

「歩きながら話してもらってもいいですか?夕方までにはグレイブリッジに着きたいのです」

 振り返ることもなく唄は進み、大木の下に置いてあった巾着を拾い上げた。それは、青と白の市松模様になっている。

「あっ、はい!」

 唄に追いつくように小走りするカスミ。

「でも、お金はいいのですか?」

「それは、まぁあとで考えましょう。それよりもゆっくりお話しながら、早くいきましょう」

「ええ、どっちですか?」 

「まぁ、いいから行きましょう」

「お兄さん、その模様好きなんですね」

「ええ、和っぽいでしょう?」

「その巾着の中に、何入ってるんですか?」

「替えの着物、とかですよ」

「今日は何の仕事をするんですか?」

「人探しと、おしゃべりな少女の用心棒です」

 少し意気地の悪そうな顔をして唄はカスミの顔をみた。

 カスミは顔を赤らめた。

「おしゃべりですよね……お母さんにもよく言われます」

「そうそう、あなたのお母さんの話でしたっけ?あなたがどうしてグレイブリッジに向かうのかを聞かないといけなかったんですよね」

「ああ、そうでした! すいません。私、自分が話さないといけないのに、お兄さんに聞いてばっかりで」

「まぁ、いいですよ。着くまで、まだまだありますから。それにしても今日は日差しが強いですね」

 唄は手で顔を覆うようにしながら、空を見上げた。その隣でカスミも同じしぐさをする。

 こうして、謎多き吟遊詩人とおしゃべりな少女は出会い、共に大都市グレイブリッジへと行くことになった。 

 この出会いが二人の運命を大きく変えることになるとは、まだだれも知るよしもなかった。

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