15話 私は1番になりたかった
橘の件もひと段落して、もうすぐ夏休みとなった。
部室で凛先輩と話すのも久しぶりだ。
「もうすぐ夏休みですね」
「……清輝君はもう怒ってないの?」
「怒ってるわけないでしょ。凛先輩は悪くないです」
「ありがとう。あと、清輝君のことも」
「いいんすよ。振られたからって離れていくわけじゃないですし」
「……これからまた頑張っていくよ」
「?」
意味はよくわからなかったが、凛先輩は気にしないでね、と言ったその時ドアが開いた。
「なんだ、ウミじゃねぇか。どした?」
ドアを開けたのはウミだった。
「実は相談があってさ」
「相談?」
「まぁ相談っていうか悩みなんだけど。いや目標かな。どうしたら私は1番になれる?」
「1番って言うと?」
凛先輩が入ってくる。
「ここからは長くなるけどいい?」
「いいよ」
俺がそういうと、凛先輩もうなずいた。
「私っていつも2番とかなんだよね。運動でも2位だし、勉強でも2位までいったけど1位にはなれなかったからやめた。いつも2番っていうか勝てないんだよね。
いつも平均より上、みたいな」
ウミはさらに言葉を続ける。
「1位になったこともあるよ。けどそしたら意外だの、よく頑張っただの、繰り上げだとかいろいろ言われてさ」
「友達だってそうだよ。親友と呼べる人なんて数少ない。ほとんどは話しやすいまぁまぁ仲良い人でとまってる」
「でも」
「テルだって私は下の方じゃないの。結局、クラとシンの方が大切なんでしょ」
「いやでも……」
俺は言葉に詰まってしまった。
「人間なんてそんなもんだよ。理想的な人なんて1人もいない」
「ウミ……」
「覚えてないでしょ? 実は私さ、昔テルとあったことあるんだよね」
「⁉︎」
全く覚えがなく、驚いた。
「やっぱり覚えてないか。実は小学1年生の時、私凄い暗かったんだよね。その時さ、テルにそんなの楽しいのかーって言われてさ」
「楽しくはないって言ったら、なら明るくなっていこうって言ってくれて……それで今の私はいる」
「まぁ転校しちゃってそれ以降話すことはなかったんだけどね」
「清輝君は昔から優しかったんだね」
凛先輩が言う。
「とりあえず私は1番になりたいのっ! 誰にも負けない最強の1番に!」
「1番にこだわらなくても……」
なんで1番にこだわるのかわからなかったけど、
「あぁもうっ! 私はテルがずっと好きなの! テルの1番に私はなりたいのっ‼︎」
「ウミ……」
俺はこれでわかってしまった。だって俺も昔、そう思ったから。
「誰にも寄って欲しくない。重いって思われるかもしれないけど、クラや凛先輩、それにヒナだって寄って欲しくない」
「いやでも俺今そういうのは」
「今好きな人はいるの?」
「いない」
「だったらいいじゃん……私はテルがずっと好きなんだよ……付き合ってよ」
「ちょっと待って」
凛先輩が入ってきた。
「凛先輩。邪魔しないでください」
「清輝君は私のものって言ったら怒る?」
「ふざけはやめてください」
ウミは本気で怒っているようだった。
「本気、だとは思わないの? あの件は私に間違いがあったってことだし、あの姿をみたら惚れたとは思わないの? ま、あとはご想像にお任せするけど」
その小悪魔的言い方に俺もドキッとしてしまった。
「……」
「結局テルは好きな人、今いないんだからいいじゃんかっ!」
「でも好きじゃないのに付き合うのはない」
「ほら、私は1番になれないんだ」
そう言ってウミはどこかに行ってしまった。
「1番になれないか……私にとってはウミちゃんも1番なんだけどね……私なんかより全然凄いのになぁ」
凛先輩はボソッと外を見ながら小さな声で言った。
最近身体のどこかが痛いたくたくです。
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