勇者召喚の結末
召喚する者を特定出来ないのって怖くないのかね
「これより勇者召喚を行います。」
その宣言とともに魔法使いや騎士の前の床に描かれた魔方陣に魔力が注がれることで魔方陣が光始める。
勇者召喚を行っているのはガノンダ王国という国でこれまで何度も勇者召喚を行ってきた。その理由はガノンダ王国がある世界では魔王と呼ばれる存在が定期的に現れ、世界を滅ぼそうとするかのように破壊活動を行うのである。
魔王の姿、生まれ方は様々であり、時に熊や猪などの動物から生まれることもあり、虫から生まれることもある。最悪人間からすら生まれることもあった。共通しているのはそれぞれの生物が成体と言われる年齢までは通常の生物と同じように成長し、成体になったあと急激に力を増し暴れ始めるということである。
その力は凄まじく、現れ始めた当初は世界中の人間や知恵ある存在であるドラゴンなどの魔物が協力し膨大な数の犠牲を出して討伐していた。
しかしある時ガノンダ王国の前身となる集団が勇者召喚を開発した。召喚された勇者は苦戦しながらも一人で魔王を倒せるほどの成長できる存在であり、召喚されてから数年鍛えるだけで魔王を討伐した。
この偉業に世界中の存在が感謝し、多くの人の協力もありガノンダ王国は誕生した。
それからすでに3000年が過ぎた。魔王は約100年毎に現れることが分かったため勇者召喚は魔王が現れるであろう年の5年前に行われるようになっていた。
召喚された勇者は以前は丁重にもてなされていたが、召喚される勇者は人間で、様々な性格の者がいた。当然酷い性格の者もいた。それに対処するため召喚された勇者には召喚された直後の弱いうちに隷属魔法が使われるようになっていった。
時が過ぎるごとにガノンダ王国は魔王を討伐したあとの隷属させた勇者の力を使い横暴な行動をするようになっていった。しかし魔王を討伐するためには勇者の力が必要なため他の国はガノンダ王国に従うしかなかった。
今回の勇者召喚もガノンダ王国にとっては例年のことであり、いつも通りに行われた。そして召喚された勇者は黒い服を着た男であった。
「隷属魔法をかけよ。」
その場でもっとも高い立場の者の命令により隷属魔法がかけられたが、
バチッという音とともに隷属魔法ははじかれてしまった。
「なっ!?」
「何が起こった!?」
「隷属魔法がはじかれました!」
「馬鹿な!」
周りが騒ぐなか召喚された勇者は周囲を見回すと、おもむろに手を前に伸ばした。すると手の先にいた数人が倒れた。
「なっ!?」
近くのいた人が調べると死んでいるのが分かった。
「死んでる・・・。」
「一体何が。」
勇者は手を伸ばす向きを変える。すると伸ばされた先の人間はどんどん死んでいった。
「勇者に手を向けられると死ぬ」それに気づきパニックが起こった。騎士は勇者を殺そうと後ろから襲いかかったが手を向けられずとも近づくだけで倒れて死んだ。魔法で攻撃しようとしたものも精神を集中させようとしただけで死に、逃げようとした者も手を向けられて死に、一人を除きその場の全員が死んだ。
「何故、なにが。」
残していた一人に勇者は近づいた。
「ひっ!!」
「礼を言う。」
勇者は初めて喋った。
「礼?」
生き残りは訳が分からなかった。
「そう、礼。礼として教えてやる、私は死神だ。」
「死神?」
「お前たちが召喚してくれたおかげて神界からこの世界に来る事ができた。これで思う存分魂を刈り取る事ができる。」
「魂を刈り取る?」
「神界からでは生きている生物から魂を刈り取ることは出来ない、ゆえに死んだ生物の魂を刈り取る事しか出来なかった。」
「何故、そんなことを?」
「それが死神の本能だからだ。お前たち生物が生きるために食べる、生きるために休息として寝る、種の保存のために子を生む、それと同じ私は死神であるゆえの本能で魂を刈り取る、そこに理由も意味もない。」
「・・・。」
生き残りは絶句した。
彼らガノンダ王国の人間は知らなかった。勇者召喚の魔方陣は「魔王を倒せる資質がある者を近い世界から召喚する」効果を持つ物であり、世界は常に動いており「近い世界」は常に変わり続けているということを、「近い世界」には神界さえ含まれていたことを。
勇者召喚の魔方陣はガノンダ王国の秘法であるため当然他国の人間も知らない。ただ3000年もの間何の問題もなかったため安全なものだとおもわれていた。
死神が手伸ばし生き残りも死んだ。
「さあ、この世界の全ての魂を刈り取ろう。」
その後死神は世界中を巡り全ての魂を刈り取っていった。死神の文字通り生物を遥かに上回る感覚から逃れられる存在などおらず、1年も経たないうちにその世界の生物は全て死に絶えた。
死神はその後神界にいた時と同じように死んだ生物の魂を刈り取り続けている。
異世界なんてあったらそれこそどんな常識外の力を持っててもおかしくないと思う