出会い
川のせせらぎ、鳥のさえずり、木々が風に揺れる音までもが聞こえる。
ここは、大きな川に隔たれた二つの都市ロックストーンとグレイブリッジを結ぶグリーンロード。
人に溢れ、喧騒に包まれた二つの大都市を結ぶこの道は、対称的に自然に溢れている。
グリーンロードの中間辺りに位置する場所に、一本の大木が生えている。
その根本に、青と白の市松模様の着物を身に纏った男が一人座っている。年齢は二十代後半ぐらいだろうか。
背丈は170ぐらいありそうで、これほど和装が似合う人間がいるのか、と思わされるような顔立ちをしており、まさに和を象徴するイケメンである。
「あさひさす つかれたかおに いたずらを」
その男の周りの時間はのんびりと流れているかのようだ。
しかし、そのような時の流れと言うのはいつまでも続くものではない。
ロックストーンに続く方向から一人の少女が走ってきた。小柄で身長が150ほどで、丈の長い薄桃色で花柄のワンピースを着ている。黒く長い髪は結ぶことなく下ろされており、後ろになびいている。
少女は何かから逃げるように、その美しい顔に恐怖を表して走っている。よくみると、その後ろから薄ぼろい服を着た三人の賊が彼女を追いかけているようだ。
着物の男はそれらをしばらく眺めていた。が、おもむろに立ち上がってはその四人に向かって歩き始めた。
「助けてください」
少女は彼を視界にとらえると叫んだ。
「待ちやがれ」
三人の賊は少女だけを見ているようで、男に気づかない。
だから、いつの間にか賊と少女との間に出された、男の足にひっかかって盛大にこけた。
「くそ、なんだ」
転んだ賊たちが顔を挙げると、着物を着た男と目があった。
「ふん、なんだその格好は?」
賊たちは、体勢を整えて起き上がり男を罵った。
「お前なんかこうしてやら」
賊の一人が持っていたこん棒で殴りかかったが、既にそこに男はおらず三人の背後に立っていた。
「あの少女はあなたたちの何ですか?」
男は扇子で少女を指した。
「ふん、俺たちのテリトリーに入ってきたから入場料を頂こうとした…」
「かぜがふく すぎてのちきづく めにみえず」
男は賊の首を扇子で順にたたき、三人は気絶した。
「お兄さん、すごい!」
賊たちが動かないとわかると、少女が男に近づいてきた。
「私、カスミです」
「僕は唄。怪我はないですか?」
「はい! 私、ロックストーンから歩いてきたんです。で、途中で疲れて休憩してたんです。でも、気づいたらあの人たちに囲まれそうになって必死に逃げてたんです」
カスミはベラベラとしゃべった。
「そうですか。ここからグレイブリッジに行くのですか?」
唄の声はとても優しく、人を心地よくさせる音色である。その声からは到底、人を扇子でたたいたりするなどは想像できない。
「はい。失礼ですけど、お兄さんはどうしてそのような格好をしているんですか?ここは洋の地ですが……」
そう、ここは洋の地。唄のしているような格好の人々が暮らすのは和の地。二つはそれぞれ海に隔たれた別の大陸にあり、とても離れているのだ。
唄は少し間を開けてから、片手で扇子を開いて答えた。
「僕は吟遊詩人なんですよ」