表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある新人研修のお話

作者: 蟷螂

居酒屋でふたりの男が昔を懐かしみながら酒を飲み交わしていた。


「ヘッドハンティングでまさかEX社に転職とはね。次の職場でも活躍するだろうな君は。」


「次の会社でも頑張って成績を上げていくよ。」


「君だったら次の職場でも出世していくだろうね。しかし、あの研修を受けてからちょうど10年か。」


「そうだね、あの新人研修を受けて僕の指針は決まったからね。」




マンションの相部屋に新人の男がふたりいた。


ひとりは背が低めでややずんぐりしていた。名を磐田という。


もう一人は長身痩躯でイケメンの部類に入るが少しチャラい様子の男で山崎という。


ふたりは採用されたばかりの新人で、売上トップの先輩たちに一週間着いて行き、ビジネスのいろはを教えてもらうという新人研修を受ける予定であった。



指定の時間10分前


扉がバタンと開けられ、身なりのビシッと決まったTheビジネスマンという感じの男性が現れる。この人がおそらく売上トップの先輩なのだろう。


そして


「お前、そのカッコは何だ。ネクタイが曲がっている。そしてそのシャツの歪みは何だ。すぐに洗面台に立って直して来い。」


いきなりまくしたてられ、緊張で体を正す山崎。それを呆然と眺める磐田。


山崎はすぐに洗面台に向かって指摘された箇所を直して戻ってきた。


「よし、少しは見れるカッコになったな。これから研修を行う。ついて来い。」


有無を言わさず、山崎はその先輩に連れて行かれた。



ひとり取り残される磐田。


あれσ(゜∀゜ )オレは?


時計を見ると9時30分、あれから誰も来ない。首を傾げる磐田だった。


さらに時間は経過して10時を過ぎても誰も来ない。これはさすがにおかしいと人事部に問い合わせようとした時、扉がバタンと勢いよく開けられた。


扉から現れたのは、くたびれたカッコのオッサン。ヒゲは伸び放題、髪の毛もアホ毛が出ている、背広はヨレヨレである。


誰?この人。


そしてこう宣うオッサン。


「奇跡だ。」



首を傾げる磐田、もう訳がわからない。しかし、オッサンは言葉を続ける。


「何が奇跡だって?今日僕は寝過ごしたんだ。そして急いでやって来てここに君が待っていた。これは奇跡だよ。」


このオッサンは自分を指導してくれる先輩らしかった。売上トップのビジネスマンらしかった。


背中に嫌な汗が流れるのを感じる磐田であった。


「あ、名乗っていなかったね。僕は敷波って言うんだ。んー、ここで話していても仕方ないね。とりあえずマンションから出ようか。」


そうおっさん改め敷波先輩に言われてマンションから出ることにした。



敷波先輩について行くと少し離れた場所の喫茶店に入る。敷波先輩は中にいた女性店員ににこやかな顔で挨拶をする。


「あ、みきちゃん、ホットコーヒー2つ、とあといつものね。」


程なくしてコーヒーと電動ひげ剃りをトレイに載せたみきちゃんがやって来て、コーヒーをふたりに配り、電動ひげ剃りは敷波先輩の前に置いて去っていった。


敷波先輩は電動ひげ剃りで無精ひげを剃りながらこう言った。


「さて困ったね。実は今日の予定は何も考えてないんだ。」


困ったのは磐田である。これから一週間敷波先輩の後ろについて行って、ビジネスのいろはを教えてもらう予定なんである。


渋面をする磐田の顔を眺めながら、腕を組み考え事をする態度の敷波先輩。


「このまま喫茶店で雑談するのも問題だよね。うーん、ちょっと待ってね。」


敷波先輩はかばんから携帯電話を取り出し、電話を掛ける。


「あ、いつもお世話になっています。H社の敷波です、何か注文とか無いですかね。えっ、ある?わかりました。では今日打ち合わせで13時にそちらにお伺いしていいですか。あ、ついでに新人付いてくるんでよろしくお願いします。」


その後も敷波先輩は2件取引先に電話を掛けて、その場で仕事を取り付けていた。


電話を終えて携帯をかばんに収めて、にこやかな顔で敷波先輩は磐田の顔を見る。


「ほら、もう仕事取れちゃった。不思議だよね。じゃ、今から取引先のところに行ってみるか。」



取引先に行ってみると、取引先の部長と雑談を交わしながら注文の詳細を決め、高額受注を決めていく敷波先輩。それを眺めている磐田。


その後も2件取引先を訪問して仕事を終えた。時計を見ると17時を過ぎたところである。


「今日はこんなもんかな。今日の研修はこれでおしまい。岩田くんお疲れさま。また明日そっちに行くからよろしく。あ、僕はこれから飲みに行くからここで解散ね。」


そういって敷波先輩は歓楽街へと向かっていった。


磐田は敷波先輩と別れてからマンションに戻ることにした。18時過ぎにマンションの相部屋に戻ったものの山崎はまだ戻っていないようだった。


そして磐田は今日起こった事を思い出していた。ああいう生き方ってあるんだ、と。


それから23時過ぎに山崎は戻ってきた。山崎の目は震えていた。


「今日のあの先輩、鈴木さんっていうんだけど、凄いんだ。僕の身なりをビシッとするよう指導した後に、取引先に行ったんだけど、そこで資料を取り出して取引先の人たちにこの商品を導入すればどれだけ生産性が上がるか計算内容も提示していた。取引先の部長さんも関心しきりだったよ。」


山崎の説明は続く。


「会社に帰ったら、取引先から受注した商品の発注手続きをして、明日訪問する取引先に出す資料を作って、もう完璧だった。」


ひたすら感動している山崎だった。


そんな山崎に磐田は声を掛けた。


「それは随分と僕の先輩とは違う趣きの人だね。明日も研修だけど、今日の研修の報告を書いておこうか。」


そして磐田は机に置いてあった、報告書が入った封筒を開けて報告書を取り出した。そして一緒に入っていた書類を見た。


それは誰が新人を研修するかと書かれた書類で、そこには、


鈴木先輩の研修相手、磐田。


敷波先輩の研修相手、山崎。


という内容だった。



無言でその資料を眺めるふたり。


声を出したのは山崎だった。


「僕明日からも鈴木先輩に研修を受けるよ。あの人について行ったら自分を高められると思うんだ。」



それからの一週間、山崎は鈴木先輩から、磐田は敷波先輩から指導を受け、新人研修は終わった。



その後、山崎は売上げトップを誇る営業マンとなり、磐田は光学系開発で世界的な発案を行い、それは今や世界的に使われるガジェットとなっていった。


あれから10年、ふたりはそれぞれの道を歩むことになったのだった。



これは友人のエピソードを覚えている限り書いたもので欠損部分はそれっぽく書いています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ